第九話 更なる追跡
程なくしてアスタロトが目を覚ました。
「くっ、まさか落雷するとは……」
周りには生き残った悪魔達が囲むように立っている。
「奴はどうした?」
「それが……逃げられました」
一匹のゴブリンが少し肩を窄めつつ言う。
「逃げただと?」
アスタロトは勢い良く立ち上がるが、雷撃を受けた影響か、少しふらつく。
「逃がしたと云う事か? 私に止めを刺さずに逃げたと言う事はその余力もないと云う事だ。お前達にもどうにか出来たであろう」
叱責に返す言葉はない。が、遠方から聞こえて来た魔獣の鳴き声に、少しの安堵の顔を見せる。
「魔獣を追わせておきました。どうやら見つけたようです」
「最低限の事はしていたか。今度逃がせば次はないと思え。良いな」
落ちている槍を背に戻したアスタロトは、残っている悪魔達と共に森に分け入って行く。
鳴き続ける魔獣の遠吠えに近付いて行くにつれ、川が流れる音も聞こえて来る。
その音が徐々に近付き、やがて森を抜けた先にルシフェルの姿があった。
流れが速い濁流が流れる大きな河を背にしたルシフェルを、五匹の魔獣が退路を断つように囲み、遠吠えを上げている。
ルシフェルの腹部の傷は再生を続けているが、まだ穴が開き、内臓が蠢いているのが見える。
「ガーゴイルは上空に。残った者は魔獣と共に囲め」
アスタロトの迅速な指示のもと、悪魔達が更にルシフェルの退路を断つ。
それを確認し、アスタロトが悪魔達が囲む中に分け入り、ルシフェルと対峙する。
「念入りな事だな。こんな姿で飛べると思うのか?」
「先程のような不意な落雷のような事があっては困るのでな。これでもう逃げられぬぞ」
「ならばまた活路を見出すまでよ」
「またはない。今度こそ終わりだ」
アスタロトは再び槍を手にするなり、ルシフェルに一気に飛び迫り、突き掛かる。
ルシフェルの動きは鈍く、その肩に槍が突き刺さる。
致命傷こそ逃れるが、間髪入れずに繰り出される槍が、腕に、足に、その体に、突き刺さる。
成す術なく突かれ続け、その槍が再生を続ける腹部を再び貫いた時、ルシフェルは朦朧とし、槍が引き抜かれると共に後方にゆっくりと倒れて行く。
アスタロトに手を差し伸べつつ倒れるその先には河が流れ、そのまま落ちてしまった。
その姿は一瞬にして激流に飲まれ、消えて行った。
アスタロトは少し状況を見守った後、槍を背に戻す。
「城に戻るぞ」
「ですが、奴の死を確認しませんと」
一匹のゴブリンが進言する。
「あの弱った体でこの河に落ちたのだぞ。例えそれで生きておったとして、この先には滝がある。生きてはおれまい」
アスタロトは飛んでいるガーゴイルに合図を送った後、河を一瞥し、その場を後にした。




