13)腕輪
ロバートとローズの指を、婚約指輪が飾るようになった。貴族ではない二人の婚約は、特に周知されていたわけではない。だが、王都で話題となった芝居の影響もあり知っている貴族は多い。何の噂にもならなかった。
ローズの手首を、草花の意匠に小さな宝石が光る腕輪が飾るようになった。
「あら、ローズ、可愛らしい腕輪ね」
「それが、アレキサンダー様がおっしゃっていたご褒美かぁ。首飾りとお揃いだね。一緒につけたら良いのに」
サンドラとフレデリックの言葉にローズは、微笑んだ。
「ありがとう」
ローズの首は、真珠の首飾りが飾っている。
「真珠も、バーセア伯爵様から頂いた大切なものだから」
ローズの言葉にサンドラは微笑んだ。
「そうね。ブレンダ様、ミランダ様とお揃いだものね」
サンドラの言葉にローズは頷いた。
ロバートの手首にも、袖に隠れてみえないが、飾り気のない細い腕輪がある。二人の腕輪は、アルフレッドとアレキサンダーに下賜されたものだ。多くの人に、褒美として下賜されたものと誤解されている。揃いの腕輪は二人の結婚の証だ。
二人の腕輪の意味を知るものは少ない。ロバートとローズ以外は、アルフレッド、アレキサンダー、グレースと大司祭、ヴィクター、アレクサンドラだけだ。
大司祭の提案で、ロバートとローズは、予定より早く、結婚の届けを出した。ローズの名が記され、国王一家を立会人とした書類だ。ローズはロバートの妻であるという身元を証明する書類が出来た。
使用人と孤児の結婚を、貴族を相手に公表する必要などない。何もなければ、予定通り、ローズが十七歳になる次の春に、結婚を周知すれば良い。何かあれば、ローズは既に結婚しているという事実を公表すれば良い。貴族の駒になりえない娘に、政略的な価値はない。変わりない日々が過ぎていた。
腕輪も、聖アリア教会にある書類も、ローズにとってのお守りだ。
グレースの言う通り、攫われた後に、結婚を早めたことは、要らぬ憶測を呼ぶ。ロバートとローズの結婚は、ローズが十七歳になる春に公表される。
グレースは、春にはローズのためにきちんとした結婚式を挙げるとアルフレッドと楽しそうに話をしている。アレキサンダーは、あなたに話すとロバートに筒抜けだと、毎回追い払われていた。
不安定な要素は多い。未だに、グレースを拉致しようとしていたのが誰か、わかっていないのだ。ローズが声を聞いた貴族らしい男性が誰かもわからない。連れて行かれた屋敷を、常に見張らせているが、人の出入りはない。
リヴァルー伯爵もローズは怖かった。かつてアレキサンダーの立太子に反対していたはずだが証拠がないという曰くつきの人だということは、最初に教えられていた。それでも、ローズにとっては、御前会議と知らずに出ていたお茶会の頃から、可愛がってくれた優しい人だ。沢山のことを教えてもらった。
そんな人が、ローズを自分の孫かも知れないなどと、言い出したのは晴天の霹靂だった。根拠となっている、老女の打ち明け話は、ローズの聞かされてきた話とは違う。グレース孤児院に捨てられたのは、首が座った赤子で、首の座っていない生まれたての赤子ではない。その話をローズにしてくれたシスター長は、もう居ない。ローズを包んでいた布も、使ってしまったからもう無い。
夏は過ぎた。秋が深まりいずれ冬になる。春になるのはその後だ。早く春が来てほしかった。
10時から幕間投稿です。腕輪を注文した時のお話です。お楽しみいただけましたら幸いです。
https://ncode.syosetu.com/n3017hh/




