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僕は黒幕になりたい〜戦うヒロイン育成計画!〜  作者: 少林 拳


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第百話 マギア・メープル

キリのいいところまで書いたら、五千字近くになってしまいました。


「んん……っ」


深い微睡(まどろみ)から覚めた七海は、ぼんやりと目を開いた。

視界に飛び込んできたのは、どこか見慣れた天井。

全身に伝わる感覚からして、どうやら自分はベッドで横になっているようだ。


「……へっ? ここ、学校の寮? ウチの部屋……じゃ、ない」


部屋の作りからして、学校の寮であることは間違いない。

ただ、彼女が寝ているベッドは、どうやら自分のものではないようだ。

つまり、ここは自室ではなく、別の誰かの部屋ということになる。


(……と言うか、さっきまで動物園にいたよね!? 魔法少女は!? てか、和花のことも放ったらかしだし! 早いトコ迎えに行かないと……!)


寝起きで鈍くなっている頭を必死に動かすが、結論は出ない。

七海が混乱していると、彼女のすぐ側から声がした。


「あ、起きた」


「おう! 目が覚めたか!」


「……調子はどう?」


声のした方向に向けて、慌てて七海は視線を向ける。

そこには、七海の寝ているベッドを囲むようにして、複数の人影が立っていた。

クールビューティーの琴音、ヤンキー女子の美香、天然メガネっ娘のリブ。

七海のクラスメートにして、大切な友人たちだ。


そして……。

七海の向かいには、和花の姿もあった。

彼女の姿を見た途端、七海の胸に安堵と喜びが込み上げてくる。

それは、彼女が無事だったことへの安堵。

そして……もう一度、彼女に会えたことへの喜び。


「……七海ちゃん! 目が覚めたんだね!」


七海が目を覚ましたのを見た和花は、満面の笑みを浮かべた。

彼女は腰掛けていたベッドから、ぴょんと立ち上がると、テテテと駆け寄ってきて、七海の手をぎゅっと握る。

七海は反射的に「可愛い」と思った。


「よかったぁ……目が覚めて……」


繋がれた手から、和花の温もりが伝わってくる。

七海も、和花の小さな手をそっと握り返した。


——生きている。


七海は一度、目の前で和花のことを失いかけた。

彼女のぬるりとした血の感触は、今なお七海の手に残っている。

それだけに、和花が元気でいてくれると言うことが、今はただ嬉しかった。


「……和花も、無事でよかったし」


七海の和花への気持ちは、これまで以上に大きなものになっていた。

かつて親友だと思っていた相手に「見捨てられた」経験を持つ七海。

そんな七海にとって、自らの命を投げ出して彼女のことを守ってくれた和花の行動は、自身のトラウマを完全に払拭し、同時に過去のネガティブな記憶を上書きするものだった。


和花への想いが、七海の胸中を満たしていく。


「和花……っ!」


「うわわっ!?」


気持ちが昂った七海は、思わず和花のことをギュッと抱き寄せていた。

いきなり抱きしめられた和花が驚いているが、構わず七海は抱擁する腕に力を込める。

もう二度と、彼女のことを離したくなかった。


七海が親友と出会えた喜びを噛み締めていると……。

横合いから、冷たい声がかけられた。


「……私たちもいるんだけど」


「あ、ああ……なんかゴメン」


声の主は琴音だった。

その底冷えするような声に、思わず謝ってしまう七海。

隣では、なぜだかリブが面白がっているような表情で、琴音のことを見つめていた。


「……ほら」


いつも以上に仏頂面の琴音が、ずいっと何かを差し出してくる。

反射的に七海が受け取ったのは、よく冷えたペットボトルだった。

ラベルからして、中身はスポーツドリンクのようだ。

おそらく、彼女のために買ってきてくれたのだろう。


「取り敢えず、これでも飲みな」


「ああ、うん……。サンキュ、琴音」


七海が気絶した後、一体どうなったのか?

何で彼女は、学校の寮に戻っているのか?

そして、何で和花たちがここにいるのか?


色々と聞きたいことはあったものの……。

素直に七海は、琴音が差し出してくれたスポーツドリンクを口にする。


(……うわ、うんま!)


