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お前は、その意味を考えたことがないだろう―奇跡論者の現実改変記  作者: Hyman Godley
序:日本編

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プロローグ:でけぇ胸板

この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは一切関係ありません

なんというか、学生時代なら絶対に「変わってるね」といじられていそうなスーツ姿の男が、目の前で淡々と「奇跡論」とやらについて講義をしていた。


「ええー、奇跡論というのはですねえ。まあ、なんというか、初めて触れるあなたにも分かりやすく言うならね――まほう! って感じなんですよ」

“Soo, thaumatology is, well… how should I put this? If I were to explain it in a way that makes sense to someone completely new to it—magic! It’s basically like magic.”


――何を言うてはるんですか。

そう突っ込む気力は、もうなかった。

実際、自分の思いどおりとまではいかなくても、咄嗟の行動や考えに沿うように、妙に都合よく物事が転がった経験なら、ここへ来るまでに幾度となくあった。

だから、完全に意味不明だと切り捨てることもできなかった。


「えー……じゃあ、つまり、私は魔法使い的な?」

“Uh… so, what, I’m basically a wizard or something?”


咄嗟に聞いてしまった。

口から出た瞬間、自分はいま、相当に寒いことを言ったのではないかと思った。

ところが、スーツ姿の男は笑うでも引くでもなかった。むしろ待っていましたとばかりに息を吸い、急にまくしたて始めた。


「んーとね! 我々の解釈では、君はタイプ・グリーンだと思うんだよね!」

“Well, see! Under our interpretation, we believe you would be classified as a Type Green!”


「はい?」

“What?”


「えーとね! 我々のプロトコルでは、その、終了させることも推奨されてるんだけど、君の場合はね、なぜか一方的な改変だけで終わらないっていう異常性があってだね!」

“Right, so! Under our protocols, termination may also be recommended in cases like this, but with you, for some reason, the alteration doesn’t appear to remain unilateral, which is an anomaly in and of itself!”


「ッㇷ~ン?」

“Hh—m?”


相槌と咳を同時に出そうとして、どちらにもなりきれなかった声しか返せなかった。


「これはね! え~、面白いんですよ! まあ、君みたいに、不幸にも自分の能力を自覚しちゃう子はいるんだけどね。君の場合、自分が起こした改変が、ぜんぜん思いどおりになってない。その点でね、かなりの不思議ちゃんなの!」

“And that’s what makes this so interesting! There are, unfortunately, others like you who become aware of their abilities, but in your case, the alterations you cause don’t actually behave the way you want them to. In that respect, you’re quite the little oddity!”


「え……ああ。えっと、つまりは?」

“Uh… right. So, what does that actually mean?”


頭の中が疑問符で埋まっていく。


「んー、私たちは君みたいな子を『現実改変能力者』って呼んでるんだけどね。まあ、そもそもここいらでは珍しいというか、タイプ・グリーン自体が珍しいんだけど。というか、ここいらっていうより、現世というべきか……そういう人たちは、だいたい不可解な手段で姿をくらますのが大半でね!」

“Mm, well, we refer to people like you as ‘reality benders.’ They’re already quite rare around here—well, Type Greens themselves are rare in general. Though perhaps ‘around here’ isn’t quite right. In this plane of existence, I suppose. Most of them tend to vanish through rather inexplicable means, you see!”


こいつは質問に即答できんのか。

腹が立ってきた。

とはいえ、別に悪い人ではなさそうだったし、ここで聞き返せば、もっと長く、もっと枝分かれした説明が始まりそうだった。

黙っている以外に選択肢がない。


「要はね! 魔法使いのなりそこない、みたいな感じかな! それで、君が改変して、結果的に終了しちゃった……えー、出会い系かな? そこで会った男性はね、確かに君の証言どおり、一緒にいたんだけど。君が言ったとおり、その人は――」

“So, in simple terms! You’re something like a failed wizard! Now, regarding the man who was, ah… terminated as a result of your alteration—you met him through a dating app, was it? He was indeed with you, just as you testified. And, as you said, he was—”


「あの、だから結局! そのグリーンなんとかも、現実改変能力者っていうのも、その……なんていうの? そもそも何なんですか!?」

“No, but that’s what I’m asking! What is this Green-whatever thing? What’s a reality bender? Like—what are you actually talking about?”


