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ロゼとユッカ~二人がおうちに帰るまで~  作者: 猫宮蒼
四章 かろうじての休息

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これを特技と言えるのか



 ディオスがいらんフラグを立てた気がして不安ができたものの、いざウイユの家の中に入ってみればそこまでおかしなものはなかった。

 普通の家、と考えるとちょっと豪華だが、魔女の家として考えると思っていたよりは普通。

 それがユッカの抱いた感想である。


「とりあえず猫の姿のまま今までと同じように魔力を使おうとしてるせいで変に流れが歪んだりしてるみたいだから、いざ魔法を使おうとしても以前と比べてちょっと不調だったりすると思うのよ」

「うん、それはあった。でも、思い切り支障が出るってわけでもなかったから、そのうち慣れるかなって」


「身体が小さくなった分魔力の流れも縮小されてるもの。今までと同じようにしようとしたら、魔力が体内で詰まったりしちゃう、なんて事もあるのよ」

「えっ、それ詰まったらどうなっちゃうんですか?」


 ちょっと気まずそうに言うロゼに、困ったようなウイユ。

 その口から出た言葉にユッカは反射的に疑問を口に出していた。


「少しくらいならちゃんと休んだりすれば問題はないんだけど、でも無茶を重ねていくと魔力が体内で固まる事もあるのよ」

「何それ怖……血栓みたいに固まったりして体内で深刻な病気の引き金になったりする?」

「最悪死ぬわ」

「こっわ……」

 洒落にならない話にユッカは思わず身体をぶるりと震わせる。

「死なない場合でも、体内で結晶化した魔力が魔法を使った時に反応して……なんて事もあり得るし」

「具体的にどうなるかはわからなくても想像するととんでもないな、って思うから具体例は言わないで」


 体内で知らんうちに爆弾ができてるみたいなものだろうな、と思ってしまってユッカとしては怖すぎるという言葉しか出てこない。

 下手にその想像を肯定されたらもっと恐ろしいのでユッカはどうにか話題を逸らそうと試みる。


「それでその、魔力の流れを今の身体に合わせるように正常化しようねって話でしたよね」

「そういう事になるわね」


 ウイユもそれに頷いた事で、魔力が体内で詰まるとどうなるか、という詳しい話はしなくて済みそうだ。


「それほど難しい話じゃないのよ。人によるけど。

 魔力を巡らせるのを、今の身体に合わせてやりましょうねってだけだから……瞑想とかで今の自分の中を巡る魔力を感じ取ったりして、そこから調整していく、ってところかしら」


 魔法を使うのが苦手な種族だと難しいけれど、ロゼは魔女だからそう難しい話ではないと言われて、ユッカはホッと安堵の息を吐いた。


「そこまで深刻な話じゃなさそうで安心した」

「ボクも魔女だからね。魔力操作はお手の物さ」


 だから安心してくれていいよ、なんて言うロゼがとても頼もしく見えてくる。


「でも、瞑想するだけ、ならわざわざウイユの家に来る必要なかったんじゃ……?」


 なんていうか道中の野宿の時とか、テントの中で寝る前に少しずつでもやれそうな気がしないでもない。

 ただ、やってやれなくはないかもしれないが野宿の時に悠長にそれを実行できるかは別の話だ。

 魔物が近づいてこないかの警戒をしないといけなかったりすれば、心を落ち着けるどころではないし休める時に休むべきなのにその時間を少し費やしてまで瞑想に時間を割けるか……となるとユッカには難しいように思える。


