55「ちょっくらオールと二人でモンスターハウスに突撃してくる」
「魔素の流れと魔素溜まり? よくそんなものを見つけたのだ」
リリーたちが起きてから俺はオールに話したことをもう一度説明した。俺の話にリリーは驚きを隠せないでいる。
「探知スキルのレベルが高いからな。気づいたのは偶然だが」
「それでもすごいのだ。それで、魔物をたくさん倒せばいいんだな」
気合いじゅうぶんといった様子でリリーははりきっていた。それもそうか。もしかしたらレアを出現させられるかもしれないのだから。
「簡単にいえばそうだな。だが、ここは俺たちに任せてくれないか。ちょっくらオールと二人でモンスターハウスに突撃してくる」
「え?」
「はっ?」
ティルとリリーは同時に声を上げた。一つは疑問の意味で。もう一つは何言ってるんだこいつはという非難の意味で。
「モンスターハウスなら効率よく魔素を溜められる。使わない手はないだろ」
「だが、二人だけでは危険ではないか! いくらオールがBランクといっても一気に襲われては対抗できないかもしれないではないか!」
「その辺りは考えがある。俺はこう見えても上級魔法が使えるんだ。だから俺が詠唱中、オールに壁役をやってもらい、詠唱が完成したら一気に殲滅させる。な、簡単だろ」
「うぅ、そう、なのか?」
微妙に納得していないような顔だが、ここはごり押しさせていただこう。この方法が一番手っ取り早いのだ。
「それまでリリーはここで待機、ティルもそれでいいな」
ずっと口を挟まず俺たちの話を聞いていたティルは静かに頷く。その瞳は不安に揺れていたが、何も言うことはなかった。
リリーとティルをセーフティエリアに残し、俺とオールはモンスターハウスがある四階へと足を運んでいた。地図を確認し進んでいくと、なんの変鉄もない部屋が視界へと入ってくる。
「これがモンスターハウスか」
入り口から見える所に光り輝く宝箱が置かれていた。なんともあからさまというか、これに引っ掛かる奴なんているんだろうか。
もしいるんだとしたら、そいつは警戒心をどこかに落としてきたのかもしれない。
「中に入るだけでいいんだよな」
「ああ、そうすれば罠が発動する」
オールに確認をとり、俺はモンスターハウスへと足を踏み入れた。俺の後を追ってオールも中に入ってくる。
俺たちが入ってすぐに、唯一の出入り口が地面から飛び出した石板で塞がれた。結界も作動し、完全に閉じ込められたようだ。
部屋のあちこちから黒い靄が沸きだし、それが徐々に魔物の姿を形作っていく。種類はいろいろだが、どれもこのダンジョンで遭遇した魔物ばかりだ。
「【偽装·極】解除、人化解除······」
まず擬骸から本来の体へと戻った。そして人から元の吸血鬼へと。
「オール、動くなよ」
オールに一言だけ告げ、俺は魔力を解放する。詠唱など必要なく息をするように、巨大な魔方陣を部屋全体に展開させた。
その間にも魔物は増え続けており、最初に顕現した魔物たちが咆哮を上げ襲い掛かってくる。
「ダークネスジャッジメント」
俺が指を鳴らせば、魔方陣のいたる所から黒い光が弾け、上に向かって一気に伸びていく。
黒い光に貫かれ、ほとんどの魔物が物言わぬ骸へと成り果てた。しかし運良く生き残った魔物もおり、それらすべては俺がこの手で狩りつくしてやった。
とりあえず部屋に溢れかえっていた魔物は全滅させた。追加があるのかとしばらく待ってみたが、何も起こらない。
すると出入り口を塞いでいた石板が音をたてて地面に引っ込んでいった。結界も解除されたようで、どうやら終わりらしい。
「なんだ、つまらん。もう少し遊べるかと思ったが······」
これなら本性に戻らなくてもいけたな。まぁ、たまには本性で暴れるのもいいか。多少はすっきりしたし。
「オールは無事だな、······オール? おい、オール!」
「--っ! あ、ああ」
俺が強めに呼ぶとオールは慌てたように言葉を返してきた。なんだか珍しい反応に俺は首を傾げる。
「どうした?」
「······いや、なんでもない」
「そうか? なら、魔素溜まりを確認してから一度戻るぞ」
俺はいつもの姿に戻り、魔素溜まりがある三階へと足を進めた。
遠ざかるクロムの背中をオールは暗い光を宿した目で見ていた。先ほどのクロムの圧倒的な力に自然と口の端が上がる。
クロムが本性へと戻り、魔物たちに放った強力な魔法。クロム曰く正確には魔術だが、それを目の前で見せられオールは歓喜した。
いっさいの反撃を許さない暴力的な力は、魔物たちを塵の如く屠っていた。その力を行使する吸血鬼は絶対的な強者であり、明らかに人の手には負えない化け物だ。
だからこそ、オールは心の底から期待する。
(ああ、こいつなら全力で挑んだ俺を殺してくれるだろう。確実な死を届けてくれる)
オールはずっと死に場所を求め続けていた。ただ死ぬだけではだめだ。全力で戦い、その果てに死ぬ。それがオールの求める死。
本当はすぐに死にたかった。オールの大切な人が死んだその時に。だが、できなかった。
大切な人が願ったから。精一杯生きて、と。
だからオールは戦って死ぬことにした。自分より強い魔物に戦いを挑んだ。なのに死なない。いつもギリギリのところで死の淵から戻ってきてしまう。まるで呪いのように。
死ねず絶望していたところに出会ったのがクロムだ。オールは確信した。こいつなら確実に殺してくれる。やっと願いが叶う、と。
(クロムとの契約が果たされればきっと······)
オールはその時がくるのを待っている。死を渇望しながらずっと--。




