85:学校経営
「仕事をまとめて片付けたいって、そんな臨時便がホイホイあるわけないだろ」
オトヤの冒険者ギルド、伝令人の控え室でダンに相談したらこう返事が返ってきた。
「いや、それはそうなんだが学校に通うことになってな。別に休みなく通わなくてもいいんだが、ある程度まとまって講義を受けた方が効率的なんでその分を前倒しできるんならしておきたいなと」
「ああ、事情は上の方から回ってきてる。チャックが学校に通えるように便宜を図れってな。特別手当も付いてる」
そこまで手が回っているとは俺も初耳だった。どうやら発案者のコーリーはこの件についてかなり本気のようだ。
「そういうことなら俺も気にせず休ませてもらおう。ただちょっとお得意さんには挨拶しておこうかな」
ここでもちょいちょいと臨時便を出してくれる常連はいる。道具屋兼鍛冶屋のフォージは稀少な鉱物の情報が出ると急ぎで注文を出したりするし、酒場のグーンは季節ものの食材の注文をたまに出してくる。
「チャックが休んでもちゃんと他のやつが受けられるってのも言っとけよ。単独でなくとも複数人でなら長距離受けられるんだからな。今回は上からのお手当で料金も据え置きだ」
「わかった。ちゃんと伝えとくよ。あと、だいたい30日ほど学校に通って30日仕事ぐらいで回すつもりだ。予定は出しとくからできれば仕事もいれといてくれ」
こうして仕事の根回しを済ませた俺はいよいよ魔術学校へ通う日を迎えた。
◆――◆――◆
「では今日から正式に聴講生ということだね。入学おめでとう。知ってると思うが一応規則なんで自己紹介するよ。君の担当になったアシュリーだ」
「ああ、よろしく……お願いします、と敬語を使ったほうがいいですか?」
俺がそう訊くとアシュリーは苦笑しつつ答えた。
「いや、普通の学生ならそうしてもらいたいところだけど聴講生ってのはだいたい大人がなるものだからね。よほど無礼でなければ普段通りで構わないよ」
それを聞いて俺も安心する。
「わかった。ではアシュリー先生、改めてよろしく頼む」
「こちらこそよろしく。じゃああらためて一通りの説明をするよ。聴講生っていうのは事情があって魔法学校に通えなかった人間に魔法を学ぶ機会を与えるために作られた制度だ。何回かの報告書を提出すれば『修了』と認められる」
そこでアシュリーはちょっと間を置いて続けた。
「まあチャック君を教えるのはコーリー先生の実験に付き合ってもらうという面もあるからね。報告書も共同研究名目で何とかするからもう『修了』は決まったようなものだけどね」
「うん、その辺は前にも一応聞いてる。それでちょっと気になっていたんだが『修了』っていうのは『卒業』とは違うのか?」
俺がそう尋ねるとアシュリーは露骨にうんざりした表情を浮かべた。
「あー、それね。うん、まあ言ってもいいか。正直言うとね、『聴講生』って本気で魔法を学ぶ人間はほとんどいないんだよ」
これには俺もちょっと驚かされた。
「えっと、ちょっとよくわからないんだがどういうことだ?」
「まあ政治的な問題でね。実際は魔法使いでもない貴族様が魔法関係の役所への配属となったときに『魔法学校出身』という肩書きを付けるために聴講生となることがほとんどなんだよ」
それを聞いて俺も察する。
「なるほどな。実際は魔法を使えるようにならなくても『魔法学校出身』を名乗ることはできるが『魔法学校卒業』とは名乗らせないという最低限の縛りか」
「ま、そういうことだよ。最初にチャック君を聴講生にって話が来たときに乗り気じゃなかったのもわかってもらえたかな」
アシュリーがそう言うので思い返すと確かに最初は露骨に嫌がっていた。
「うん、納得した。では真面目に『聴講生』に魔法を教えるというのは結構珍しいことなんだな」
「そうなんだよね。だから悪いけどチャック君が無事魔法を使えるようになったとしても『魔法学校卒業』は名乗れないんだけどそれでいいかな。どうしてもというなら正式に入学することも不可能じゃないけど」
「いや、俺の本業はもうあるからな。魔法使いを本職にするつもりもないし、卒業生という肩書きにも興味はない。まだできるかわからないが魔法を使えるようになったならそれだけで十分だ」
それを聞いたアシュリーも安堵の表情を浮かべる。
「そう言ってもらえると助かるよ。じゃあ次は具体的な講義の説明をしようか。まずは基本的な魔力操作から始めて続いて能力強化系を、その次にいわゆる攻撃魔法系と進めていくからね」
アシュリーはそう言うと教科書を持ち出して詳細な説明を始めた。