薄味のそれが、今はたまらなく美味に感じられた。

思わず七海は、ごくごくと一息に飲み干してしまう。

どうやら、思ったよりも自分は疲弊していたようだ。


喉を潤すと、自然と周囲を見回す余裕も生まれる。

和花の座っていた対面のベッドは、ピンクを基調とした可愛らしいものだった。


一方、彼女の寝ているベッドは、どちらかといえば飾りっ気のないものだ。

あと、ドクロ柄のタオルケットが……何というか、ダサ……センスがない。


「……ってゆーか、ここどこ? 琴音の部屋?」


七海の疑問は今更なものだったが、近くにいた琴音がすぐに答えてくれた。


「いや、和花の部屋。あとついでに桐生院も住み着いてる」


「住み着いてるって何だコラ! 勝手に住んでるみてぇに言うな!」


「アンタの部屋じゃないでしょ」


「いやアタシの部屋だっつの!」


質問者である七海のことを差し置いて、くだらないことで口論を始める琴音と美香。

いや、口論というよりは、掛け合いに近いかもしれない。


そんないつもの光景を見て、七海は思わず笑ってしまった。

ついさっきまで怪人(リ・ヴァース)と命懸けで戦っていただけに、こういう日常会話に安心させられる。


七海は、言い争っている(もちろん本気ではない)二人の会話に口を挟んだ。


「ふーん……ここ、和花の部屋なんだ」


「アタシも住んでるって言ってんだろーが」


美香の主張をまるっと無視して、七海は彼女に質問する。


「ちなみに、これ誰のベッド?」


七海は、自分がさっきまで眠っていたベッドを指差した。

怪訝そうな顔をしながらも、美香がそれに答える。


「あ? ……アタシのベッドだけど」


「なんだー、桐生院のベッドかー」


明らかにがっかりした様子の七海を見て、美香が思い切り顔を顰めた。


「何が不満なんだコラ」


「うーん、不満ってゆーか、うーん」


「……何だ? はっきり言え」


「折角なら、和花のベッドで寝たかったなーって」


「ざけんなコラ。貸してやってんだから文句言うな」


「だってさー、なんかベッドも可愛くないし。あとタイルケットがダサい」


「蹴り落とすぞテメェ!」


気の置けない(?)会話を繰り広げる七海と美香。

どうやら、七海は和花のベッドで眠りたかったらしい。


それを聞いた琴音は、何故かちょっとだけ不機嫌そうだ。

パッと見は、いつも通りのクールビューティに見えるが……。

それなりに付き合いがあれば、すぐに気が付くレベルだ。


実際、そんな琴音の様子に気付いたのか……。

彼女の側に、ススス……とリブが近寄ってきた。

ポーカーフェイスの彼女にしては珍しく、ニマニマとした笑みを浮かべている。

それを見た琴音は、ちょっと嫌そうな表情を浮かべた。


「……ナナミったら、ノドカのベッドがいいんだって」


「だからなに」


「……ライバル登場。でも焦りは禁物」


「……なんのこと?」


「……ぷぷぷ。コトネったら、照れちゃっ……むぐぐっ」


七海のために開封してあったウィダーインゼリーを口に突っ込まれて、リブは沈黙した。

そのまま素直にちゅーちゅーとゼリーを飲み始めたリブを放置して、琴音は七海に向き直った。


「色々、聞きたいことがあると思うけど……。先に、説明しておかなきゃいけないことがある」


「説明? なに?」


美香との会話を終えた七海が、きょとんと首を傾げる。


「色々とあるんだけど……。まぁ、見てもらった方が早いか。……出てきていいよ、ルーナ」


「分かったわ!」


「…………はっ?」


瞬間。

七海のベッドの上に、光るネコが出現した。

そして彼女は、そのネコのことを知っていた。

魔法少女といつも一緒にいる妖精——ルーナだ。


そんな存在(ルーナ)が、なぜここにいるのか。

七海は、状況が理解できず、ただただ混乱した。


「え……えっと……ルーナ、さん?」


「ええ、そうよ!」


「……何で、こんなトコに?」


「不思議なことを聞くわね。さっきまで一緒にいたじゃない!」


「い、いや、その……」


確かに、七海が気を失う直前、ルーナは彼女のそばにいた。

だがそれは、魔法少女と一緒にいたからだ。

この部屋にルーナがいる理由にはなっていない。


「一緒に戦った仲じゃない!」


「そうでしょ、七海。いや……マギア・メープル」


「……えっ!? は、はあっ!?」


何気なく紡がれた琴音の言葉に、七海は動揺を隠せない。


(……ヤバい、正体がバレた!? つか何で琴音が知ってんの!? もしかして、寝言で言ってたとか……!? うわ、だったらスッゲー恥ずかしーし!)


ダラダラと冷や汗をかく七海を見て、琴音は少し笑った。


「私たちにバレても大丈夫だよ」


(……大丈夫ってナニ!? 全然、大丈夫じゃないし!)


