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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
序章 家までが遠い

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ここまでをチュートリアルと呼ぶのなら



 ナナイの故郷を滅ぼしたとかいう仇の存在についても気になりはしたけれど、しかしあまりにも込み入った事情である。踏み込んでいいものか考えた末に、ユッカはあえてそれ以上は聞かなかった。

 これがゲームだったなら、ユッカもイベントフラグが立ったな、とか思って首を突っ込む事を躊躇わなかっただろう。


 別に首を突っ込まなくても巻き込まれてなし崩しに手伝う流れになったりする事だってあるかもしれない。


 だがユッカはあくまでも平凡な女子高生である。

 戦闘技術に長けたわけでも、魔法が使えるわけでもない。どこまでも平凡な人間だ。


 下手に首を突っ込んだ結果誰が苦労する事になるかと言えば、ロゼだ。

 彼女は魔女であるが故に、魔法が使える。そういう意味では助けになれるだろう。

 だがロゼも不慮の事故で今現在、本来の姿ではない状態だ。それでも魔法が使えるとはいっても、本来の姿の時と同じようなコンディションというわけでもないらしいので、余計な事をして労力を費やすわけにもいかない。


 ロゼが手伝おうか? と言い出したのであればまだしも、そうでないのなら余計な事はしでかさないに限る。


 流石にナナイだって行き倒れていたところを助けてもらうまではともかく、故郷を滅ぼした相手を倒す手伝いをしてくれなど言い出さないだろう。

 ユッカがナナイの故郷と関わりがあるのならまだしも、一切関係がない相手だ。高名だとか、助けを求められる程の知名度があるわけでもない。


 ユッカがした事は、精々お腹を空かせていたナナイとディオスに食事を出しただけだ。

 それだって、元はと言えばロゼの所持品の中からなので、ユッカが自慢できるような事でもない。


 ナナイもここが崩落したという事実を把握していなかったようなので、一緒に脱出する流れになったのはある意味で当然の成り行きだった。引き留めなければナナイはユッカたちが来た方向へ進もうとしていたのだ。ユッカは崩壊している場所から遠ざかるように移動しているので、ナナイがそちらに行くとなると、崩壊しているところへ足を踏み入れる形となる。

 助けた相手が危険な場所に行くとわかっていて、引き留めないわけにはいかなかった。


 念のためどうしてこのあたりにいたのかを聞いてみたが、普通に仇を探していただけでここにハッキリとした目的があるとかそういうわけでもなかったので、ナナイもユッカの引き留めに応じた。

 この先に確実に仇がいる、とか言うような展開であればこうはならなかっただろう。


 もっとも、その場合仇というのが高確率でローザローゼシカになってしまうのだが。


 流石にロゼがそんな事をするような魔女だとはユッカとしても思いたくないので、ナナイの敵がローザローゼシカでないという事実は安堵するには充分だった。


 そんなわけでロゼとユッカは当初の予定とは異なり、何故か道中の同行者が増えた状態でひたすら進む事となっていたのだが。


 ディオスはともかくナナイは好奇心旺盛なのかなんなのか、


「あっちの木に生ってる実は食べられるものでありますか?」


 だとか、


「その花は食べて大丈夫なものでありますか?」


 だとか。


 まぁ他にもいくつかあったけれど、話の内容の大半どころか全部が全部「あれは食べられますか?」であった。


 ユッカはそれに当然答えられない。

 何故って、自分が住んでた世界と似た物があってもそれが本当に同じであるかどうかの確証がまだなかったし、自分の世界で見た事のない物に関してはもっと答えられないからだ。

 だから答えたのは全部ロゼである。


 ロゼもロゼで、ナナイに答えてあげているのはそうなんだけど、ついでに自分たちはソルシエルロスであると言うのを印象付けるように、かつロゼはユッカのお目付け役であるかのように振舞った。


 つまりは、

「それは食べられないよ。ユッカも、うっかり口にいれないようにね」

 なんて言われるのである。


「食べないよ!? 流石に自分でこれ大丈夫ってわかってるやつ以外を勘でいけるとか思ってとか毒があったら困るからやんないからね!?」


 そこら辺はユッカの住んでる世界でも山菜とかキノコでありがちな話なので、ユッカとしても必死である。

 ロゼが本気でユッカをそういう――落ちてるものを平気で口にいれる幼児みたいに思っているとは思っていないが、だからといって適当に流すとディオスあたりにそういう印象が植え付けられる可能性もあったので。


 どんだけ食に貪欲なんだ……とユッカは内心で慄きつつも、ナナイがあれは? これは? と聞いてくるのを止める事はしなかった。

 ユッカとしても正直「あれは何?」と聞きたい気持ちはあったので。


 見た目が同じでもこっちとあっちの世界ではベツモノの可能性もあるのだ。

 ナナイやディオスがいなければロゼと堂々とそこら辺の会話もできただろうけれど、いる時に自分の住んでる世界の話などできるはずもない。


 ユッカとロゼの故郷が別であると知られると、ソルシエルロスというのが嘘であるとバレてしまうので。


(嘘をつくとバレないように他にもいくつか嘘をつく羽目になるよってこどもの頃ばあちゃんに言われたけど、本当にその通りなんだなぁ……)


