表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

2 予選開始、そして終了

『はーい! じゃあ、この予選で、参加者の数を()らしていくわよー!』


 拡声器(かくせいき)みたいな、機械(きかい)(とお)したような大音量(だいおんりょう)で、例の死神(しにがみ)さんの声が(ひび)く。私は()(つづ)き、夢の中に()て、(すで)()()()()は開始されていた。ちなみに夢の中は、ほぼ暗闇(くらやみ)だけの状態が続いている。私を(ふく)めたイベントの参加者(さんかしゃ)(たち)は、自分の姿(すがた)さえ見えず、まるで(たましい)だけが浮遊(ふゆう)しているような感覚だ。


 むしろ、(たましい)だけで体が()い方が、イベント会場に参加者一同(いちどう)(あつ)めるのに都合(つごう)が良いのだろう。私達、参加者は二人(ふたり)一組(ひとくみ)で、それぞれ個室のような所(()(かえ)すが、暗闇(くらやみ)なのだ。正確には把握(はあく)できない)で対面(たいめん)させられている。対面と言っても、気配を感じるだけで姿(すがた)は見えない。私達は声を出す事は出来(でき)るようで、耳を()ませば息遣(いきづか)いも()こえてくる……気もする。錯覚(さっかく)かも知れなくて何とも言えなかった。私はイベント前に(おこな)った、少女の声を持った死神さんとの会話を思い出す。




「これから始まるイベントは、まず予選(よせん)で参加者の数を()らすの。それから、(のこ)った数十人(すうじゅうにん)で、バトルロイヤル方式で(たたか)ってもらう。そこで()(のこ)った一人が勝者(しょうしゃ)となって、(ねが)(ごと)(かな)える事ができるわ」


 死神さんの説明をまずは(だま)って聞く。デスゲーム、という表現は(いや)なので、私もイベントと言うが。このイベントの参加者は何人くらいなんだろうと私は思った。死神さんは正確な数を(おし)えてくれないが、精々(せいぜい)、多くても数百人(すうひゃくにん)ではないか。()()()()脱落者(だつらくしゃ)()くなるとしたら、一度に数千人(すうせんにん)が死ねば大騒(おおさわ)ぎになる気がした。


「ちなみに予選後(よせんご)のバトルロイヤルに付いては、まだ内容が決まってないの。その内容は、私と貴女(あなた)が相談して決定できるからね。と言っても、あんまり時間は無いから、できれば予選の最中(さいちゅう)からアイデアを()っておいて」


「そんな余裕(よゆう)()いと思うわ……予選(よせん)って、そこでも(ころ)()うんじゃないの?」


「その心配は()いわ。先に(おし)えておくと、簡単(かんたん)なカードゲームだから。全自動(ぜんじどう)のジャンケンみたいなもので、私が貴女を絶対に勝たせてあげる。ただし八百長(やおちょう)がバレないように、貴女は全力(ぜんりょく)演技(えんぎ)をしてね」


 死神さんが言うには、今回の八百長(やおちょう)は、死神さんの単独(たんどく)計画(けいかく)らしい。死神さんは、球技(きゅうぎ)で言えば審判(しんぱん)()たるような存在で、その立場を利用して私を優勝させる計画だそうだ。私の世界でも、球技の審判が(たと)えば買収(ばいしゅう)されて、特定の球団(チーム)を優勝させたりする事はあるのだとか。


「まあ私の場合は、買収(ばいしゅう)じゃなくて、自分の意思で決めた事だけどね。簡単に言えば、ウンザリしてるのよ。私を(しば)る、今の枠組(わくぐみ)にね。その枠組(わくぐみ)(こわ)すには、イベント優勝者の大きな(ねが)いが必要なのよ。『世界を変えたい!』っていう、その強い(ねが)いを(かな)える事に寄って、大きなエネルギーを()()したいの」


「……その大きなエネルギーで、死神さんは、自由になれるって事?」


「うん、そういう解釈(かいしゃく)でいいわ。どうせ人間には、基本的に理解が(およ)ばない世界での出来事(できごと)だしね。とにかく貴女が優勝してくれれば、私にも都合(つごう)が良いって(わけ)。じゃ、頑張(がんば)ってね」




 回想(かいそう)(ひた)っている場合では()い。私は暗闇(くらやみ)の中、個室の中で対戦相手と向かい合っている状況(じょうきょう)である。その私と対戦相手の前に、裏向(うらむ)きでカードの(たば)が、それぞれ(ひと)つずつ(あらわ)れた。カードは(あわ)(ひかり)(はな)っていて、どうやらトランプのようだ。(やみ)の中でも、(たば)から()()()()カードの数字は読み取れそうだった。


『はい、今、参加者全員の手元(てもと)にトランプが現れたわね。これから自動的に、そのトランプからカードが一枚、めくられるわ。そのカードの強弱(きょうじゃく)で、二人一組の勝ち負けが決まるの。一発(いっぱつ)勝負(しょうぶ)のジャンケンみたいなものだけど、アイコの確率(かくりつ)は低いでしょうね。負けた方の参加者は(すみ)やかに()えてもらうわ』


