11話
作中に登場する金剛型イージス巡洋艦は史実こんごう型護衛艦です。
1942年6月21日、午前8時40分
三式弾が装填されていた私の36㎝砲が傲然と火を噴いたのである。
間髪を入れずにすぐ横を航行する足柄の20㎝砲も対空射撃を開始した。
因みに霧島は加賀の右側面前方に、足柄は右側面後方に位置している。
「炸裂!・・・・・・今っ!」
砲術長がそう叫ぶと時限式信管が炸裂し、上空では弾雲が形成される。
因みにこの三式弾という砲弾は砲弾の破片で雲を形成し、その雲を敵機が通過した際に、その雲が敵機を破壊すると言う計画の元製造され、対空戦闘において帝国海軍は非常に大きな期待をしていたが、1回の使用でその対策は見破られた上に、威嚇以上の効果が無かったと言う代物である。
だが、密集し、更には動きが鈍重な戦略爆撃機には効果甚大な代物であり、その効果は決して無いと言う訳ではなかった。
事実、マリアナ沖海戦で戦艦長門が米機動部隊所属の艦載機の攻撃を受ける飛鷹を援護すべく三式弾を放ち、米艦載機の撃退に成功している。
他にも戦艦金剛と榛名が艦砲射撃で用い、霧島がサウスダコタを1年以上の長きに渡りドック入りをしなければならないレベルまで損傷させ、比叡も同様に、米艦隊旗艦を務めていた重巡サンフランシスコに向けて発射、同艦で指揮を執っていた司令部スタッフを丸ごと吹き飛ばす等の実績がある。
閑話休題、長門、霧島、足柄、五十鈴、秋月型駆逐艦と2隻の空母が一斉に全ての火砲を用いた対空射撃を開始すると、物凄い黒煙が日本艦隊を覆う。
「皆出たわね・・・・・・頼むわ!」
加賀がそう呟いた次の瞬間だった、1機のアベンジャー攻撃機が強烈な対空弾幕を掻い潜って、霧島と足柄の間で魚雷を放った。
(あっ・・・・・・し、しまった!!これじゃあ、加賀さんが!)
私はそう思った、次の瞬間、その予想は悪い方にあたったのである。
加賀の船体中央部から水柱が上がると加賀の速力は少し低下したのである。
「くっ・・・・・・な、なんのこれしきで世界の5大空母と称された私が沈んでたまるか・・・・・・・」
「加賀さん、しっかりして!ここは私が!」
足柄がそう言うも加賀は血を流していた。
しかし加賀が被雷して30秒もしない内に赤城の艦橋にヘルダイバーの放った454㎏爆弾が炸裂、赤城の艦橋にいた多数の人員が即死した。
幸運とも言えたのは奇跡的に甲板に損傷がなかった事だ。
そのヘルダイバー爆撃機はすぐに烈風と零戦に捕捉、海へ消えていった。
加賀の甲板では乗員たちが必死に消火をしているみたいだけど、速力が低下している事もあって敵艦載機が群がってきていた。
いや、正しく言えば加賀の対空火力は既に皆無に等しい。
何故なら加賀の対空砲は被雷の衝撃で電路が断ち切られ、全く稼働しない状況に陥っていたと言う事や、火災が既に高角砲弾薬庫に迫っており、誘爆を防ぐ為に艦長が注水するように命じたからだ。
「霧島さん、申し訳ない・・・・・・私はもう戦えないわ・・・・・・」
「そう、私は貴方と戦えた事を光栄に思うわ、あの世で先に待っててくれるならそれで私は良いわ・・・・・・」
私がそう言うと加賀の体が急速に薄くなり、消えていった。
次の瞬間、大きく炎上していた加賀の船体が一気に海中へ引きずり込まれていった。
奇跡的に脱出出来た煤塗れの乗員達は加賀に向けて敬礼をしていた。
私も涙を堪えて加賀に敬礼していた、陸奥さん、足柄もそうだ。
結局、加賀を喪失したもののマーシャル諸島攻略は成功し、同諸島を中心に行われた南太平洋艦隊決戦で紀伊など戦艦3隻を中心に多数の艦艇を大破したものの帝国海軍は米海軍に大きな損害を負わし、これを撃退した。
私はマーシャル諸島で加賀の敵討ちとして奮闘し、最新鋭重巡2隻を撃沈する戦果を挙げ、日米講和後、1961年まで現役を続けた。
そして、1970年に解体され、1993年に国防海軍の金剛型イージス巡洋艦霧島(CG-174)として再び生を受けた。
そして、今、私は緊迫する極東情勢を睨むべく、神の盾と邪悪を薙ぎ払う槍を託され、隣国の弾道弾の脅威、敵の対艦ミサイルから、今日も国を、艦隊を護っている。




