第69話「それぞれの修行」
サクヤが森で修行を続けている頃。
別の場所でも――
三人は、それぞれの修行を続けていた。
――ドンッ!
「ぐっ……!」
レンの身体が地面を転がる。
大剣が手から離れる。
「立て」
目の前にいるのは、師匠――バルガス。
レンは歯を食いしばる。
「……まだ、やる」
大剣を拾う。
腕は重い。
呼吸も荒い。
それでも立ち上がる。
「来い」
バルガスが構える。
「――っ!」
レンが踏み込んだ。
大剣を振り下ろす。
――ガキィン!
バルガスの剣とぶつかる。
レンの腕が震える。
「力だけじゃ遅い!」
バルガスが押し返す。
「分かってる!」
「なら考えるな!」
「……!」
レンが目を見開く。
「感じろ!」
次の瞬間。
バルガスが踏み込む。
レンは考えるより先に身体を動かした。
――ギリッ。
剣を避ける。
「……!」
レンの目が変わる。
今までなら、相手の動きを見てから動いていた。
だが今は――
「……ここ!」
身体が先に動いた。
大剣を振り抜く。
――ドンッ!
バルガスが受け止める。
「……悪くねぇ」
レンが息を吐く。
「……少しは近づいたか?」
「まだまだだ」
「だよな!」
レンは笑った。
* * *
その頃。
レイは一本の木の前に立っていた。
刀を抜いている。
向かいにはシオン。
「構えろ」
「はい」
レイが構える。
静かだ。
周囲には風の音しかない。
――ヒュッ。
シオンが消えた。
「……!」
レイは反応する。
刀を振る。
だが――
空を斬った。
「遅い」
背後。
「……!」
レイが振り返る。
シオンの刀が首元で止まっていた。
「また考えたな」
「……」
「相手が来る前に答えを出そうとするな」
レイは刀を下ろす。
「……分かっています」
「なら、捨てろ」
「何を?」
「考えすぎる癖を」
レイは黙る。
もう一度構える。
今度は目を閉じた。
「……」
音。
風。
気配。
そして――
足音。
レイが刀を振る。
――キィン!
シオンの刀を弾いた。
「……!」
レイ自身も驚いた。
シオンが僅かに笑う。
「今のだ」
レイは刀を握り直す。
「……なるほど」
ほんの一瞬。
頭で考えるより先に身体が動いた。
* * *
そして――
リン。
「……もう一度」
セレナの前に立っていた。
周囲には無数の魔法陣。
炎。
風。
土。
水。
様々な魔力が飛び交っている。
リンは目を閉じた。
「……」
すべて感じる。
炎。
風。
土。
水。
遠くの魔力。
近くの魔力。
全部が頭の中に入ってくる。
「……っ」
リンの眉が寄る。
多すぎる。
「必要なものだけ」
セレナの声。
リンは呼吸を整える。
炎を捨てる。
風を捨てる。
土を捨てる。
水を捨てる。
そして――
一つだけ。
「……そこ」
目を開く。
指先から魔法が放たれた。
――ドンッ!
離れた場所にある標的だけが砕ける。
セレナが頷く。
「できたわね」
「……はい」
リンは小さく笑う。
だが――
「まだです」
セレナを見る。
「もっと速くできます」
「そうね」
セレナも頷く。
「でも焦らないこと」
「……はい」
リンは前を見る。
そして――
ふと。
サクヤのことを思い出した。
「……サクヤ」
小さく呟く。
「今頃、何してるんだろ」
レンも。
レイも。
それぞれの修行の中で、同じことを考えていた。
――サクヤは今、どこまで行っているのか。
レンは大剣を握る。
「……負けてられねぇな」
レイは刀を鞘に収める。
「……僕たちも進まないと」
リンは杖を握り直す。
「……追いつくから」
三人は知らない。
サクヤがすでに――
小さな歪みを一つ、壊したことを。
そして。
それぞれの修行はまだ――
始まったばかりだった。




