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(第1章最終話):境界線を越えた食卓

 教会の執行官たちが腰を抜かす中、街の中央広場からは巨大な咆哮が響き渡った。高司祭が最後の切り札として召喚した、教会の地下で禁忌の実験を施された人工魔物『審判のキマイラ』だ。

 街の人々や冒険者たちが絶望に打ちひしがれる中、シュウは静かにリィネを横に座らせた。

「ヒ、ヒィッ! くるな、魔物喰いの化け物め! この神の使いに焼き尽くされるがいい!」

 高司祭が叫ぶと同時に、キマイラが猛毒のブレスを吐き散らした。しかし、シュウは避けることすらしない。ステータス10,200。そのあまりに濃密な魔力の膜は、猛毒すらも物理的に弾き返す。

「……リィネ、そこで待ってろ。すぐに終わらせる」

 シュウが地面を蹴った瞬間、石畳が爆ぜ、視界から彼の姿が消えた。直後、キマイラの巨大な頭部が、シュウの拳一つで地面に叩きつけられる。

「ギ、ギャアァ……!?」

「……素材に傷をつけたくないんだ。……動くな」

 シュウの手が、キマイラの首筋を正確に捉えた。かつて錆びたナイフでネズミを捌いていた手つきのまま、巨大な魔物を一瞬で無力化する。暴力的な破壊ではなく、圧倒的な「格の差」による、静かなる制圧。

 かつてシュウを「ゴミスキル」と笑っていた冒険者たちが、その神々しいまでの背中に、ただ呆然と跪いていた。

 キマイラの暴走が止まり、教会の不正が白日の下に晒された。リィネの容疑も完全に晴れ、ギルドマスターが息を切らして駆け寄る。

「シュウ……! すまなかった、我々が君を信じ抜くべきだった……!」

「……いい。俺は、俺のやりたいことをしただけだ。……リィネを助ける、それだけだ」

 シュウのぶっきらぼうな、けれど真っ直ぐな言葉に、リィネは再び涙を溢れさせ、今度は人目を憚らずシュウの腕に縋りついた。

 数日後。ギルド『レムリア』は、英雄の帰還を祝う祝宴の準備で活気づいていた。特等席には、シュウ、リィネ、エレイン、そしてミーニャの四人。

「……シュウ様、これ……。私が心を込めて作った、特製のサラダです」

 リィネが恥ずかしそうに、シュウの口元へフォークを運ぶ。

「……ちょっとリィネ! 私が仕留めた(手伝った)魔物の肉も食べなさいよ! ほら、シュウ、あーん!」

 エレインが負けじと、香草焼きを差し出す。

「……シュウ。……私の尻尾、触っていい。……ご褒美」

 ミーニャは無言でシュウの膝の上に陣取り、その温もりを独占していた。周囲の冒険者たちは、その羨ましすぎる光景を遠巻きに眺めながら、けれど誰もが笑っていた。

「……ったく、あいつには敵わねえな。強さも、女運もよ」

「ああ……。だけど、あいつが食い続ける限り、この街は誰よりも安全だ」

 シュウは、三人に囲まれながら、窓の外に広がる広大な空を見上げた。現在のステータス10,250。

「……ツノネズミを食べていた頃が、懐かしいな」

「……シュウ、次、何食べる?」

「何でもいいわよ、あんたが作るなら、全部食べてあげるから」

「シュウ様……ずっと、お傍にいさせてくださいね」

 かつて孤独に泥を啜っていた少年は、今、愛すべき仲間たちと共に、誰も見たことのない強さの頂へと歩みを進めていく。

 「魔物喰い」の物語は、ここからまた、新しく、そして賑やかな日常へと続いていくのだった。

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