ざっくり同じにオンリーワンを求めていない
ディオスに続いて二人目の行き倒れを発見した。
もしかしてこの世界はこういうのがデフォなのか……? ユッカがそう思っても仕方のない話である。
何せユッカがこの世界に来てから知り合ったのはロゼとディオスと目の前で倒れている少女だけなので。
三人中二人も行き倒れているのだから、むしろ行き倒れていないロゼが現時点まさかの少数側である。
ユッカが声をかければ、少女はかすかに反応を示した。
「うぅ……」
「あ、ちゃんと生きてるね」
これで死んでたらどうしようかと思った、というのが隠す事のない本音である。
「どこか怪我とかしてたりしますか?」
いきなり揺さぶるような事をするのはもし頭に怪我をしているようなら最悪の結果になりかねない。
それもあってユッカはどうにか倒れている少女との会話を試みる。
「……か、ぃ……」
「え?」
「おなか。すいた……」
ぐぎゅるるるるるる。
掠れた小さな声。どうにか聞き取れた直後にそれら全てを掻き消すような腹の音が響いた。
「行き倒れ理由も同じとか、何、こっち食糧事情芳しくないとかそういう……?」
思わずユッカはロゼにそう問いかけていた。
いや、断じてそんな事はないはずなのだけれど……という意味を込めてロゼもそっと首を横に振る。
「ロゼ、なんか食べ物あったかな……?」
「あるけど流石に火を通さないと駄目かも」
「じゃ、ひとまずここで休憩にしよう」
別にここで寝泊まりするつもりはないのでテントは出さなかったが、そのかわりに他の道具を出していく。
火はロゼの魔法で簡単につけることができるので、ユッカがやるべき事は基本的にリュックの中から必要な道具を取り出して準備を進めるだけだ。
火がついて、鍋の中に水を魔法で出して湯を沸かす。
そうしてそこに、いくつかの食料を突っ込んでいった。
塩や胡椒で味をつけて、一応飲めなくもない、くらいの可もなく不可もなくなスープが完成する。
この少女が空腹で倒れてからどれくらい経過しているのかわからないが、先に倒れていたディオス以上に盛大な腹の虫からして、胃の中すっからかんなのでは……? と思った結果である。
ディオスの時はそもそもそこまで気が回らなかったが、しばらく何も食べてない状態の胃に固形物をいきなりぶち込むのはなんか危なかったような……と今更、本当に今更思い出したのだ。
「ちょっと熱いから、気を付けてゆっくり飲んでね……?」
そう言って差し出したカップを受け取った少女は。
受け取るなりそのまま一気に熱めのスープを飲み干した。
「いやぁ、助かったであります」
「うん、そっか。火傷とか大丈夫そ?」
一気に飲み干した挙句おかわりを所望されたので、結局作ったスープのすべては少女の胃の中だ。
先程まで倒れていたのが嘘のように元気いっぱいの少女に、ユッカは思わず引いた。
元気になったのはいいんだけども……という感情がこれっぽっちも隠せていない。
死ぬかと思ったであります、なんて言う少女をユッカは不躾にならない範囲で観察した。
まず、着ている服はローザやディオスと違い、どこか現代っぽさがあった。
黒を基調に所々に白が使われている、シンプルな色合いの服はカジュアルなサバゲ―をこれからやるつもりです、とか言い出しそうな人が着ていそうな印象である。
ユッカの脳内に、なんかちょっと軍服っぽく見えなくもないんだよなぁ……と軍服モチーフにしたゲームキャラが数名脳裏に浮かぶが、流石に軍服ではないだろう、と思い直す。
ゲームの中なら機能性とか無視してデザイン重視だろうとなんだろうと言い張ってしまえばドレスにしか見えなくても軍服だとごり押しも可能だが、流石にここでそれはない、と思いたい。
ギリ、どっかの自警団とかそう言う感じの制服に見えなくもないかな……とは思っている。
大体半袖だし足もそれなりに露出されているので、それもあって軍服に似てる要素はあるけれども……となったのだ。
灰色の髪はユッカの世界でも絶対にない色合いというわけではないが、ユッカの世界だとうっかり白髪に間違われそうな気がしないでもない。
だと言うのに少女の髪の色は白髪には見えなかった。灰色といっても白成分が多めであるにもかかわらずだ。それから、金色の目。
異世界なのでカラコンかな? なんて思うでもなくそれが普通なんだろうな……やっぱ異世界って凄いなぁ……と何度目かの驚きを実感するも、見たところ少女からそれ以上の情報は得られなかった。
年齢的にはユッカとそこまで変わらないような気もするけれど、こっちの世界には普通の人間はいないというので、見た目と中身が一致していない可能性は充分に存在している。
「火傷、でありますか? 問題ないであります」
それはしていないのか、したけどこれくらいは平気なのか、どっちなんだ……と突っ込みたかったが、言ったところであまり意味はないと気付いたのでユッカは別の事を口に出した。
「私はユッカ。こっちはロゼ。貴方のお名前は?」
「僕はディオスと申します」
ディオスに関しては自分が紹介しなくてもいいだろう、と思ったユッカの意図を汲んだのかはわからないが、流れるようにディオスも名乗る。
少女はそんな三名をしばしぽかんとした様子で見ていたが、やがて口を開いた。
「ナ、ナイであります」
「ナナイね、それでなんでこんなところで行き倒れに?」
答えたくないなら言わなくてもいいよ、と続ければナナイはほんの少しの間を置いてから口を開いた。
「路銀が尽きたであります」
「まて、あんたもか」
行き倒れているところからここに至るまでディオスと全く同じ流れすぎて、ユッカは外面放り投げて突っ込んでいた。えっ、なに、異世界ってむしろこういうのがデフォなの……!?
