7-2
シャワーから上がると、ソファの前のガラスのテーブルにワインが置かれていた。ご丁寧にワインクーラーに入れられ、グラスも二つ用意されていた。
そういえば、あの撫山はワインの会社の奴だったな。
そんなこと思いながら、ソファに近付く。
「長いシャワーだったわね」
玲美が意味深に笑うが、無視してソファに座る。
「飲んでいいか?」
「もちろん。乾杯しましょ」
乾杯か。
しかし断れるわけがなく、楽しげな玲美のグラスと重ねる。
彼女は俺に体重を預け、グラスを煽ると笑う。
「おいしい?武もそう思うでしょ?」
味なんてわかるわけがない。
黙ってる俺を無視して、彼女は飲み続けた。時折誘うように彼女が俺の体に触れ、そのたびに鼻に着く甘い香りに顔をしかめる。
「ねぇ。そろそろ」
彼女がそう言い、グラスをテーブルに置いた。
「武」
彼女は体を捻り、俺の首に手を回すと、キスをする。それは触れるような可愛いキスではなく、噛み付くようなもので、玲美の腕を振り払うと立ち上がった。
「武!」
彼女は怒った猫のように目を細くして、俺を見上げる。
「……今日は簡便してくれ。それくらいいいだろう。どうせ俺達はこれからずっと一緒なんだから」
「……そうね。わかったわ」
玲美は大きく息を吐くと、ワイングラスを煽る。
「俺は先に寝るから」
これ以上、纏わりつかれるのが嫌で、彼女に背を向ける。
部屋は二つあった。右手の部屋に入ると、ベッドに体を投げ出す。
寝られるわけがないが、早く横になりたかった。
「武。電話よ」
着信音と共にそう声をかけられ、はっと目を覚ます。
あほな俺は寝ていたらしい。
よく寝れるな。
そんな俺自身に驚きながら、玲美から電話を受け取る。
「もしもし?」
「池垣さん、夜分遅くすみません。実は撫山さんから変な電話があって。安田さんの住所を聞かれたんですよ。どうも一緒にいるみたいで」
そんなの知ってる。
俺が教えたんだ。
「知ってる。じゃなあ」
苛立つ気持ちのまま、電話を切った。
「誰?何?」
「同僚だ。酔ってかけてきたみたいだ」
「本当?その割にはいらいらしてるみたいだけど。あの女、誰かと一緒にいるんじゃないの?やっぱり本気じゃなかったのね」
玲美は笑いながら、俺の頬を触る。
「私は本気よ。あなたが好きなの。こんな手は使いたくなかったけど、どうしても欲しかった。誰にも渡したくなかったの」
その瞳は潤んでいるように見えた。
知ってる。
彼女が本気なのを。
でも答えられない。
きっと彼女と結婚しても、俺は眞有を思い続ける。
眞有だけが、唯一俺の心のよりどころだった。
「玲美。携帯ありがとう。じゃ、おやすみ」
彼女に答えることもなく、その手を振り払うとベッドにもぐりこむ。
「武!」
「悪い。眠いんだ」
体を猫のように丸くして目を閉じる。
「……明日からは、ちゃんと一緒に寝て。わかってるわね」
「……わかってる」
短く答えると、玲実が溜息をつく。
しかし納得してくれたらしい。パチンと部屋の電気が消えると、彼女が部屋を出て行くのがわかった。
今ごろ、眞有はどうしてる?
奴と一緒なんだよな。
奴に誘われた?
答えるわけないような?
でも……
自分から捨てたのに、自分から奴をけしかけたのに、気になる俺がいた。
俺だけの眞有、そうでいて欲しかった。
でもそれが無理なのはわかっていた。
俺から切り出した。
俺から捨てた。
俺はきっと一生孤独だ。
たとえ、玲美が俺を好きでいてくれても、俺の心はきっと孤独だ。




