表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
睦月の幻  作者: 時計屋
第五章「That alleyway」
22/29

第二十二話


◆第五章「That alleyway」◆


「――――夢を見た」


時刻は夕方頃。

テレビをぼんやり眺めていると突然、彼はそう呟いた。


「夢、ですか?」

「ああ」


その日も、オレは先生の家にいた。

相も変わらず対面のソファーに座ったまま、先生を見ると、彼は窓の外をじっと、見つめている。


「普段、見ないとかですか?」

「見るのはたしかに少ないが……今日のは何というか、懐かしくて不思議な夢だったよ」


話しながらも視線は遠くを見つめたまま、見えない何処かを視界に捉えているようだった。


「どんな夢か?」と、そのひと言が喉に引っかかった。

ここ数日、先生といると妙な違和感が胸を満たす。

話し方も雰囲気も変わりないし、どこか体調が悪そうだということもない。

が、どこかで違和感がずっと纏わりついていた。


「子どもの頃……前にアパートに住んでいた子の話をしたことがあったろう?あのくらいの時の夢だ」


先生はオレの様子に気づいているのかいないのか、オレが何かを言う前に夢の話を始めた。


「私が住んでいた家からバス停に向かう途中、小さな路地があってね。幼い私は母に手を引かれて歩いていたのだが、私はそこで立ち止まって、その路地の奥をじっと見つめて動かないんだ」

「路地の奥には何があるんすか?」

「何の変哲もない曲がり角だ。くだらない話だろう?大人になってしまえば何もないと分かっているのに、子どもにとってはそんな些細なことさえ不思議と輝いて見える」

「先生はその曲がり角の向こうに行ったりは……」


言いかけたところで先に、先生が首を振って否定した。

先生はサイドテーブルに置いた水を一口飲んで続ける。


「行かなかった。一人で外を歩く歳になっても、結局……足は向かなかった」

「何か理由とかあったんですか?わざと調べなかったとか、面倒くさかったとか……」


先生はずっと、窓の外に向けていた視線を初めてこちらに向けた。

そのまま、サイドテーブルから何かを取ろうとして、結局は止めた。


「さあな……。たぶん、知らないままでいたいんだろうな。たとえそれが、どれだけくだらないことでも」


そう言って微笑む先生が、この時のオレには遠く感じてしまった。

まるで、目の前にいるのに、いつか居なくなってしまいそうで――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