 (さら)に説明が続いて、カードの数字が同じだった場合は、決着が付くまでやり直すそうだ。参加者にカードを(さわ)らせないのは、イカサマを(ふせ)ぐためだと言われた。実際は、そのイカサマを死神さんの(ほう)(たくら)んでいるのだが。


『じゃあイベント開始! 幸運を(いの)るわ!』


 白々(しらじら)しいアナウンスの後、トランプが自動的に一枚、めくられて(ちゅう)()った。私は事前(じぜん)八百長(やおちょう)を知らされているが、それでも不安はある。私が裏切(うらぎ)られて、他の誰かが優勝する筋書(すじが)きがあるのではないか。そんな(うたが)いが()えなくて、どうだろうが私にできる事は無い。


 ご丁寧(ていねい)に、暗闇の中でディスプレイが現れた。私と、対戦相手のカードがテレビみたいな(おお)きな画面に(うつ)()される仕様(しよう)だ。相手のカードはハートの(じゅう)だった。重要なのは数字だけで、ハートやスペードといったマークは勝負に無関係なはずだ。そして私のカードは──


「ジョーカー……」


 ピエロのような絵柄(えがら)が画面に映し出される。これで負けという事は無いだろうか、との(おも)いは杞憂(きゆう)に終わった。対戦相手の姿(すがた)一瞬(いっしゅん)(かがや)いて、あっという()()える。『負けた方の参加者は(すみ)やかに()えてもらうわ』という、死神さんのアナウンス(どお)りの現象(げんしょう)があった。


『はーい、順調(じゅんちょう)(けず)れたわね。これで参加者の数は半分になったわ。あと一回、同じ要領(ようりょう)で参加者を()らして、(のこ)った人達で決勝(けっしょう)(たたか)ってもらいます。では、また二人一組にするわ』


 ()調()()()()()、という表現が(おそ)ろしい。人の命を何とも思っていないようで、それに(はら)()てるような余裕(よゆう)は私に()かった。今の状況から、早く()()したい。それには勝つしかないのだと分かっていた。


 暗闇(くらやみ)の中で、私達が移動させられたのか、それとも個室の方が移動してきたのか。とにかく、また私の前に対戦相手の気配(けはい)を感じた。呼吸の音が聞こえて、どうやら私達は、()そうと思えば声を()せるようだ。さっきトランプのジョーカーを見た時、思わず私は声を()していたし。


『じゃあ、()()()()()()わらせましょう。カード・オープン!』


 場違(ばちが)いな(ほど)陽気(ようき)さで、死神さんがアナウンスする。さっきと同じように、トランプの(たば)(ひと)つずつ、私と対戦者の前に(あらわ)れた。また自動的に一枚、カードがめくられて(ちゅう)()う。相手のカードはスペードのキング。そして私のカードは────


「クラブのクイーン……!」


 キングは数字で言えば十三(じゅうさん)、クイーンは十二(じゅうに)。私の負けだろうか、あの死神さんに裏切(うらぎ)られたのかと()()()くのを感じる。「勝った、勝ったぞ!」と、男性らしい対戦相手の声が(やみ)の中で(ひび)く。私は咄嗟(とっさ)(おも)()いて、「(ちが)う、(ちが)うわ!」と(さけ)び、(さら)に続けた。


「アナウンスで言ってた! 『カードの強弱(きょうじゃく)で、二人一組の勝ち負けが決まる』って。数字の大小(だいしょう)で勝負が決まるとは言われてないわ!」


 一瞬(いっしゅん)沈黙(ちんもく)()まれる。そして、対戦相手の姿(すがた)が光って、(しず)かな爆発(ばくはつ)のように(しょう)(めつ)していった。勝った……のだろうか、私は。


『ちょっと()(ごと)があったかしら? ええ、お(さっ)しの(とお)り、この勝負は数字が(ひく)(ほう)が強いからね。大体(だいたい)、普通のトランプゲームだって、エースが最強(さいきょう)でしょう? あれは数字で言えば、(いち)のはずよね』


 私は、ただ放心(ほうしん)しながらアナウンスを聞いていた。そして死神さんの声が続く。


『そして普通のトランプゲームと同じじゃ面白(おもしろ)くないから、この予選では数字の()を最強にしてたの。ああ、ジョーカーは(すべ)てのカードに勝つけどね。クイーンはキングより強くて、最弱(さいじゃく)のカードはエースって(わけ)。そもそも王様(キング)女王(クイーン)より強いって、(だれ)が決めたの? どうせ馬鹿(ばか)(おとこ)(たち)でしょ。そいつらがルールを押し付けてきてさ、ずっと状況(じょうきょう)が変わらないのよ。不愉快(ふゆかい)だと思わない? ねぇ、思わない? 私は不愉快(ふゆかい)だわ!』


 声に狂気(きょうき)()ざってきていた。死神さんの、強い(いきどお)りを感じる。


『……いけない、いけない。まあ言いたいのは、()()の世界も人間の世界も、似たような部分が多いって事。ここで愚痴(ぐち)っても仕方(しかた)ないわ、さあ、生き残った人達は決勝に進んでもらうからね。指示(しじ)があるまで、各自(かくじ)(やす)んでて』


 アナウンスが終了して。私が思ったのは、死神さんも不自由な世界で生きているのかなぁと。そういう事だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