33 やましいことでも考えているのか?
俺は二人と別れてから、多目的資料室の鍵を返すために職員室へ向かった。夕日によって茜色に染まった廊下が、昼間とはどこか違った顔を見せていて心なしか感傷的な気持ちになりそうになる。――そういえば、きっとあいつらがいなかったら、こんな時間まで学校に残るなんてそうそうなかっただろうな。
そんなことを考えていると、気がついたら職員室の前にたどり着く。それから俺は一息吐いて、ガラリ扉を開いた。
「返しに来ましたー」
「おー」
入室した俺の声に、自分の席にいた山城がゆるく返事をする。そして、俺はまっすぐ山城の方向に向かって歩き――
「先生、さっきの答えって……なんすか?」
「ん?……ああ、まともな教師の話か」
「はい」
おそるおそる、さっきのことについて質問した。本当は聞きたくないような気もしたが、なんとなく聞いておくべ気だと思ってしまったからだ。
「お前は、まともな教師とは技術的に優れている者のことを指してたが……本当にそれだけが、教えることに対して重要だと思うか?」
「……はい。 というか、普通そうですよね? だって知識や技術が足りなければ、何も教えられないじゃないですか。それの他に大事なことなんて……」
「確かに、知識や技術ももちろん大事だ。それを否定する気はない。けれど、それだけが大事なワケじゃない」
山城は、そこで一呼吸置いて言葉を続けた。
「生徒のことをちゃんと見て、向き合うことが一番大切なんだ」
「……そんなこと言われても、俺別にできてなかったと思うんですけど」
誰かと向き合うなんて、そんな真摯なことが俺にできているなんて思えない。実際、萩谷にも……いや、今思い出すことじゃないな。
「ふーん? 前回はあんなに私に向けて二人について熱く語ったくせに?」
「そ、それは必要だったからで!」
「『だけどあいつはすっげぇ――』」
「思い出すな!」
「はいはい。あ、あともう一つ大切なことがあるぞ。教師という上の立場だからって傲慢に思って生徒を利用せずに――」
「先生がそれ当てはまってないっすよ」
「話を最後まで聞け」
「……はーい」
「共に成長していける人間、ということだ。お前はあいつらの教師という立場だが、同時に同じ生徒でもある。だから当てはまってるだろ?」
「……まあ、山城先生よりは当てはまってるかもしれないですけど」
「辛辣だな」
「そりゃそうもなりますよ。それに、俺にはやっぱり荷が重い気もするんですけど」
「そんな肩肘張らなくていい。というか、別に放課後ただ部活……同好会をするだけじゃないか。それともなんだ? やましいことでも考えてるのか?『秘密の放課後~誰にも言えない、あのコのヒミツ~』みたいな」
「ビデオみたいなタイトルやめろ!」
今の時代、なんらかのハラスメントで訴えられないだろうか。コイツ。
「それで、想像するお前もおま――」
そして俺はまたしょうもないことを言いかけた山城を、じろりと睨む。すると山城は肩をすくめて言葉を言い換えた。
「冗談だ。まあせいぜい頑張れよ。部長さん?」
「いや、部長はまだ決めてな……、はぁ。もういいです。失礼します」
前回の俺がこいつのいう「いい教師」の定義に当てはまってたとはいえ――今後の俺もそう在れるとは限らないと思った。




