5-3
「ありがとうございます」
昼食を食べた後、竹部でシュークリームを購入。
意気揚々と電車に乗り、眞有の家に向かう。
そして電車を下りたところで、俺は意外な人物に出くわした。
「玲美?」
「こんにちは」
玲美は俺を見るとその猫のような目を細くして笑う。
偶然?
おかしくないか?
今頃気づくのは遅いかもしれないけど、俺、見張られてる?
「どこに行くの?」
「友達のところ」
疑惑の視線を彼女に向け答える。
これで何度目の偶然だ?
ドラマじゃないんだから、おかし過ぎる。
「安田眞有のところ?」
「なんで、知ってるんだ?」
「私は武のことはなんでも知ってるもの」
玲美はふふと妖艶に笑う。
「彼女が好きなの?」
「お前には関係ないだろう?」
「関係あるわ。だって私、武のこと好きだから」
そう言った玲美の目は真剣だった。
以前の俺なら、こんな好みの子、絶対に逃さなかった。
たとえ彼女がいても、一度くらい関係を作っただろう。
でも、今は違う。
俺は眞有と付き合いたい。
だから、もう遊ぶのはやめる。
「悪いけど。俺は好きな奴がいる。だから、ごめん」
「……それは安田眞有?」
「……ああ」
隠してもしょうがないと素直に答える。
すると玲美が冷笑した。
「あんなデカイ女のどこがいいの?武に釣り合わないわ」
「そんなことお前に言われたくない」
デカイ女って、俺にしてみれば眞有は小さい。
玲美を見下ろす。
「……私、あきらめないわ。だって、釣り合わないし。それに……」
「それに?」
なぜかその言葉が引っかかった。
玲美は明らかに俺を監視してようなそぶりがあった。
俺が知らない何かを知っているような気がして、嫌な気持ちになる。
「教えてあげない」
彼女がぽんと俺の胸を叩く。
「そのうち、きっとあなたは私を選ぶから」
「どう意味だ?」
言葉の意味が知りたくて、思わず玲美の両腕を掴む。
「いたっつ!」
「玲美さん」
彼女の悲鳴にかぶって、男の声が聞こえた。
「池垣!」
男は俺の手を掴み、玲美を守るように身構える。
「藤山。大丈夫」
藤山?
男の顔を見つめる。
どこかで見たような顔だった。
そう、実家のどこかで……
ああ!
「藤山隼甫!」
「覚えていたのか。池垣」
「まあな」
藤山は玲美と俺の間に立ち、俺を睨みつける。
藤山は高校で同じクラスだった。俺のことが嫌いだというオーラを常に出していた奴だから、話した事はなかったが印象に残る奴だった。
思えばなんで、こいつにあんなに嫌われていたのか。
そんなことをぼんやり考えていた俺の耳に奴の声が届く。
「玲美さん、帰りましょう」
帰りましょう?
こいつは玲美のお守役か。いや、案外今はやりの執事か?
まさかな。
そんな柄がじゃなさそうだし。
「そうね。じゃ、武。またね」
玲美はくるりと俺に背を向ける。
「玲美!」
意味深な彼女の言葉が知りたくて、その名を呼ぶ。しかし彼女が振り向くことはなかった。
「池垣。また会おうぜ。今のうちに楽しむんだな」
玲美が車に乗り込むのを見て、藤山が彼女の後を追う。
「藤山?どういう意味だ?」
しかし藤山も答えることがなかった。
愕然とする俺を取り残し、二人の乗った車はエンジン音を鳴り響かせると走り去る。
しばらく奇妙な二人のことを思ったが、考えてもしょうがないと、眞有の家へ歩き出す。
その時まさか、二人が俺の実家に関わる大事なことを秘密にしていることなど想像すらしていなかった。




