5-1
「お疲れ様です~」
気がつくと、眞有と撫山の姿が居酒屋から消えていた。そのことに胸糞悪い思いをしながらも部長の手前、愛想笑いを浮かべ飲み続ける。
部長がお開きの言葉を言い、一時間後に解放された。
駅に向かって歩きながら、俺の手は携帯を握りしめている。
今頃、眞有は奴と一緒なのか。
やっぱり、奴と付き合う気なのか。
撫山って綺麗な男は、なぜか眞有が好きらしい。
物好きな奴だ、奴ならどんな女でも選べるのに。
なんで、眞有なんだ?
空を見上げる。
雲に隠れてるが、少しだけ月が見える。
星は相変わらずよく見えない。
電話してみるか。
案外、一人かもしれない。
そう決めると眞有に電話をかけた。
「もしもし」
眞有の静かな声が電話口から聞こえる。
その声に安堵する。
電話を取るってことは奴と一緒じゃないかもしれない。
「……眞有。今、邪魔か?」
「邪魔じゃないけど」
何?というように、いつもの調子で返事が返ってきた。
深呼吸すると聞きたいことを尋ねる。
「まだ彼と一緒にいるのか?」
一瞬間があって、眞有が息を吸うのがわかった。
一緒か?
胸に痛みを覚えながら、答えを待つ。
「……だったら?」
返ってきた返事に頭を殴られたような気がした。
眞有…。
やっぱり奴と一緒にいるのか。
俺はやっぱり友達にすぎないのか?
「そうか。邪魔したな」
やっとの思いでそう言うと、電話を切る。
これ以上、眞有と話ができなかった。
付き合ってもいないのに、彼女を詰ってしまいそうな惨めな行動をとりそうで嫌だった。
電話を両手で掴むと、目を閉じる。
素直になればよかった。
奴にかっさらわれる前に……
ツルルル…
手の中の電話が急に鳴り始める。
期待してディスプレイを見る。
玲美……
しかし、それは猫のような可愛い女、玲美だった。
「もしもし?」
迷ったが、電話に出る。
「武?今科田のバーにいるの?一緒に飲まない?」
「科田?」
近くじゃねーか。
今日は部長と上野と一緒に会社訪問した後、見山の隣の町の科田で飲んでいた。
「いいぜ。どこの店だ?」
どうせ真っ直ぐ家に帰る気はなかった。
飲むなら女と飲んだ方が、気がまぎれる。
そう思い玲美と飲むことを決めた。
「悪い。俺帰るわ」
玲美とバーで飲み始めて、一時間後、そう言って財布を取り出す。
「え?なんで?」
驚いた玲美が目を開く。
玲美は数名の男女と飲んでおり、店のオーナーとは顔なじみのようだった。
俺より少し下くらいの男女の話に適当に相槌をつきながら飲んでいたが、くだらなく思えてきて、帰ることを決めた。
話を聞きながらも考えるのは眞有のことだった。
「じゃ、これ」
俺は財布から札を何枚か出して、オーナーに渡す。
「武!」
玲美が甘えた声で俺を非難する。
「悪い、また今度。じゃ、皆さん、楽しんで」
俺は手を軽く上げると、ドアに向かって歩き出す。
「もう!」
玲美がそう言ったのがわかったが、それは一瞬で彼女の友人達が話を始めるのがわかった。
なんか金持ちぽいなあ。
彼女の友人達とちらっと再度見てそう思う。
ま、いいか。
そんなこと。
溜息をつくと、ドアを開けて外に出た。
冷たい空気が肺に入り込み、ぶるっと震える。
あ、でもちょっと酔い覚ましにはいいか。
そう思い、駅に向かって歩く。
終電までは間に合いそうな時間だった。
今頃、眞有は奴と……。
でもあれだけガードが堅いから、そうほいほい寝ることはないだろう。
そんなに簡単に寝るような女なら、俺と寝てるはずだ。
だったら、まだチャンスをあるか?
そういや、この間家まで送った時に、彼女のお母さんに、付き合ってくれればありがたいみたいなことを言われたことがあったな。
もしかして家のほうから固めれば、すんなりいくかもしれない。
まだ奴とは付き合ってはいないはず。
まだ遅くはない。
撫山から眞有を奪い返してやる。
そう心を決めると駅に向かう足を速めた。




