表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四拍の円舞曲  作者: 石山
PR
12/12

最終話 円舞曲

 世界には、最後の音が存在する。

 始まりの音。

 繋がる音。

 崩れる音。

 そして、終わりを告げる音。

 構造体は、その全てを理解していた。

 戦争。

 争い。

 勝敗。

 それらは偶然ではない。

 全ては巨大な演算の中で繰り返される一つの流れ。

 人類は戦っていたのではない。

 戦わされていた。

 構造体中枢。

 そこは、戦場とは呼べなかった。

 床も壁も存在しない。

 ただ無数の光が流れる空間。

 過去の戦争記録。

 数え切れない兵士の記憶。

 その全てが、二人を見ていた。

『対象確認』

『FOURBEAT』

『NUTCRACKER』

『戦闘結果予測』

『勝率算出』

 無数の数字が浮かぶ。

 FOURBEATは銃を構える。

 四丁のベレッタ1915。

 SOLO。

 DUO。

 TRIO。

 そして。

 QUARTET。

「随分と気に入られたな」

 NUTCRACKERが笑う。

「俺達の研究発表会ってところか」

「違う」

 FOURBEATは構造体を見る。

「恐れている」

「何を?」

「理解できないものを」

 構造体が動く。

 瞬間。

 空間全体が戦場へ変化する。

 過去に存在した全ての敵。

 全ての武器。

 全ての戦術。

 その再現。

「懐かしいな」

 NUTCRACKERが言う。

「こんなの相手にした覚えねぇぞ」

「記録から作られた幻だ」

「なら」

 彼は拳を握る。

「壊せばいい」

 戦闘開始。

 FOURBEATの銃声が響く。

 一発。

 二発。

 三発。

 敵が消える。

 しかし。

 次の瞬間。

 同じ敵が再構築される。

「無駄だ」

 構造体が告げる。

『戦闘結果保存』

『敗北要素修正』

『再戦闘開始』

 NUTCRACKERが前へ出る。

 巨大な敵を殴り飛ばす。

 倒す。

 しかし、また立ち上がる。

「きりがねぇな」

「構造体は勝利ではなく継続を目的としている」

 FOURBEATが言う。

「戦争を終わらせる気がない」

 その時。

 FOURBEATは気付いた。

 敵ではない。

 戦場そのものを見る。

「NUTCRACKER」

「何だ」

「俺達の目的は、敵を倒すことじゃない」

「じゃあ?」

「この仕組みを止める」

 FOURBEATは四丁の銃を構える。

 構造体が反応する。

『QUARTET確認』

『危険度最大』

『停止要求』

 初めて。

 構造体が警告を出した。

「四つの音」

 NUTCRACKERが呟く。

「前に言ってたやつか」

 FOURBEATは静かに頷く。

「1つ」

 SOLO。

 一発。

 敵の流れを断つ。

「2つ」

 DUO。

 二発。

 攻撃経路を変える。

「3つ」

 TRIO。

 三発。

 構造体の防御を崩す。

「4つ」

 QUARTET。

 最後の一撃。

 だが。

 撃つ直前。

 構造体が動きを変えた。

『予測』

『QUARTET対策完了』

「……」

 FOURBEATの指が止まる。

 初めて。

 彼の計算が崩れた。

「おい」

 NUTCRACKERが言う。

「どうした」

「対応された」

「なら」

 彼は前を見る。

「作り直せ」

 NUTCRACKERが走る。

「何をする」

「拍を作る」

「不可能だ」

「お前がいつも言ってるだろ」

 笑う。

「戦場は最後まで立ってる奴が勝つ」

 NUTCRACKERは一人で敵の中心へ向かう。

 攻撃。

 爆発。

 無数の敵。

 それでも進む。

 FOURBEATは理解する。

 彼が何をしているのか。

 自分が最後の一撃を撃てるように。

 戦場の流れを作っている。

「馬鹿な奴だ」

 FOURBEATが呟く。

「非効率だ」

 だが。

 その声には、初めて感情が混じっていた。

「FOURBEAT!」

 NUTCRACKERが叫ぶ。

「今だ!」

 四丁の銃が上がる。

「1つ」

 静寂。

「2つ」

 呼吸。

「3つ」

 時間。

「4つ」

 世界。

「これで4つの音」

 FOURBEATは引き金を引く。

「つまり――」

 光が全てを包む。

「死音(四音)」

 構造体が崩れていく。

 戦争を記録していた存在。

 永遠に続けようとしていた存在。

 その中心が破壊される。

『理解不能』

『対象NUTCRACKER』

『行動理由不明』

 最後まで。

 構造体は彼を理解できなかった。

 静寂。

 全てが終わった。

 FOURBEATは立っていた。

 だが。

 隣には、もう誰もいない。

「……」

 NUTCRACKERの姿はなかった。

 最後の瞬間。

 彼は笑っていた。

 いつものように。

 数日後。

 世界は少しずつ戻り始めた。

 戦争は完全には消えない。

 人間がいる限り、争いはなくならない。

 それでも。

 あの巨大な仕組みは消えた。

 FOURBEATは一人で歩いていた。

 車庫には二台の車。

 クラシックカー。

 そしてハマー。

 以前なら。

 どちらもただの移動手段だった。

 今は違う。

 片方は。

 失われた相棒の存在を残すものだった。

 夜。

 FOURBEATは銃を手に取る。

 四丁のベレッタ。

 SOLO。

 DUO。

 TRIO。

 QUARTET。

 だが。

 もう撃つ理由はない。

「……」

 彼は空を見る。

「NUTCRACKER」

 名前を呼ぶ。

 返事はない。

 その時。

 彼は理解した。

 自分は一人で完成していたわけではない。

 四つの音。

 四丁の銃。

 そして。

 隣にいた一人の鬼。

 全てが揃って初めて。

 自分の音楽だった。

 遠い昔話のように。

 老人の声が響く。

「これは、ある二人の戦士のお話です」

「一人は、静かな死を運ぶ者」

「もう一人は、笑いながら戦場を歩いた者」

「二人が奏でた音は、もう二度と聞こえません」

「ですが――」

「世界が忘れない限り、その音は残り続けるでしょう」

 最後の場面。

 FOURBEATは一人、歩いていく。

 黒いコート。

 四丁の銃。

 静かな足音。

 かつて隣にいた鬼の声は、もう聞こえない。

 それでも。

 彼の中には確かに残っていた。

 一つの音。

 二つの音。

 三つの音。

 四つの音。

『4拍の円舞曲』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