第二十二話
◆第五章「That alleyway」◆
「――――夢を見た」
時刻は夕方頃。
テレビをぼんやり眺めていると突然、彼はそう呟いた。
「夢、ですか?」
「ああ」
その日も、オレは先生の家にいた。
相も変わらず対面のソファーに座ったまま、先生を見ると、彼は窓の外をじっと、見つめている。
「普段、見ないとかですか?」
「見るのはたしかに少ないが……今日のは何というか、懐かしくて不思議な夢だったよ」
話しながらも視線は遠くを見つめたまま、見えない何処かを視界に捉えているようだった。
「どんな夢か?」と、そのひと言が喉に引っかかった。
ここ数日、先生といると妙な違和感が胸を満たす。
話し方も雰囲気も変わりないし、どこか体調が悪そうだということもない。
が、どこかで違和感がずっと纏わりついていた。
「子どもの頃……前にアパートに住んでいた子の話をしたことがあったろう?あのくらいの時の夢だ」
先生はオレの様子に気づいているのかいないのか、オレが何かを言う前に夢の話を始めた。
「私が住んでいた家からバス停に向かう途中、小さな路地があってね。幼い私は母に手を引かれて歩いていたのだが、私はそこで立ち止まって、その路地の奥をじっと見つめて動かないんだ」
「路地の奥には何があるんすか?」
「何の変哲もない曲がり角だ。くだらない話だろう?大人になってしまえば何もないと分かっているのに、子どもにとってはそんな些細なことさえ不思議と輝いて見える」
「先生はその曲がり角の向こうに行ったりは……」
言いかけたところで先に、先生が首を振って否定した。
先生はサイドテーブルに置いた水を一口飲んで続ける。
「行かなかった。一人で外を歩く歳になっても、結局……足は向かなかった」
「何か理由とかあったんですか?わざと調べなかったとか、面倒くさかったとか……」
先生はずっと、窓の外に向けていた視線を初めてこちらに向けた。
そのまま、サイドテーブルから何かを取ろうとして、結局は止めた。
「さあな……。たぶん、知らないままでいたいんだろうな。たとえそれが、どれだけくだらないことでも」
そう言って微笑む先生が、この時のオレには遠く感じてしまった。
まるで、目の前にいるのに、いつか居なくなってしまいそうで――。




