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最終話


ついに、大国アメリアの第一王子アーサーの元に嫁入りをする日がやってきた。




城も城下町も色とりどりの花で彩られていたが姫の結婚という祝賀の門出にもかかわらず、オリエント国の雰囲気は祝賀ムードにあふれているわけではなかった。無邪気に喜んでいるのは、何も事情を知らない子供たちだけで、大人たちは病弱な姫が無理やり大国の要請で嫁入りさせられる理不尽さに憤っていた。




この国の王子たちもまた、同様であった。


病弱なフローラを手元から離す気はなかったらしい長兄は、嘆きを隠しつつ彼女の無事を祈り笑顔で馬車に乗る彼女に手を貸した。そして、優しく話しかけた。




「フローラ、オリエントの国民すべてがお前を愛していることを忘れるな。そして・・・この兄もお前を大切に思っていることを忘れないで欲しい。」


「ありがとう、カランお兄様。」




馬車に乗り込むと、今度は第三王子のライナードがひょこっと車内に顔を覗き込むと意地悪そうな笑顔を浮かべて口を開いた。




「フローラ。もし、アメリア国のアーサー王子がとんでもなく嫌な奴だったら、例の魔法で精気を吸いきって殺しちまえよ。未亡人ライフ満喫ってね。あ、でも・・・王子暗殺の疑いで絞首刑になるかも。そうなったら、カラン王子はブチ切れて無謀にも大国に戦争を仕掛けかねないな。戦争に向けて、新しい魔法を解読、開発しないと。楽しみが増えた。フローラ、心置きなく処刑されて来い!!」




私は無言で満面の笑顔の第三王子を馬車から蹴り落とした。




少し、心残りもあった。


病床の父王とは昨日会ったが、祝福の言葉どころか会話を交わすこともなかった。第二王子は、知的障害を理由に城からはなれた別邸で半ば幽閉状態で住んでいるため、会う事がかなわなかった。本体のフローラの大切な家族なのでしっかりとあいさつをしたかったのだが。




それでも・・・




私は馬車の中から改めてオリエント国の城を見上げた。短い間だったが、私にとってはこの異世界に来て初めて過ごした場所だった。様々な出会いもあった。それを離れるのだ。思っていた以上に、胸に迫るものがあった。馬車の中には護衛のために特別にアーロンもいた。彼も、私と一緒にアメリア国に行くことになっている。私は、アーロンに視線を向けて口を開いた。




「アーロン、ここから離れるのがこんなに寂しいと感じるようになるとは思わなかったよ。」


「そうだな。ここが、俺たちの異世界ライフの原点だからな。」




「いせ・・かい?」




私たちの会話に割り込んできたのは、同じ馬車に乗り込んだでいた私の側使いのイルマだった。彼女も、一緒にアメリア国に行くことになっている。異世界という言葉が理解できなかったようだ。




私は微笑んで、イルマに話しかけた。




「イルマも寂しいでしょ。故郷を離れるのは。ごめんね、私の為に。」


「何を言っているのですか、フローラ様!!私はどこまでも姫様についていきますとも。」




姫へのイルマの忠誠心は本物で、私は本物のフローラではないけれど彼女には感謝していた。私は微笑んで彼女にお礼を言うと、イルマは勿体ないと言って泣き出してしまった。困って、アーロンと顔を合わせつつも、温かい気持ちで国を発つことができた。




城下町は、姫の門出の為に様々な色の花で飾られ美しかった。国民も国旗や花束を持って私が乗る馬車に向かって手を振っている。その国民たちに馬車の中から手を振りながら、決意を新たにする。






異世界での故郷、オリエント国。


私たちは今日、この地から未知の世界に旅立つ。




ふと、胸に微かな寂しさと不安がよぎり、私はそっとアーロンを見た。彼は、私の視線に気が付いたのかちょっと目を細めながら、口を開いた。




「何?」




「うん...ねえ、これから何が待っているかわからないけど。」


「ん。」




「ずっと、側にいて....私の隣に。アーロン。」




甘みが滲んだ私の言葉に、アーロンは目を見開いて私を見る。そして、わずかに苦味を含んだ微笑を浮かべて口を開いた。




「なんだ、その殺し文句は...くそ。アメリア国の王子の花嫁になる奴が、そんなこと...言うなよ。ああ、不味い。これは、完全に死亡フラグだ。花婿のアーサーに殺されるの確定だろ、俺。」




頭を抱えたアーロンが、顔をしかめる。


私は、思わず苦笑いを浮かべていた。




そんな私に、アーロンの手が伸びてきて体を引き寄せられる。その瞳には熱が滲んでいた。




互いの唇が触れあうほど近づきながらも、アーロンの唇は私の耳元にそれる。そして、熱い吐息混じりの言葉が耳元に落ちる。




「側に....いさせろ。お前を感じさせろ。」




胸が熱くなる。


そして、微かな痛みがこの身を走る。






親友であった存在が、その枠を越えていく。愛情を確かに感じながらも、その存在は不安定。






私は、隣国で顔も知らない男の花嫁になる。






それでも、私は笑う。


異世界転生なんていう、とんでもない経験をした私に怖いものなんて、そうそうないのだから。




そう、私は....もうボッチじゃない。


もう一人の異世界人が、ずっとそばにいてくれるなら。






私は、この異世界で生きていきたい。

お読み頂きありがとうございました。

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