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撫山の野郎が一週間ほど、渡仏。
そんなグッドニュースを聞いたのにかかわらず、俺は眞有を誘えないでいた。
理由は仕事だ。
アホみたいに毎日、接待に付き合わされた。
カレーと眞有を一緒に食べた日から一週間ほどしてやっと時間ができたと思ったら、部長に強引に飲みに誘われた。俺は嫌だ嫌だと思いながらも、仕方なく後輩と部長の酒に付き合っていた。
部長は家庭がうまくいってないのか、かなり荒れた飲み方をしており、俺は内心溜息をつきながら適当に相槌を打つ。
ま、早くつぶれたもらったほうが助かる。
そして部長の愛想笑いしながら、ビールのジョッキを煽った。
「池垣~。お前、いい年なんだから彼女の一人くらいいたほうがいいぞ」
余計なお世話だ。
今いないだけだ。作ろうと思えばいつでも作れる。
そう思いながらも、そうですねと笑い返す。
「見て見ろ。あのカップル。一見月とすっぽんのカップルに見えるが、あーいう女がよかったりするんだ。顔じゃないぞ」
部長は真っ赤な顔をしてそう言う。こけた頬で、細い目、その上眼鏡をかけた、とても美男とは言えない。そんなこと言われても説得力がないなあと思いながら、そうですねと頷く。
「でも部長。あれはないですよ。俺はデカイ女は嫌いです」
その横に座っていた後輩が空気を読まずにそう口に出した。
おい、おい。
デカイって、確か部長の奥さんもかなり大きかった気がする。
「デカイって、デカイほうが心が大きくていいんだ。わかるか、上野!」
部長はがしって後輩の上野の肩を掴め、くさい息を吐きかける。
まあ、確かに一理あるよな。
眞有もそうだしな。
そういや、デカイ女って、まさか眞有じゃないよな?
月とすっぽんって?
部長が上野に絡んでる隙をみて、振り返る。
「眞有⁉︎」
後ろ姿だったが、俺にはそれが眞有だとわかった。
「池垣?」
「池垣さん?」
部長と後輩が訝しげに俺を見ているのがわかる。
しかしその視線に構わず眞有とその前の男の姿を確認する。
向かいにいるのは金髪野郎だ。
となると、撫山か。
ちょうどいい、顔を拝んでやる。
「部長。あの子、俺の知り合いなんで、挨拶してきます」
驚く面々を尻目に座敷から降りる。
そして二人に近づいた。
撫山が眞有より先に俺に気づく。
奴が予想以上の美形で面食らうが俺は営業で培った笑顔を浮かべて、眞有の側に立った。
「眞有」
「眞有さん」
そう呼ぶ俺に、合わせて奴が彼女を呼ぶ。
俺の声、奴の声に反応してか、眞有が顔を上げる。
「武?」
彼女が俺の姿を確認すると、目を瞬く。
「眞有さんのお知り合いの方なんですね。やはり」
俺を見つめる眞有を邪魔をするように撫山が言葉を放つ。
お前はなにも言わなくてもいいんだよ。
いらいらしながら、撫山を睨む。
「え、はい。大学時代からの友人です」
眞有ははっと我に返り、視線を俺から撫山さんに向けるとにっこりと笑う。
そして、次の瞬間、表情を険しいもの変えると俺を仰ぐ。
「武、なんで、あんたがここにるのよ!」
俺には、にこりとかないのかよ。
彼女の態度の違いに苛立ち、言わないでいいことを口にする。
「遇然だよ。偶然。月とすっぽんのカップルがいるって同僚が言ってたから興味本位で見たら、お前だった。面白いから見にきた」
「見にきたって。私はパンダだじゃないの! もう十分みたでしょ? ほら、あんたの会社の人、手招きしてるわよ。戻ったら?」
彼女は俺の言葉にいつものように怒りを見せ、後ろを見るようにあごをしゃくる。
本当、なんて態度の違いだ。
いらだちながらも、振り返る。するとやはり部長が戻ってこいと合図をしていた。
いや、でもここで単に席に戻るのは嫌だ。
撫山に俺という存在を見せ付けておきたい。
「あ、本当だ。でもその前に」
内心の苛立ちを隠し、余裕の表情を見せ、名刺を取り出す。
大人の男って奴をみせてやるぜ。
出来るだけ余裕があるそぶりで微笑み、撫山に名刺を差し出す。
「こんばんは。私は安田眞有の友人で池垣武といいます。いつもお噂はきいてます」
「噂なんて!」
俺の言葉に眞有が噛み付いてきたが、撫山はすっと立ち上がり、名刺入れを出す。
「はじめまして。池垣さん。私は撫山港です。以後お見知りおきを」
ハーフの美形はにこっと笑い、俺逹は笑顔のまま名刺を交換し合う。
こいつ、眞有に気がある。
絶対に。
奴の態度から俺はそれがわかる。
眞有はどうなんだ?
彼女は撫山を眺めていた。
うっとりしているようにも見える。
そうだよな。
美形好きとしては俺よりも撫山か。
「武! ほら、会社の人呼んでるよ。早く戻りなよ」
俺が邪魔らしく、眞有がそうせかせる。
「邪魔して悪かったな。じゃ、楽しめよ」
俺に冷たい眞有の様子に苛立ちながらも、撫山にそれを知られたくなくて、余裕を持って彼女の肩に触れてそう口にする。
「邪魔よ。邪魔。またね~」
すると彼女はやっと俺に微笑を向けて、手を振る。
くそ、妙に嬉しそうだな。
俺がそんなに邪魔かよ。
「ああ。またな。じゃ、撫山さん。また今度」
後ろ髪を引かれる思いもしながらも、部長たちがじっと見ているのがわかったので撫山にペコリと頭を下げると、座敷部屋のほうへ慌てて戻った。
「池垣~。どういうことだ?」
「池垣さん、もしかして気になる人とかなんですか?」
部長と上野が興味しんしんと俺を見る。
「そんなんじゃない」
眞有の冷たい態度、俺の変なプライドが邪魔して、ビールを飲みながらそう答える。
「そうですよね。池垣さんの好みは小柄な可愛い子でしたもんね」
なんでそんなこと知ってるんだと思いながらも、俺は適当に頷く。
「池垣、人は顔じゃ……」
酔った部長が俺にそう言い掛けて言葉を止める。
その視線は俺の後方に釘付けだ。
嫌な予感がして、振り返ると撫山と眞有がキスしているのが見えた。
嘘だろ?
まじで?
「意外に君の知り合いの子は大胆だな」
部長がこほんと咳払いした。
「そうですね」
胸に痛みを覚えながらも淡々と答える。
やっぱり、眞有は撫山と……
くそっ。
「人のキスなんて見ても面白くないですよ。さあ、飲みなおしましょう」
眞有逹を見ている上司と後輩にそう言い、ビールを煽る。
畜生。
頭にくる。
なんで、あいつなんだ。
顔か?
俺じゃだめなのか?
撫山を眞有から引き離したい気持ちを抱えながらも、彼女の気持ちを推し量り、ただ、後ろを振り返ることもなく、上司たちと飲み続けた。