 そんな当たり前のことですらしみじみと思ってしまう。


 こっちの世界に来てまだほんの数日であるけれど、既にばあちゃん家がとても恋しい。

 こっちの季節は今どうなっているかはわからないが、そこまでの暑さはない。


 けれども、なんだか無性にあの馬鹿みたいな暑さが恋しくなってきていた。仮に今すぐ戻ったとして、その暑さは早々にやっぱ恋しくなかった、と手の平を返すような事になるだろうけれど。


 川の近くで魚がいないか探すナナイに、そこまでのんびり食料を探す余裕はないよとロゼが声をかける。

 崩壊の気配はまだしていないけれど、それもいつまでもつかわからないのだ。

 まだまだ猶予があるとなったとしても、流石にこんな動物の気配がほとんどなくなってしまった自然しかないところに居座り続けるつもりもない。


 今日も今日とて日が暮れて、異世界に来てまともな状態でベッドで眠ったのは初日だけだなと思いながらも一夜を明かして。


 そうして次の日に、ようやくこの崩落したところから脱出する事ができたのである。


 脱出できる場所は、一見すると目立つ何かがあるわけではなかった。

 事実ユッカの目にはその先にも続く景色が見えていたし、まだまだ続くと思っていたのだ。

 ところがその向こうが見えてはいても、その途中の空間が歪んでいた。

 歪む、という表現もどうかと思うがユッカにしてみればそうとしか言いようがなかったのだ。


 水面に石を投げた時のような波紋が広がっているのが見える。

 それがなければただの景色だと思えたのに、それがあるせいで異質さが際立っている。


「あぁ、あったね。ここからフラワリー地区に戻れそうだ」


 ロゼの言葉から、目的地はここだったのだと察する。


「えっと、ここを通ればいい、って事?」

「そう。そうすればすぐにここと本来繋がっていたフラワリー地区の方に戻れるって寸法さ」


 どういう仕組みかはわからない。

 けれどもロゼがそう言うのならそうなのだろう。


 繋がりが途切れていたら無理であるとは言われたが、その場合はその場合で他の方法もあったらしい。


 本当に大丈夫でござるか~!?


 なんて茶化したい気持ちが不安の裏側で囁いているけれど、ここで尻込みしたところで意味がないのもユッカは理解していた。できるかできないか、ではなくやるかやらないか、なのだ。そしてこの場合はやる一択。


 意を決して通り抜けた時にユッカが思ったのは、なんか温い……であった。


 ぬるま湯でできた膜みたいなものを通り抜けた感覚。実際お湯ではないので濡れたりはしなかったし、纏わりつくような感触もなかったけれど、それでも妙な感覚だった。


 ゲームによくある転移方法みたいな感じでもなかったし、案外一瞬の出来事だったので一言で感想を述べるのなら、なんかよくわからん、に尽きる。

 まぁ、乗り物酔いのような感覚がするだとか、くらくらして気持ち悪いだとか、そういう事にもならなかったので良しとする。


「戻って、きた?」

「うん、とりあえずはこれで崩壊に巻き込まれる前に脱出しようと急ぐ必要はなくなったよ」

「そ、っか」


 案外なんて事のないものではあったが、それでもやはり内心張り詰めていた部分があったのは確かだった。

 泉でロゼが魔法で見せてくれた、崩壊している場所の光景を思い出す。もしそんな場所に自分がいて、逃げ遅れていたのなら。


 今頃人知れず自分という存在はゆっくりと分解されるようにして消えていたはずなのだ。

 それが回避できたのは大きい。


 とはいっても、景色は別段変わりがない。

 突然町の中に出現したとかでもなく、周囲は相変わらず自然たっぷりのままだ。

 それでも、先程まであまり感じ取れなかった動物の気配のようなものはちらほらと感じ取れたし、それが事実であるかのように周囲で鳥の鳴き声が聞こえた。


「まずは町に向かおうか」

「そうですね、それがよろしいかと」


 ロゼの声にディオスが賛同する。


「崩落から抜け出せた事ですし、ナナイはここで失礼するであります。

 助けてもらった恩は忘れないであります。恩返しはいつか必ず!」

「や、うん、別にいいよ」


 ディオスはともかくとしても、ナナイはやるべき事がある。

 ユッカもそれをわかっているので、別に引き留めるつもりもないし、ここでお別れだというのならそれはそれで全然構わなかった。


 たっ、と軽やかな足取りで駆け出していったナナイを見送る――ような形になったのも一瞬だった。

 思った以上に俊敏で、ナナイの姿はあっという間に見えなくなる。


「さて、じゃあボクたちもまずは町に行こうか」


 ナナイが進んだ先は町の方角から少しずれているような気もしたが、今から彼女を呼び止めるのも難しい。既に姿は見えなくなってしまったので。


 またどこかで行き倒れるような事にならなきゃいいけど……と思ったものの。

 そんな忠告も言うには今更だった。



 ともあれ、ロゼとユッカ、それからディオスの三人はまずは町へ向かおうと気を取り直して歩き始めたのである。



 なお道中、三回程スライムみたいな魔物と遭遇する事となった。



 ゲームならたった三回の戦闘回数は少ないと言えるが、しかしユッカにしてみれば魔物がいるとは思っていなかったので内心でそりゃもう驚いたのだ。

 えっ魔物!? 魔物いるのここ!? と叫ばなかっただけでも褒めてほしいくらいに。


 それらはあっという間にロゼとディオスが倒したとはいえ。

 ユッカの内心はこの時点で疲労困憊だったのは言うまでもない。



 故に、やっと町に辿り着いた時点で相当にへとへとだったのである。

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