 寝る前に実行しようにも、なんというかそのまま寝落ちして瞑想どころの話ではなくなりそうだなとも思ってしまった。


「それなんだけど。

 貴方には瞑想を邪魔してほしいの」

「えっ」

「周囲が騒がしかろうともロゼにはやりきってほしいのよ。むしろそれくらいじゃないと、魔力が安定しないと思うし」

「そうなの?」

「そうかなぁ……?」


 ユッカが問えば、ロゼも同じように困惑した口調で首を傾げた。


「ただ普通の瞑想なら、別に問題なくできると思っているわ。でしょう?」

「それはまぁ、そうだけど」


 普通の、と言われてしまえばロゼだって否定はしない。

 むしろそのくらいは余裕ですらある。


「でも邪魔って言われてもなぁ……」


 物理的に邪魔をしてくる、とかであれば困りはするけれど、それでもできなくはないと言わんばかりだ。

 ユッカもそう言われたところで、だったらお言葉通り物理的な邪魔をしてやろう、とは言えなかった。


 そもそも物理的な邪魔とは一体どこからどこまでを指し示すのか。

 暴力的な行為は流石にアウトだとは思うけれど、あとはもう猫ちゃんであるロゼを撫でまわすとか、そういうのしか思い浮かばない。

 けれども猫ちゃんの姿なので、何かをやっているのを邪魔するというのがとても躊躇われる。


「とりあえず貴方以外にも手を貸してもらうつもりではあるけれど……」

「ロゼが瞑想してる周囲で騒がしくしまくれって事?」

「まぁそうなるかも」


 大丈夫かな、とユッカは思った。

 これが気心知れた友人たちとお喋りしていろ、とかであれば余裕である。どうでもいい内容をぐだぐだ話しながらも盛り上がって、出発点から着地点まで話題がコロコロ変わろうともその場のノリと勢いだけで騒げるだろうなとは思う。


 だがディオスたちを呼んでさぁ話せ、と言われても、正直盛り上がれる気がしない。


 そんなユッカの考えを表情から読み取ったのか、ウイユは「小道具くらいならあるわ」と言い出した。

 小道具でどうにかなるものなのだろうか。とても疑問である。


 だがしかし、まずは試しにやるしかないのだ。


 早速とばかりにウイユが魔法で連絡を取り始める。

 城に向かった三名がここに来るまで、どれくらい時間がかかるんだろうか……なんて思っていたら。


「そっちの城とうちと繋げてあるから、すぐ来れるわ」


 なんて言い出して。


 魔法なんでもありだな、と思ったのと同時に。


「うわホントだいつの間に!?」


 繋がっている扉とやらを開いた直後にはもうこちらに着いていたフォリスの驚く声が響いたのである。


 フォリス曰く、居候してそこそこ長いけれどこんな扉があったなんて気付かなかったし、ウイユの家と繋がっている事実も知らなかったそうだ。

 であれば驚くのも無理はない。


 フォリスと共にアヴィオンとディオスもやってきた。

 ついでにもう一人、ユッカの見知らぬ青年も。


 フォリスとアヴィオンの間に挟まるようにしてやってきたその人は、小さく見えた。

 だがしかし、と思い直す。

 フォリスもアヴィオンもなんだったらディオスもそこそこ長身だ。だからそこと比べると小さく見えるというだけで、落ち着いて考えたら普通に彼も長身と言える範囲だった。

 現にユッカの視線は少し上を見ないと青年と目が合わない。

 小さい印象を抱いたところで、しかしその背はユッカと比べて十センチ以上の差があるのは明らかだった。


 巨人族め……なんて実際の巨人がいたら言えないような事を心の中で呟きながらも、ユッカはとりあえずその青年に向けてぺこりと会釈だけしておく。

 青年もユッカのそんな動作に気付いたのか、やや不機嫌そうではあったがユッカに対しては軽く頷いていたので、彼も彼なりに挨拶をしたのだろうなと思う事にした。


 青年の見た目を言うのなら、黒い髪の毛先部分だけが輝かんばかりの銀色で、目の色は鮮やかな紅。今は折りたたんでいるようだが、背中には蝙蝠のような羽があるのも見えた。

 服装はこの中では一番ユッカに馴染みがありそうなラフすぎるもので、髪の色だとか目の色はともかく、羽さえどうにかしてしまえばユッカのいる世界でも普通にいたとしてもおかしくなさそうだった。なにせトレーナーとジーンズである。身につけている装飾品も銀色で、あぁいるいるこんな感じのにーちゃん……と危うく口に出しそうだった。



