93:旧友再会
「おはよう。よく眠れたかしら?」
夜明けを迎えて目を覚ますといつの間にか隣で寝ていたコーリーが妙な既視感を覚えるいい笑顔で聞いて来た。
「俺が遅番やるから交替の時に起こせと言っておいただろ」
ここはオコナの山道、ドウチの手前のオーエの山小屋である。いろいろ対策はしてあるが野生動物や魔物に襲撃を受ける危険性は村の宿屋とはちがうので交替で当直するはずだった。
「わたしの結界魔法と警報魔法の両方を抜けてくるなんて高位の魔物でもまずいないわよ」
そう言いながら身体を起こすコーリーを見ると冬だというのにずいぶんと薄着でリラックスしていたようだ。俺の方は万一を考えて軟革鎧を着たままだ。
「だいたい隣りに潜り込まれたら目を覚ますはずなんだがな。何かやっただろ?」
「うん、起こしちゃ悪いから軽めに睡眠の魔法をね。よく眠れたでしょ」
「だから起こしていいと言っておいただろうが」
噛み合わない会話をしながら朝食の準備をする。献立は昨日の夕食を残しておいたウサギ肉のスープにウトクで入手していたパンだ。
「このへんのウサギは脂が多いわね。これから本格的な冬だから栄養蓄えてるのかしら」
コーリーが食べながら感想を述べる。ウサギはウトクからここまでの間に狩っていたものだ。
「そうだなあ。確かに前に来たときは夏だったがもっとすっきりしていた気がするな」
俺は一年ちょっと前にここを通ったときのことを思い出しながら答える。あの時はダンジョンの拡張でミスリル鉱石の持ち込みが増えたオトヤのフォージから依頼を受けてドワーフの鍛冶職人を迎えに来たのだった。そのときに縁が出来たフォージの師匠パウルには短剣も打ってもらえた。そんな雑談をしながら朝食を食べ終わり、出発の準備をする。使った設備を片付けながら確認すると保存食の備蓄も少し減っていたので手持ちから補充した。
「お待たせ。じゃあ行きましょうか」
俺が片付けている間にコーリーの着替えも終わり、山小屋の外に出て入口の階段を巻き上げると目的のドウチへと足を進めた。
◆――◆――◆
「ハロルドという名前の鍛冶職人は登録されていませんね」
到着したドウチの冒険者ギルドに付属する伝令人受付でコーリーが言伝を依頼すると、しばらく書類を調べていたドワーフ女性の受付はそう返答をしてきた。
「そうなの? ここに来る前に聞いたら元気らしいって聞いたんだけど、鍛冶職人は辞めちゃったのかしら。五十年ぐらい前にパーティー解散したときは故郷のドウチへ帰って鍛冶をするって言ってたんだけど、記録は残ってないかしら?」
「けっこう昔の話ですね。では職人ギルドに調査依頼をするということでよろしいでしょうか」
「そうね、お願いするわ」
コーリーはそう答えると依頼書を書き始める。
「俺の方も伝言頼んでいいかな。パウル親方に打ってもらった短剣の整備をお願いしたいんだが、信頼できる職人の紹介を頼みたい」
そう言って短剣の柄に入っているパウルの印章を見せる。
「あら、親方の作品を持ってらっしゃるんですね。では口頭での伝言でよろしいですか?」
「ああ。返事も受け取ってくるように頼む」
俺は規定の料金を払って伝言の内容を伝える。そうすると依頼を終えたコーリーが話しかけてきた。
「こっちは終わったわよ。もう宿に行く?」
「いや、俺の方はうまくいけば早いだろうからしばらくはギルドで時間を潰すつもりだ。遅くなるようなら泊まるところを伝えて出ようと思う」
「じゃあわたしも付き合ってお茶するわ」
そう返事をしたコーリーと待合室へ移動して席を確保し、お茶のポットと菓子を注文して飲みながらしばらく雑談する。そうしてポットのお茶のおかわりを頼もうかと言うぐらいの時間が過ぎた頃に覚えのある声が聞こえてきた。
「おう、ホントにいたぞ。ずいぶん久しぶりじゃないか。チャックの方も元気そうだな。今日も護衛か?」
「まあそんなようなもんだ。作ってもらった短剣も調子いいぞ」
俺が親方のパウルに答えるとコーリーは少し驚いた表情で話し出す。
「え、なによ。ハロルド、チャックの言ってたパウル親方ってあんただったの。いつの間に名前変えたのよ」
珍しく狼狽しているコーリーにパウルは涼しい顔で答える。
「お前さんたちと別れて十年ぐらい後だったかな。ワシの師匠が引退するときに名前を継いだんだよ。もう若い連中はハロルドなんて名前は知らんだろうな」
「あんたの腕がいいのは知ってたけど、親方っていうほどとは思ってなかったわ」
コーリーはちょっと疲れたような顔を見せる。昔の仲間と話しているからか普段よりも表情豊かな感じだ。
「微妙に褒めてねえな。それでなんだ。お前がワシを名指しで来たってことは魔法の剣でも打たせようってのか?」
「察しがよくて助かるわ。昔に何本か打ってもらってるけど作り方忘れてないでしょうね」
「ウチの魔法使いどもに見せてもなんでこうなるかわからんとか言うんで教えられたママの丸写しだが、あれからも何本かは頼まれて作ってるぞ。ちゃんと魔法も発動してるしな」
「それは頼もしいわね。じゃあ依頼は受けてくれるってことでいいのかしら」
「まあな。お前の指示をそのまま形にできる奴もワシの他にはそうそういないだろうよ」
コーリーはそれを聞いて満足げな表情を浮かべた。
「決まりね。じゃあ細かい条件とか詰めて行きましょうか」




