5
するすると近づいてくるエルダーリッチ……全く動けず近づいてくる死に僕は目をつぶった。そして……
「ワッハッハッハッハ!」
死が笑った。何が起きたのか理解出来ずに呆然とリッチを見ている僕たちを可笑しそうに笑いながらフードをとった。頭蓋骨があらわになる。
「ハッハッハ、いやー脅かしてやろうとひと芝居うってみたがまさかここまで本気で怯えられるとは思わなかったわ」
「……どういうこと?」
エルダーリッチが僕たちにドッキリを仕掛けたらしい……意味が分からない。
「すまんすまん、殺気を感じたんで迎撃しようかと思ったが人だとわかったのでな。何百年ぶりの人だからついふざけてしまったわ」
「勘弁してくださいよ……こっちは死ぬかと思いましたよ」
ルークがげっそりした顔で愚痴った。僕も含めて皆げっそりしている。Sランクのエルダーリッチに殺されるかもしれなかったのだ。安心してどっと疲れが出た。
「何百年ぶりのドッキリじゃ、成功するかドキドキしたわ」
「リッチに心臓ないでしょ…」
「そりゃそうじゃ!ワッハッハ」
対してリッチのテンションの高さが半端じゃない。リッチってアンデットだろ?なんでこんな好々爺みたいな感じなんだ?
「とりあえずリッチさん、あなた何者なんですか?」
「よくぞ訊いてくれた!わしの名はポルコ・ソレーラ、かつてハルライ帝国で宮廷魔導士をしていたもんじゃ」
「ハルライ帝国だって!?」
驚いた。ハルライ帝国は約800年前にあった超魔導帝国だ。独自の魔法を生み出し圧倒的な国力を誇っていた。しかし、ライバル国であったケホマ王国との戦争で疲弊したところでモンスターパニックが起こり魔物に呑み込まれ滅びてしまった。ハルライ帝国の最先端魔法が失われたことで人々は一から魔法を研究し直したという。
「その帝国の宮廷魔導士って……半端ないやん。あんた、半端ないで?」
生きた伝説が目の前にいるのだ。いや、死んだ伝説?リッチなんだから甦った伝説?伝説は甦らないか、なら動く死体伝説ではどうだ?
「アルク、口調がおかしくなってるぞ」
ガルクが僕の頭をチョップした。
「いて……はっ!」
あまりの出来事に頭が飛んでいた。
「……その帝国の宮廷魔導士が何故リッチになってここに居るんだ?」
「うむ、これにはふかーい訳があるのじゃよ」
何百年ぶりの人との会話にポルコさんも活き活きしてる。活き活きしてるアンデットって違和感しかないわ。
「ハルライ帝国がモンスターパニックで滅びたことは知っておるか?」
「もちろんです、多分知らない人は殆どいないと思います」
「実はわしはその1年前に帝国の宮廷魔導士の席から外されたのじゃよ」
「え?」
「ま、理由は単純でわしが研究しておった魔法が帝国の方針とは違ったのでな。再三注意を受けたがわしも魔導士じゃ。そこは譲れんくてな。結局追放されたわけじゃ」
「へぇ、帝国はどんな魔法を研究してたのですか?」
「主に攻撃系の魔法じゃな。なにせハルライ帝国は大国じゃしケホマ王国と戦争状態であったことも含めて国力増強のために攻撃系魔法の研究が最優先されておった」
「なるほど」
帝国の魔法の情報に関しては全て失われているのでこうしてかつての魔法大国の話を聞けるのは凄く興奮する。
「てことはポルコさんは攻撃系魔法以外の研究を?」
「うむ、わしは男のロマンを研究しておった」
「男のロマン?」
「聞いて驚け、わしはなんと……透過魔法を研究しておったのじゃ!」
「ななな、なんだってぇ!?」
驚いてはみたが透過魔法の凄さがよく分からない。名前的に透明に関係することかな?まあ驚いたことによってポルコさんも喜んでいるみたいだ。
「透過魔法とは自らの体を透透明にしたり物質をすり抜ける魔法じゃ」