スーツ姿の男の喋り方が移ってしまっている。

そう気づいたときには、もう遅かった。

ジェームズが突然、「もう聞いていられない」とでも言いたげな長いため息を吐き、大声で割って入った。


「おめぇは、なんか、その……一時的に、無意識で現実をぐにゃって曲げる、クソ面倒くさいやつってこと! でも、わざと誰かに危害を加えてるわけじゃねえし。だから今は、こうやって事情を聞かれてるだけ! で、話を聞いてる感じだと、お前のそれは、俺らがタイプ・グリーンって呼んでる連中の力とは、ちょっと違うっぽい! あいつらには見られない、奇跡論って技術に近い感じがあるっぽくて……んー……だから、えーっと……ああ! 要するに、お前は勉強しろってこと!」

“It means you’re this huge pain in the ass who, like, temporarily bends reality without even knowing you’re doing it! But you’re not deliberately trying to hurt anybody, so right now, we’re just questioning you. And from what you’ve told us, whatever you’re doing doesn’t really look like the same shit we see from the people we call Type Greens. It seems closer to thaumatology, which is more of a technique, and those guys don’t usually—uh… I mean… fuck, okay! The point is, you need to study!”


最大瞬間風速に胸板がついたような威圧感だった。

分厚い胸から押し出された声と空気が、まとめてこちらへ飛んでくる。

少しだけドキドキした。

同時に、結局何を言っているのか分からない、という感情も押し寄せてきた。

何か返さなければと思ったのに、咄嗟にできたのは、ジェームズの首元を見ることだけだった。

太い首だった。

どうしていま、そこを見たのかは分からない。


「オーケー……えっと、じゃあ、たぶん私は、その……家には帰れない? でも、刑務所に入れられるわけでもない。そういうこと?」

“Okay, sooo… I’m guessing I’m not, like, going home? But I’m not going to prison either, right?”


やっと出てきた返事にしては、ずいぶん情けなかった。

ジェームズはほとんど間を置かずに答えた。


「うん、うん。まあ、そんな感じ。お前は大丈夫。いや、マジで。かなり大丈夫。ただ、俺らとしては、その……そのヤバいやつの扱い方を覚えてほしいんだよね。奇跡論。俺らはそう呼んでる。なんていうか、技術なんだよ。それを覚えたら、たぶん、自分で少しは制御できるようになる。お前にもいいし、俺らにもいい。まあ、そういう感じ?」

“Yeah, yeah. Kinda. You’re good—like, seriously, you’re real good. We just kinda need you to learn how to control that shit. Thaumatology, that’s what we call it. It’s, uh… basically a technique. If you learn it, you might be able to get a handle on this. Better for you, better for us. That type shit?”


言葉だけを拾えば、かなりチャラい。

けれど、ジェームズ自身が冷静で、妙に大人びて見えるせいだろうか。軽薄というより、こちらを怖がらせないために、わざと砕けて喋っているように聞こえた。

フランクで、少し雑で、優しい兄のような声だった。

どう受け止めればいいのか分からずにいると、スーツ姿の男が、また嬉しそうに身を乗り出した。


「ンッフン! そう、そういうことです! 奇跡論! 君が抱えている、このちょっとした……まあ、トラブルですね。それを自分で管理できるようになるために、これから学んでもらうわけです!」

“Mm-hm! Yes, exactly! Thaumatology! That is what you’ll be learning in order to manage this little… well, trouble of yours!”


この講義は一体いつになったら終わるのだろうか。そのような気持ちになりながらも、バカみたいな中二病のような話に好奇心がくすぐられる。そんな気持ちが続いたのは後にも先にもこの時だけだったように思う。


もし読んでくれる人が見やすい時間があったら、それに合わせて投稿しようと思います。主軸は恋愛小説として書くつもりです。ファンタジーでSFな世界で、リアルなボーイズラブを書くつもりです。


本作品の世界観設定に参考とした資料。

原著者:DrClef

・“Transcript of a lecture given by Professor ████████████ on Applied Thaumatology”

・“Transcript of a lecture given by Professor ████████████ on Aetheric Energy and Aspect Radiation”

・“Transcript of a lecture given by Professor ████████████ on Thaumatic Workings”

・“Transcript of a lecture given by Professor ████████████: Conclusion, Q and A”

日本語訳:

・「教授の応用奇跡論の講義の書き起こし」

 翻訳ページ担当:Nanimono Demonai

・「教授の講義の書き起こし:エーテルエネルギーとアスペクト放射について」

 翻訳ページ担当:amamiel

・「教授の講義の書き起こし:奇跡論の構造」

 翻訳ページ担当:amamiel

・「教授の講義の書き起こし:まとめ、質問と回答」

 翻訳ページ担当:amamiel

各原典および日本語訳は、Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 Unported Licenseの下で公開されています。

本作品も、Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 Unported Licenseの下で公開します。


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