「だって——」


(これ身バレってヤツ!? 何とかして誤魔化さなきゃ——)


「——私たちも魔法少女だから」


「……へっ?」


それを聞いた七海は、思わず目を点にする。

そして、琴音の言ったことを遅れて理解して……。


「えええええええええ!?」


寮の部屋に、ギャルの叫び声が木霊するのだった。



***



「マジか……」


魔法少女のこと、ルーナのこと、リ・ヴァースのこと。

琴音たちから色々と説明を受けた七海は、しばし呆然としていた。

まぁ、無理もないだろう。

クラスメート、それも自分の友人たちが魔法少女だと聞かされて、平常心でいられる方がおかしい。


ただ、色々と腑に落ちることもあった。

和花たちが何かを隠していることには、七海も何となく気付いていた。

いきなり和花たちだけで姿を消したり、何やらヒソヒソと話していれば、嫌でも分かるというものだ。

自分だけ仲間外れにされているのかと邪推したものだったが……魔法少女がらみのことだとすれば納得できる。

一般人である七海には、事情を説明しようにもできなかったのだろう。

仮に「私たち魔法少女なの!」と説明されたとしても、すんなり信じたかどうか疑わしい。

実際、今もまだ半信半疑である。


「ま、マジで魔法少女なの? ここにいる全員?」


七海が再確認すると、琴音がそれに答えた。


「うん。一応、これが証拠ね」


琴音は、自身の手の甲を見せてくれた。

そこには、くっきりと白い刻印が刻まれている。

七海のタトゥーは太陽だが、琴音のそれは雪の結晶を模したものだ。

それは間違いなく、魔法少女の証だった。


「マジじゃん! ……リブちゃんも?」


「そう。私も魔法少女。ぶい」


リブもまた、七海に向かって手を差し出してくる。

その手の甲にも、白い刻印がされていた。

こちらは、古代の天秤を模したタトゥーだ。


「信じられない……というか信じたくないんだけど……桐生院も?」


「どういう意味だコラ。……ほらよ」


七海の言葉に渋面を作る美香だったが、素直に手を見せてくれる。

もちろん彼女の手にも、白いタトゥーが浮かび上がっていた。

こちらは、ダイヤモンドのような紋章だ。


「和花も……?」


「そうだよ!」


さっきは気付かなかったが、和花の手の甲にもタトゥーがあった。

彼女のタトゥーは、四葉によく似ている。

クローバーというより、四枚の葉っぱが組み合わさったものに近い。

まじまじとタトゥーを見る七海に向かって、和花はおずおずと話しかけた。


「七海ちゃん」


「ん? なに?」


「……今まで黙ってて、ごめんね」


申し訳なさそうな和花の表情を見て、七海は慌てて手を振った。


「いやいやいや! それは仕方ないって!」


「だって……友達なのに、隠しごとしてた。こないだの……その、スカイタワーの件もだし……。七海ちゃんには、色々と嫌な思いをさせちゃったと思うんだ。……ごめんね」


先日のスカイタワーの一件。

今にして思えば、優しくて友達思いの和花が、七海のことを放置してどこかへ行くなど考えられない。


そういえば、二箇所同時にリ・ヴァースが出現したと話題になったのも、あの日だった。

きっと、あの時も和花は世界を守るために奔走していたのだろう。

七海が拗ねている間も、自分の命を懸けて戦っていたに違いない。

それを思うと、当時の自分の態度が、何とも幼稚で情けないものに思えてくる。


七海は、改めて和花の方へと目を向けた。


「……ううん。ウチの方こそ、ゴメン。和花の事情もよく知らないのに、あんな態度をとってさ。

 改めて……和花。ウチと仲直り、してくれる?」


「……ッ! もちろんだよ、七海ちゃん……!」


「和花っ!」


ひしっ!と抱き合う二人。

その様子を、琴音は複雑そうに、リブは面白そうに、ルーナは温かい目で、それぞれ見守っていた。


なお……この時、美香は二人の方ではなく、自分のベッドを見つめていた。

「タオルケットがダサい」と七海に言われたことを、ちょっぴり気にしていたのである。


「てか……よろしくね。今日からウチも、魔法少女だし! 一緒に戦おー!」


「うん! 七海ちゃんが一緒だと、すっごく心強いよ!」


「改めて……よろしくね、七海」


「よろしくな!」


「よろしく」


「よろしく、ナナミ!」


こうして、また一人……。

魔法少女たちに、新たな仲間が増えるのだった。

とうとう百話まで来ました。

感慨深いものがありますね。

これも全て、読んでいただいている皆様のおかげです。

リアクションや閲覧数が、私のモチベーションになっています。

いつもいつも本当にありがとうございます。


最初は不定期更新のつもりだったのですが、いつの間にか週3で更新するようになっていました。

ちょっと無理をしてでも、このペースで今後も続けたいと思っています。


……というか、まだ魔法少女が全員揃っていないんですね。衝撃です。

当初の構想では、4〜5話で一人ずつぐらい仲間を増やしていく予定だったのですが……。

取り敢えず、本作はまだまだ続きます。

最後までお付き合いいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
100話おめでとうございます! 凄く面白いので完結までお願いします!
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