「……凄いな」
魔法の種類は何百種類もありその中には補助系の魔法も多く存在する。しかしポルコさんの研究していた透過魔法は存在しない。何故なら体を透明にする原理が分からないから。ましてや物質をすり抜けるとか不可能だ。
「これがなかなか難しくてな。体の原子の結合を緩めれば物質の原子の間をすり抜けることが出来るのじゃが調整を誤れば自分の原子がバラバラになってそのまま戻れなくなる。さらに緩めた結合を元に戻すにしても緩める前と寸分の狂いもなく元通りに結合させねばならぬ」
「……おお」
や、原子って何?ポルコさんが活き活きと説明してくれているがちんぷんかんぷんだ。難しいって事だけは分かる。テナもよく分からないみたいだ。魔法使いですらないルーク、カリア、ガルクは興味をなくしたみたいで部屋を見渡している。
「……てな感じで磁力コントロールに関係するの魔方陣を組み込むことで、ってそなたら聞いておるのか?」
「いやぁ、僕たちレベルでは何のことかさっぱりで」
ルークが苦笑しながら頬をかいた。
「……まあ、そんな研究を数百年続けておったらリッチになっとった」
「いや、リッチになった部分さらっとし過ぎですよ」
普通に考えてリッチになったら大慌てするでしょう。何その軽い感じ。
「魔力が非常に高い人間は死んだ後にアンデット化する確率が高い。わしも例に漏れず研究してたらいつの間にか死んどって甦ったんじゃ」
いつの間にか死んでって研究に没頭し過ぎだろ。なんで死んだことが分からないだよ……
「何故そこまで透過魔法の研究を?」
「それはさっきも言った男のロマン……覗きをするためじゃ!」
「「「………」」」
「「おおっ!!」」
なるほど!透明になる→壁をすり抜ける→女覗くってわけか!この爺さん男たちの夢を叶えてくれる魔法を作ったのか!
テンションが一気に上がったルークと僕をカリアとテナがゴミを見る目で見ている。
「おっ、おぬしたちも好きよのう」
「いやまさかポルコさんがそのような素晴らしい研究をしているとは」
ルークがニヤニヤしながらポルコさんにすり寄る。
「くくっ、ハルライ帝国の魔法バカ共とは違いおぬしたちは見込みがあるの。よし、わしの数百年かけた男のロマンをそなたらに伝授してやろう」
「「師匠!」」
「ホッホッホ、修行は厳しいぞ」
「「ロマンのためです!!」」
「ホッホッホ、イキやよし!ではまず魔法を見せてやろう」
するとなんてことでしょう。ポルコさんの体がだんだん薄れていき見えなくなった。キョロキョロとポルコさんを探す。
「きゃあ!」
後ろからテナの悲鳴が上がった。振り返るとテナがお尻を抑えて顔を真っ赤にしていた。まさか……
テナの後ろに師匠が現れ親指を立てていた。テナのお尻を触ったのか、なんて羨ましい!この魔法があれば街で好き放題や!僕たちも師匠に親指を立てる。
「何触ってんだこのエロじじい!!」
「ホグェ!?」
「「あ」」
テナが思いっきり師匠にアッパーカットをかました。
さて、ここで問題です!皆さんはテナの攻撃方法を憶えていますか?そう、テナは聖属性を拳に纏わして戦うスタイルでしたよね。アンデットは物理攻撃と聖属性に弱いです。ではテナの聖属性のアッパーカットをアンデットであるエルダーリッチにくらわせるとどうなるでしょうか?
正解は……即死です!!
テナに打ち上げられた師匠はそのまま塵となった……
「「し、師匠ぉおおお!!??」」
こうしてSランクの魔物エルダーリッチは倒され、世の女性の貞操は守られた。
ちなみにテナとカリアに僕たちは1週間一切話をして貰えずいないものとして扱われた。
しつこく話かけるとGを見る目で見られた。ルークは結構堪えたみたい。僕?もちろん大好物です。