44 希望と災厄2 ハロルダ王子視点
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魔神ルイヴィースは、王国の人間にとって不幸の象徴。
それは、この世界では常識的なこと。
名前を聴くのだって嫌がる者が居るほどに忌み嫌われているのだ。
それが、サシャらしき人物の近くに居るという衝撃的な情報を聴かされたのだ。それは、もう動揺が隠しきれない。
「…………」
「大丈夫ですか?」
「ああ、少し驚いたな」
同意をするように使用人も首を縦に動かす。
「そうですね、自分も最初驚きました。あのサシャ・フリーク……いや、女神サレーシャと魔神ルイヴィースが一緒に居るというのは想像できないような情景です。ましてや、魔神や女神……神様なんて伝説の存在とばかり思っていましたからね」
しかし、彼もこの王国の異常からサシャが女神であると信じることにしたらしい。女神がいるのであれば、魔神がいても可笑しくないというのが彼の見解のようだ。
「その情報提供者は今から会えたりするか?」
使用人は後頭部に手を当てて、困ったような表情を作る。
「……それが、情報だけ置いてって、共和国に帰ったらしいんですよ。なんでも彼方で色々と政治的動きが活発になっているようで、残してきた人が心配とのことで……」
となれば、その証言をしてくれた本人はコレット共和国の方に居て、サシャもそちらにいる……これが最も有力な情報か。
「そうか……。悪いが、改めてコレット共和国に向かいたい。馬車での移動でどのくらいだ」
聞くと、使用人は少し考えるような素振りを見せ、やがてこちらに向き直った。
「恐らく、一週間程かかるかと思います……しかし、本当に行くのですか? 森っていったら……その、巨大な熊とか出ますよ?」
その熊というのは、あのとき俺がサシャ捜索の際に連れていった騎士達を襲った熊のことだろう。
森に行くにはやはり危険がつきまとう。
足場が悪い上に複雑な地形、人が殆んど足を踏み入れない為、野生の猛獣達もうじゃうじゃ湧いている。こちらに貿易に来た馬車が襲われるという話もよく耳にする。
だが、そんなことは今更なのだ。
既に襲われる体験をしたのだ。あのとき死んでいた可能性もある。ならば、今回のことで怯える要素などは無いに等しかった。
「大丈夫。護衛は付けるし、十分安全に気を付けて道を進む」
「ですが……前回サシャ・フリーク公爵令嬢を探しに行った時、騎士団の被害は甚大なものでした。あれで軽くトラウマとか植付けられてませんか?」
確かに、多少なりともそれはあるだろう。
「それは、一概に否定出来ないな」
「なら、志願する者は少ないのでは?」
しかし、彼の言っていることは間違っている。
「本当にそう思うのか?」
そう問い掛けた時、彼の反応からは本気でそう思っているのが彼の身動きから容易に理解できた。
そう、熊に襲われることは恐ろしいものだ。誰だって死にたくない。出来ることなら何処か遠くへと逃げてしまいたい。そんな心理状況を想像するのも無理はない。
だがそれは、本当に怖いことなのか?
死なら、熊に引き裂かれて死ぬのも、呪いで悶え苦しみながら死ぬのも同じ死である。
「えっと、違うのですか?」
「ああ」
熊に遭遇すれば命が危険にさらされる。
呪いを解かなければ確実にいずれ死ぬ。
果たして、人はどちらの道を選ぶだろうか? 俺なら間違いなく前者一択だろう。
「呪いで死ぬか……戦闘で死ぬか……」
「え?」
「つまり、死ぬ可能性のある遠征に行くか、それとも絶対に死ぬ呪いで何もせずに命を捨てるか。たった二つの選択肢だよ」
まあ、流石にここまで言えば、使用人も理解したようだ。
「つまり、騎士団の人間は護衛に付いてくれると、そういうことですか?」
「そういうことだ。もう後が無い。俺達は崖っぷちだ」
その事実は、改めて深く心に突き刺さった。
「なら、自分もお供します」
彼のそんなひと言につい挙動不審になってしまった。しかし、当たり前だ。彼はお世辞にも屈強な肉体を持っている訳ではない。護衛に向かないということだ。
「付いてくるということは、死ぬかもしれないということだぞ? 良いのか?」
「何をおっしゃっているのですか。ハロルダ王子が覚悟を決めて出向くのに、使用人が怖じ気付いていたなんて、使用人失格ですよ。それに、何も出来ないのは歯痒いので……」
彼の顔を見れば一目で分かった。
彼もまた、大切な人を失ったのだと。
「そういえば、君の名前を聞いていなかった」
「はい、名前はニラスと申します。家名は御座いません」
「よし、分かった。ならニラス、お前も同行してくれ。それから直ぐに馬車の手配を、騎士団にもこの話を通して、中隊規模の兵士を出すように手回しをしてくれ」
そう言葉を返すと、彼はキリッとした顔つきになり、威勢の良い返事を返してきた。
「では、ご命令通りに致します。お時間は五時間ほど掛かります。その間にハロルダ王子も御支度をよろしくお願いします」
こうして、コレット共和国へ出向く算段が整いつつあった。
彼が部屋から出ていく時。ふと、先程の紙に目線が寄せられた。
『オフェリア』……確か、女神にもこれに近い名前の女神が存在していたような……。些細な疑問は、彼の頭で暫く回り続けていた。




