12)礼拝のあと
天気は良かったのだが、茶会は庭ではなく、急遽、室内で行われることになった。理由は一つだ。
ロバートがあまりに上機嫌だったからだ。
「ロバート兄様が、ここまで上機嫌ですと、不審がられます」
やや率直なヴィクターの言葉に、反論するものはいない。
「ロバート兄様が珍しくありえないほどの上機嫌なのです。ローズ様も、いえ、ローズ姉様もお幸せそうですし。一族の一員として、お二人がお幸せな今を過ごすには、人目が限られる屋内のほうがよろしいと思われます」
アレクサンドラも続いた。
「ロバート、お前は随分と有頂天だな」
「さようでしょうか」
結果として、応接で茶会をしたのは正解だった。
ロバートはローズを膝の上に座らせ、上機嫌だ。ロバートの膝の上にローズが座るのは珍しい光景ではない。ローズが小さな頃から、当然のようにロバートはローズを膝の上に座らせていたから、王太子宮では、誰もが見慣れた光景だ。
見慣れているからこそ、普段と違い、ロバートが浮かれていることがよく分かる。アルフレッドの言葉に、ロバートは膝の上のローズを抱きしめたまま答えた。頬ずりしそうな勢いのロバートに、ローズが幸せそうに笑う。
アルフレッドとアレキサンダーは顔を見合わせた。大司祭もその隣で首を傾げている。男三人、互いの考えていることはなんとなくわかった。ロバートが、現状に満足しているようにしかみえなかった。
ロバートは、期限付きで白い結婚を承知したが、その先が心配だった。お前は本当に、子供の作り方を知っているのか、お前に肉欲はあるのかと誰が聞くべきか、互いに目線だけで押し付けあっていたときだった。
「ロバート、あなた、これで万が一自分が死んでも、ローズは大丈夫だとかなんとか、考えているのではないでしょうね。貴方の一族は結び付きが強いようですから」
グレースの言葉に、ローズの頭をなでていたロバートの手が止まった。
「ロバート」
ローズが不安げに、ロバートを見上げる。
「大丈夫ですよ」
ロバートは微笑み、ローズを抱きしめ、額に口づけた。ローズはどこか不安げだが、大人しくロバートに抱きしめられている。
アレキサンダーはアルフレッドと目を合わせた。そのままロバートに目をやると、目をそらされた。
ロバートが何かを誤魔化そうとしている。アレキサンダーは確信した。
その後は、ロバートは少し平常に戻り、といってもローズを膝の上に座らせたままだったが、茶会は無事に終了した。
その晩のことだ。
アレキサンダーは、ロバートに茶を用意させ、向かい合う椅子に座らせた。
「死ぬな」
何度繰り返したか、わからない言葉だ。
「可愛い婚約者、いえ、妻を遺して逝くつもりはありません」
ロバートが穏やかに微笑む。
「ですが、万が一の場合は、お願いします」
「そのようなことがないように、気をつけろ」
「無論です」
ロバートは気をつけていると言うが、何度も死にかけている。
「何かあればお前達の婚姻を公にする。そうなれば、お前の身が危険に晒されるな」
「お気づきでしたか」
穏やかに微笑むロバートに、アレキサンダーは内心舌打ちした。ロバートとの付き合いが長いアレキサンダーでも、時にその秘密主義には苛立つことも多い。
「リヴァルー伯爵が、本気でローズを利用するつもりであれば、私が邪魔ですから」
ロバートの微笑みはかわらない。
「万が一の場合は、ローズをよろしくおねがいします」
「前も言ったはずだ。妻と娘と、妻が妹のように可愛がる女に泣かれたくはない。死ぬな」
「最善は尽くさせていただきます」
ロバートの返事は、ほぼいつも同じだ。決して確約はしない。アレキサンダーは、苦い思いを噛み締めていた。
襲撃が続いた日々、アレキサンダーが、血まみれになったロバートを見たのは一度ではない。意識を失い、力が抜けた身体の重さも知っている。
「お前が死ぬのを見たくはない」
アレキサンダーの本心だった。
「私もソフィア様の弟君か妹君の、お顔も拝見したいですし。それこそ、ソフィア様が結婚されるお相手が、どのような方か、見極めるお手伝いもせねばなりません。おちおち死んでなどいられません」
やや冗談めかして、ロバートは先のことを口にした。未だ幼いソフィアだ。婚約はともかく、結婚相手を見極めようなど、十年以上も先だ。
「ソフィアの婿は苦労しそうだな。父親以外に、父親の乳兄弟にも気を使わねばならないとは」
十年以上も先のことを、ロバートが口にしたことに、アレキサンダーは安堵した。
「お前の子の相手は、私が見定めてやるから安心しろ」
「それはそれで全く安心できないのですが」
二人はどちらからともなく笑った。




