最終話 全ては水の中へ
上空にあった黒い点は、その姿がはっきりと捉えられるほどに迫って来ていた。
巨大な鳥、だが、その頭は蒼白い顔をした女性の頭である魔鳥ハルピュイア達が群れを成し、一気に降下して来ると、大きく鋭い鉤爪でガーゴイル達に襲い掛かって来た。
ガーゴイル達は槍で応戦し、数羽を刺し殺したが、数に圧倒され、体を引き裂かれて一匹、また一匹と斃れて行く。
中には飛んで逃げようと試みた者も居たが、羽を引き裂かれ、直ぐにハルピュイアに囲まれた。
六匹が屍となるのにそう時間は掛からなかった。
ハルピュイア達は次々と舞い降り、ガーゴイル達の屍を囲んで喰らい始めた。
数が多く、あぶれた者はガーゴイルが刺し殺したハルピュイアの屍を囲み、共食いを始める。
美しい顔には似合わぬ鋭い歯が並ぶ口元がどす黒い血に染まって行く。
「あ奴等、サタナエルの手の者かのぉ?」
「恐らく、そうであろうな。しかし、勝手に殺して良かったのかえ?」
「奴等は我等の国を狙っておるのじゃ。今更この程度で現状が変わりはせぬぞえ」
「それはそうと、あのガーゴイル達は何故あんな少数でここに来たのだ? 攻めて来るには少な過ぎるし、偵察にしては目立つ人数ではあるぞ」
「お前にはあれが見えぬのか? あそこに倒れておる奴の手足には鎖が付いた枷が嵌められておる。恐らく逃げたあ奴を追って来たのだろうて」
河に浮かぶ六つの頭の視線が、未だ倒れたまま動かないルシフェルに向けられる。
「はて、どうしてハルピュイアはあ奴だけ食わぬのじゃ?」
共食いまでしているハルピュイアが、何故かルシフェルだけは一瞥はするももの、食べるどころか近寄ろうともしない。
「食いたくないほど不味そうに見えるのか? それとも何か食えぬ訳があるのか?」
「あ奴何者かえ?」
「それはどうでも良き事ぞ。それよりあ奴の処分をどうするかぞえ」
「あの様子だと捨て置いても死ぬのではないか」
「もし生き延びれば事ではないか。このまま捨て行く訳には行かぬぞ」
「サタナエルが追っ手を遣わす者だ。あの体躯でもあるし、我が国に力となるやもしれぬぞ」
「それは女王様が決められる事じゃ。とりあえず城に連れて参ろうぞ。ハルピュイアよ、其奴を城の運ぶのじゃ」
一つの頭が命じるが、一匹としてハルピュイアはルシフェルに近付こうとしない。
「やはり無理か。どうしてじゃ……そうか。もしや、あ奴に嵌められておるあの枷、魔剛石で作られておるのか。あれではハルピュイアには運べぬぞ」
「ならば我等が運べば良き事ぞ」
「仕方なかろう。さあ、お前達も食べ終わったのなら、散って巡廻を続けよ」
ハルピュイア達は次々と飛び立ち、ばらばらに散って行った。
地面には、ガーゴイルとハルピュイアの骨だけが残った。
「それでは我等も行くかえ」
河の中から蛇の尾のような物が出て来て、這うように横たわるルシフェルに近寄り、その体に巻き付いた。
そのままルシフェルを河の中に引き摺り込むと同時に、六つの頭も河の中に消えて行った。
《第三章へと続く……》




