13)真実の証
バーナードは、鏡の前に立っていた。確かめなければならないのだ。鏡に映ったロバートの背にあったものが、信じられなかった。あれは、あるはずの無いものだ。
バーナードが信じていたことが、誤解だったという証拠だ。
「まさか」
ありえないはずだった。ロバートの背に、あれがあるということは、全てはバーナードの誤解だったということだ。あの夜以来、復讐のために生きてきたバーナードの人生が、全て無駄だったということになる。
あの夜、バーナードがアリアと結婚してすぐのころだ。王宮での侍従という仕事は、慣れぬことも多かった。仕事を終え、与えられていた部屋に戻ってきた時は、深夜だった。
先に休むようにと伝言しておいたはずの新妻アリアが起きていた。アリアは寝間着を着てくつろいだ様子で、アルフレッドを見送っていた。二人は、親しげに会話をしていた。閨を共にする関係にあるのだと、バーナードは嫉妬した。
それ以来、バーナードはアリアとの閨を避けるようになった。王家に仕えるため、子を成すことも一族の務めだという周囲の声を、バーナードは無視した。
そのうちに、アリアの妊娠が発覚した。バーナードは、慣れぬ仕事が忙しいと言い訳し、生まれた子にも会おうとしなかった。国王アルフレッドと妻の間の不義の子の顔など見たくなかった。
アリアがアレキサンダー王子の乳母として、ロバートを連れて王領の一つに旅立つ時も、見送りもしなかった。何度も連絡はあったが、一度も王領には足を踏み入れなかった。アリアからの手紙は全て火に焚べた。
アリアが亡くなったという知らせに、ようやく終わったかと思っただけだ。
初めてロバートに会ったのは、丁度ロバートが十六歳になったばかりの頃だ。
既にアリアが亡くなって数年経っていた。
「はじめまして、バーナード侍従長殿」
王都から離れた王領で育てられていたとは思えない、美しい洗練されたロバートの身のこなしは、分家出身のバーナードの劣等感を刺激した。
ロバートは、アリアに良く似た美しい顔をしていた。他人のようなロバートの挨拶には、お前を父親とは認めないという強い意思があった。不義の子に、父と慕われるだけ迷惑だった。ちょうどよかった。
「嘘だ」
今日見たロバートの背には、無いはずのものがあった。
「そんなはずがない」
バーナードを形作っていた恨みが、憎しみが、その根拠が崩れていった。
「ありえない」
バーナードの耳に、自らの声が虚ろに響いた。
「そんなことが、あるはずがない」
鏡に映った自らの背を、バーナードは呆然と見ていた。
「ありえない。そんなことが、あるはずがない」
だが、バーナードの目には、先程見た、目に焼き付いたものと、同じものが映っていた。
「嘘だ」
左の肩に、淡く赤い痣があった。鏡に映ったロバートの背にも、左肩に淡く赤い痣があった。同じ痣だ。
「まさか」
バーナードの記憶にある、若いままのアリアは、悲しげに微笑んでいた。
第一部第三章幕間 「平穏な日々の終わり」https://ncode.syosetu.com/n0237gv/
第一部第一章幕間 「乳兄弟の絆」https://ncode.syosetu.com/n5689gu/
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明日からは第十七章に続いていきます。
誤字脱字報告本当にありがとうございます。




