1)リラツの意図
国賓の来訪は本来歓迎すべき事態だ。ただし、今回は、時期も人選も、奇妙だった。
リラツ王国で、高齢の現国王の退位に伴い、王太子が国王に就任することが決まった。その慶事に、今の第二王子、王弟となるロレンスがライティーザに表敬訪問を申し込んできたのだ。
「逆だ」
その話を聞いた時、アルフレッドとアレキサンダーを含めた多くの者がそう考えた。
ライティーザ王家とリラツ王家は血縁関係にある。かつて、アレキサンダーの母方の血筋を問題視した一部の貴族は、リラツの王子をライティーザの王太子に据えようと計画した。
当時すでに若くはなかったリラツの国王と王子達が、勝手に担ぎ出されて迷惑だと拒絶し、貴族たちの謀反は計画倒れに終わった。証拠があった貴族はみな取り潰されたが、証拠不十分で、今も存続している貴族もある。
「現王が病気療養で退位されるに伴い、リラツの王太子が国王に就任されるときに、何故、第二王子がライティーザに表敬訪問にいらっしゃるのでしょうか」
レオンの言うとおりだ。
「こちらが表敬訪問すべきだろうが、王位継承権を持つのは私だけだ。万が一を考慮すれば、私の訪問は不可能だ。だからといって、なぜ先方がくるのか、それも王弟となるロレンス第二王子なのか、私にはわからない」
アレキサンダーも、ライティーザにいるはずの妻と娘を探しているという第三王子ハミルトンが来るのであれば、理解はできる。
「聖女ローズ様にお会いしたいとご連絡をいただいたそうですが、それだけが理由とは思えません」
レオンの言うとおりだ。
第三王子ハミルトンが、ライティーザで奴隷商人の用心棒に雇われていたことを知る者は極めて限られている。アレキサンダーと、ロバートの他は、最初に気づいたヴィクターと、報告をうけたアルフレッドのみだ。
ハミルトンは、ローズに会っている。だからといって、第二王子ロレンスも聖女ローズに会ってみたいなどという理由で、わざわざライティーザまで来るとは思えない。
「リラツ王家にも騒動の種はある。こちらを巻き込まずにいてくれたらよいのだが」
王弟となる第二王子ロレンス、第三王子ハミルトンと、国王となる王太子の子息達との間で、王位継承権の順序について、穏便に解決できるとは限らないのだ。
「何にせよ、いらしてからです」
気のおけない者たちだけが揃った場だ。ロバートは、身体を休めるように座っていた。
王宮での歓迎の式典は、王宮侍従長のバーナードが仕切ることになる。
「自らの首が飛ぶとわかっていて、手を抜く男ではありません」
ロバートは、バーナードを憎みながら、仕事に関しては信用している。奇妙な親子だとしか、アレキサンダーには思えなかった。
親子、家族のあり方は人それぞれなのだろう。
ロバートの一族は、歴史は長いが貴族ではない。貴族ではないため、公式の記録が少ない。かつてアレキサンダーは、ロバートの一族について、記録を調べろと、サイモンに命じた。
―家名がないので、本当に難しいのです─
建国当初から王家に仕える一族だ。家名がないため、血縁関係の推定が難しい。ロバートが伯父と同じ名であるように、同じ名前の者が複数、それも同時期に存在したりするのだ。
―貴族が家名を大切にされる理由が、よくわかりました─
そういいながらもサイモンは根気よく調べている。
―歴史の随所に、家名がない人物が現れるのです。叙爵されている方もおられます。バーセア伯爵家やアーライル侯爵家は、そのようにして始まっておられます─
両家とも、ロバートの一族との血縁関係があることを公にしている。
アレキサンダーは、ハミルトンとジュードが口にしていた、狼という言葉を思い出していた。リラツ王家はアレキサンダーとの血縁関係がある。ジュードの家系は、かつてライティーザ王家からリラツ王家に嫁いだ王族に付き従った、ロバートの先祖だ。
アレキサンダーは、サイモンに狼についても調べるように命じることにした。