 初めましての顔もいるでしょうから、というウイユの言葉に確かにその通りだなとなって、簡単な挨拶から始まった。


 見知らぬ青年はユリアスと名乗り、ディオスたちが向かった城の城主である。

 城主、と言われて思い浮かべたのは中世ヨーロッパ風ファンタジーにありがちないかにもな感じのお貴族様だったのでユッカは最初、思い浮かべたイメージと実際のユリアスとで軽く脳内をバグらせたが、仮にもし本当にイメージ通りの存在が来たらそれはそれでどう話をしていいのかわからなかっただろうからまぁいいか、と逆に安心する形となった。


 しばらくこの地区に滞在するのは確定だが、ユッカたちはウイユの家に世話になるものの、ディオスに関してはどうなるかと思いきや、そのまま流れでユリアスの城に世話になる事が決まったらしい。

 フォリスは元々城に居候していたという話だし、アヴィオンもユリアスの兄の城に居候しているのもあって、そのまま流れでユリアスの城に泊まる事にしたそうだ。そしてそんな二人と一緒にやってきたディオスも、部屋なら余っているという事で滞在を許されたらしい。ユリアス本人とディオスは今日が初対面という事を考えると、なんとも寛大な話である。

 ディオスとしては宿代が浮きました……と安堵している様子であった。


 思えばここに来るまでの地区で、そもそもお金を稼ぐような状況になかったので彼の財布は相変わらず寂しい状態だ。今の所はロゼの財布から賄っているが、それを借金と考えているディオスからすれば、全額を一気に返すとまではできなくても、これ以上は……となるのも当然だった。


 ともあれ、そんな一同にウイユはロゼの瞑想の邪魔をしてほしい旨を伝える。

 猫の修行に付き合えと? とユリアスは不機嫌そうだったが、これもまぁ、当然の反応だろう。


「あ、そういえばイシェルはどうしているのかしら?」


 不機嫌そうな態度もなんのその、とばかりにウイユが問う。


「知らん」


 それに対してユリアスの返事はあまりにも短かった。


「私の城に滞在を許してはいるが、だからといって常日頃から居場所を把握しているわけではない。気付けばいるし、ふとした瞬間いなくなっているなんてのはザラだ」

「あらそうなの」

「私はあいつの保護者でもなんでもないからな。あいつが何かしたところで、その責任の所在を問われても困る」

「そういうわけではないのだけれど……そう。じゃあ何かあったかもしれない、って可能性はまだ捨てきれないのね」

「どういう事だ?」


 ユリアスの問いに、ウイユは一瞬だけユッカへ視線を向けた。

 その僅かな動作に気付いたのか、ユリアスもユッカへ視線を向ける。


「知り合いの魔女、ローザローゼシカがね。弟子のイシェルを呼び出そうとしたらしくて」

「ほう」

「でも失敗したみたいなのよ。拒絶したのか、それともその時点で召喚できない状況下にあったのか……それがわからないから、こっちに何か情報がないかを聞いてきたのよね」


 あぁそれで……とフォリスが納得したような声を出す。

 ウイユから突然イシェルについて聞かれた事を思い出したようだ。


「奴も魔法に長けているとはいえ、魔女の招集を拒絶できる程ではなかったように思うが……」

「だから何かあった可能性が高いのよ。もしそっちにいるなら、直接本人から事情を聞きだせたらって思ったのだけれど」

「そう言われても私は知らん」


 どこに出かけているかも心当たりがないらしく、それじゃあ仕方ないわね、とウイユも言うしかなかった。

 ユリアスの態度があからさまに怪しいだとかであれば、何かを隠していると思えたかもしれないが、どうやら本当に知らないようなので。


 知らないしわからない状況ではあるけれど、悩んだところでこれ以上の情報が出てくるわけでもない。

 だからこそウイユはサクッと切り替えて、じゃあこの子の瞑想の手伝いをしてほしいのよね、と話を当たり前のように戻した。


 何故私が……とばかりなユリアスではあるが、ウイユはそんな様子をまったく気にも留めていない。


 案外この人ウイユに振り回されてるのかもしれないな……とそんな様子を見てユッカは思うのであった。

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