第二十三話【魔眼】
更に翌日。
「うっ!? ……ゲホッ」
スープを飲むタイミングでアビスの首が絞められた。
その瞬間、とうとう堪えきれなくなったらしく、
「チッ」
フェイトが舌打ちをしながら立ち上がった。
そのままボルグと茶髪イケメンの二人がいる机へと向かい、
「おい、お前。いい加減にしろよ!!」
食堂中に響いた怒声に、アビスたち一年生だけでなく、他の学年の生徒もギョッとした視線を向ける。
もちろん大声に驚いたわけではない。
触れてはいけない相手に一年生が突っかかったことへの驚きだ。
「あぁん? 誰だてめぇ」とボルグ。
「お前が標的にしているアビスの友達だ」
「友達ぃ? ははっ、知らねぇよ……。で、そのお友達とやらが俺様になんの用だ?」
「アビスに手を出すのをやめろ」
「ほう。もしやめなかったらどうするんだ?」
「オレがお前をボコボコにして、そのあとで先生に言ってやる」
「じゃあやってみろ」
「は?」
「いいからやってみろよ。俺様をボコして先生にチクるんだろ?」
「じょ、上等だ!!」
そう言って机のナイフを手に取った瞬間、フェイトは宙に浮かび始めた。
ボルグの双眼に紋章が浮かんでいることから、彼が重力を操作しているらしい。
「ほら、どうした? 正義のヒーローが俺様をやっつけてくれるんじゃないのか?」
二メートルほど浮いた辺りでフェイトを横向きに変え、そのまま地面へと叩きつけた。
鈍い音が響く。
その数秒後。
再び彼はフェイトを持ち上げ、ある程度の高さにたどり着いたら落とすというループを繰り返している。
その間ボルグは終始ニヤついており、天才肌の剣聖フェイトが完全に弄ばれていた。
計り知れないほどの戦力差がある。
それは誰の目にも明らかだった。
しかし、それでも立ち向かう者は存在した。
「やめろ!! フェイトをいじめるな」
シグマだ。
その少し後ろにアビスもいる。
「チッ、面倒くせぇなぁ……。おいアルク、閉じ込めとけ」
「りょーかい」
アルクと呼ばれた茶髪イケメンは微笑みを崩すことなく、空中にコンクリートの箱を創り出し、シグマを閉じ込めた。
「おい、出せ!!」
きちんと小さな呼吸穴がいくつか空いているようで、そんな声が聞こえてくる。
彼のスキルは【創生】と呼ばれ、体力を消費して想像した物を現実に創り出すことができるというチート級の能力だ。
体力と使い方次第では充分Aランクスキルの【剣聖】や【賢者】を超えることができるだろう。
だがそれで立ち止まるシグマではない。
【空間魔法】持ちの彼はスキルを使用してワープし、なんとか脱出した。
まだあまり上手に使えないようで、息が一気に荒くなる。
それでも立ち止まることなくボルグたちの元へ向かっていき、
「おらぁぁぁ!」
「チッ、ちゃんと食い止めとけよ」
不愉快そうな表情でボルグがつぶやき、同じようにシグマを空中へと持ち上げた。
「あはは、ごめんごめん」
怒られたにもかかわらず微笑んで答えるアルク。
「まあいい……。さてと、こいつらどうしよっかなぁ」
そう言いながらボルグがその場に立ち上がった瞬間、
「おい、何してんだてめぇら!」
さすがに騒ぎすぎたらしく、赤髪教師のアニマが様子を見にきた。
「チッ」と鬱陶しそうに舌打ちをし、一年生二人を床へと下ろすボルグ。
「おい、ボルグ。どうして一年生をいじめているのか、説明してみろ」
「ただ遊んでただけっすよ」と不機嫌そうに返答した。
「本当か? お前ら」
「違います。あいつ……少し前から何度もアビスの首を絞めたりするんだ」
「……なるほどな」
フェイトの言葉に納得したように頷き、アニマはボルグたちの元へと向かう。
「なぁボルグ、アビスが何か気に障るようなことをしたんだろ? あいつは悪いやつじゃねぇんだよ。どうか許してやってくれ」
「許せって言われてもなぁ……。あの一年坊主、俺様に突っかかってきたくせに、一度として謝りもしねぇ」
「はぁ!? なんでアビスが謝らないといけないんだ?」
「そうだ! 悪いのは全部お前だろ! お前がアリアを突き飛ばしたから」
シグマとフェイトが言った。
「お前らも落ち着け。大体状況は把握できた。ボルグがアリアにぶつかって謝らずに、そのことに怒ったアビスが突っかかって揉めた、と……。合ってるか?」
「……はい」と真顔でアビス。
「まあ、そんなとこだ」
ボルグも頷いた。
「じゃあボルグ、お前が一年生に謝れ。それで穏便に済むだろ?」
「はぁ? なんで俺様が」
「元々の原因はお前だからな」
「いくらアニマ先生の頼みでもそれは無理だな。あいにく弱者に詫びを入れるような口は持ち合わせてねぇ」
「はぁ……そう言うと思ったぜ。というわけでひとつ提案がある」
アニマはなぜか嬉しそうに笑い、
「今から一か月後にクラス対抗の試合があるだろ? そのときに、俺が率いる一年生とお前ら四年生で勝負をしようじゃねぇか。もしそっちが負けたらボルグには土下座をしてもらおう」
「がははっ、アニマ先生。……あんた、頭がおかしくなったのか? 俺様が一年生ごときに負けるはずねぇだろ」
「それはまだわからないぞ? 俺の生徒たちをなめんじゃねぇ」
「別にいいですよ。せいぜい雑魚たちに猛特訓でもさせてやってください」
「ああ、そうしよう」とアニマ。
というわけで一年生と四年生は、一か月後に戦うことになったのだった。




