果て無き削り道
俺達は今この瞬間を削るんだ。
削り鰹、鰹節という世界一硬いだろう食材を如何に美しく削るか。
その腕前だけが問われるこの世界では、日々様々な職人が切磋琢磨していた。
ここはとある工場。
ギャリリリリリリリリ…
「オラ!!テメェギャリってんじゃねえ!!」
「すいやっせん!!」
「もっぺんやってみろや」
「へ、へい!!」
ギャリリリリ…
「だからちげぇって言ってんだろがコラアアァァァァ!!」
ドゴォ!!
「オゴォッ!!」
師匠のヨシアキに削りの技術を学んでいるのは弟子のマサである。
ヨシアキは凄腕の削り師であるが、数年前にとある出来事を機にその道から足を洗った。
ヨシアキ「毎日毎日よォ…テメェこの工場来て何年目だ?」
マサ「2…2年目です…」
先程のボディーブローがマサの内臓を痛め付ける。
ヨシアキ「なのにまだ基礎の"おさかなさん"を仕上げる事もできねぇのか?」
マサ「すいやせん…!本当に…」
2年前のある日、ヨシアキが削りの技術を磨いていた工場の前でボロボロになって倒れていたマサと知り合い雇うという事になっていた。
ヨシアキ「いい加減にしやがれ!!鰹節代もタダじゃねぇんだ!!」
マサ「うっ…」
ヨシアキ「いいかよく聞けお前には削りの才能はねぇ。やる気もねえならとっとと出ていけ。」
マサ「やる気はあります…!!」
ヨシアキ「だったら少しは結果をだしてみろやコラ!!」
マサ「は…はい…」
マサは何も言い返すことができなかった。
何かを考えているような仕草を見せるヨシアキをマサは黙って見ている。
ヨシアキ「一週間…」
マサ「え…?」
ヨシアキ「一週間の有余をやる。"おさかなさん"を俺の前で削って見せろ。」
おさかなさん。
削り師という言葉が今ほどメジャーではない時代に、とある人物が最初に造り出した作品である。
後に名をあげた削り師達は皆この"おさかなさん"を最初にそれぞれの道を歩んでいる。
いわば最初の壁だ。
マサ「だ………い…」
ヨシアキ「あ?」
マサ「やらせてください!!絶対に削り上げて見せます!!」
ヨシアキ「チッ、じゃあ一週間後、工場に来い。それまでは出入り禁止だ。」
マサ「わかりました!必ず…!!それでは失礼します!!」
道具を持ち、工場を急ぎ足で出ていくマサの背中をヨシアキは黙って見つめていた。
ヨシアキ「認めたくねーが、やっぱり似てやがるぜ。」
マサ「僕は…きっと…!!ヨシアキさんに認めてもらえるような削り師に…!!」
マサは胸に熱い想いを秘めるのだった。
楽しんでいただければ幸いです。
がんばっていきます。