そんな気持ちでいっぱいである。改めてもう一度ロゼに視線を向けたけれど、ロゼは「知らないにゃ」とばかりにユッカから視線を逸らした。
「あんたも、とは?」
「この人もそう」
首を傾げたナナイに、ユッカはお行儀が悪いと思いながらもディオスを指さす。
「まさか短期間で同じ理由で行き倒れてる人見つけるとか思わないじゃん?」
「成程、それは確かに……二番煎じでありましたか」
「いや、オリジナリティ出せって話でもないんだわ」
「実のところ、仇を探しているところでありまして」
「おっと?」
いきなり風向きが変わったぞ、とばかりにユッカは眉を跳ね上げていた。
これ、聞いて大丈夫な話題? そう聞くもナナイは気にした様子がこれっぽっちもない。
「故郷を滅ぼした元凶とも言える相手を探していたものの、手持ちの金を使い果たしロクな仕事もみつけられず、そこらの草を食むなどして飢えを凌いでおりましたがとうとう限界に至り……今に至るであります」
ちなみにそこら辺の草はあまり美味しくなかったであります、と重要な情報かのような言い方をしているナナイに、ユッカは改めてロゼを見る。
「そこの草は食用じゃないから食べても苦いし量によってはお腹壊すよ」
「えぇ、お腹は痛いし動けなくなるしで意識を失っていたところであります」
「いや割と危ない状況だったんじゃ……」
「腹を下さなかったのでセーフでありますね」
「それセーフかなぁ……?」
いや確かにナナイの言う通り腹を下した状態で倒れられて、気を失っている間に色々垂れ流されているような状況だったらそれはそれで……とはユッカも思ったけれど。
もしそんな状態だったら流石にユッカも「もしもーし、大丈夫ですか?」なんてのんきに声なんてかけなかったに違いない。
「ところでそちらもナナイと同じ理由でありますか?」
「流石にそこまでではないですねぇ……我は流浪の身ではあるがそのように追い求める敵の存在などおらぬ故」
やけに芝居がかった口調でとってつけたような返し方をしたディオスに、ナナイは「では、全く同じというわけでもありませんね」とまるで何かが解決したみたいに言っている。
そんなところで個性を出されても困るのだが。
「しかしまぁ、行き倒れを二人も拾って助けるなんて、慈善事業でもやってる方でありますか?」
「慈善事業はやってないかな」
「成程。では、助けられた以上借りは返さねばなりませんね」
「いやそれもいいかな別に。これくらいは助けたうちにも入らないと思うし」
そうでなくともユッカがやった事はほとんどない。
どちらかと言えばロゼの荷物から食料を融通したので、感謝はロゼに……と言いたいところだがそれを言うわけにもいかず。
ソルシエルロスは魔女と猫が相棒を組んでいるようなもの、とユッカは認識している。少なくともロゼの説明からそう言う風にユッカは受け取った。
荷物の所有権がロゼにある、と言ってしまえばディオスがソルシエルロスなのに? と疑問を抱く可能性がある。ロゼもそのあたりをわかっているから、あえて訂正するような事は言わなかった。それなのにユッカがそれを言ってしまえば、色んな意味で台無しにしてしまう。
なので少しばかり居た堪れなさを覚えながらも、ユッカはそれとなくロゼに視線を向ける。
ロゼもわかっているらしく、気にすんなとばかりに尻尾をユッカの肩にぱしぱしと打ち付けた。
周囲がユッカに対してのロゼがお目付け役くらいに見えているのなら問題はないかもしれないが、保護者だと思われるとそれはそれで不信感を持たれそうなので匙加減が重要である。
「では、助けた事に特に意味はない、と?」
不思議そうに言われてしまうとユッカも反応に困る。
もしかして、困っている人に手を差し伸べるのはこの世界では珍しい行為なのだろうか……? とさえ思えてくる。けれどディオスはそこまで言わなかった。まぁ、恩を返すとか言い出してはいたけれど。
この世界の常識ってどこからどこまでが常識なんだろ……と内心で困惑しながらも、ともあれユッカはふととあるゲームを思い出した。
「誰かを助けるのに理由がいるかい?」
そしてそのゲームのキャラのセリフを口に出す。
多分ユッカが元の世界にいたのなら、言う機会はほとんどなさそうなセリフである。
何故なら元の世界でのユッカは誰かを助けるにしてもそこまで恩に着られるような事ができるとは思っていないし、そうでなくたって困っている人の前に颯爽と現れて華麗に助けるような事態はないと思っているので。
話として見ているだけで自分が実際に言うセリフじゃぁないな、と思っていた言葉を口に出してはみたものの、自分が言うとなんかしっくりこないな……と実感してしまったけれど。
それを態度に出すともっと台無しだと思ったからこそユッカはそう思われないよう、堂々と振舞う。
このセリフを本来言ったゲームの主人公みたいに飄々とした雰囲気は出せていなくとも、それっぽく感じられればユッカ的にオッケーくらいの気持ちで。
ロゼから多少なりともこの世界の事について教えてもらったとはいえ、それでも表面上、上澄み程度の事しか知らないユッカは、とにもかくにもハッタリをきかせなければならない。
変に勘繰られて探られるような事になった結果、自分がこの世界に本来いるはずのない人間であると知られるのだけは避けなければならないからだ。
精々旅に出たばかりのお人好しで世間知らずなソルシエルロスだと。
そう認識されるように振舞うのが現時点での正解なのだろう。
……それも一つの現実逃避と言えるのかもしれない。
「そう、でありますか……」
だから。
ユッカは一瞬だけナナイが泣きそうな表情をしたのを、そっと見なかった事にした。




