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でも、大丈夫だ。何があっても、俺はお前を――

 章切り替えで既出情報多め。


 ぴちゃり。と、蛇口から出たしずくが手の中の茶色い土のように見える塊に滴る。


「こんなもんかな……っと」


 そう確認しながら軽く水気を切った後、柔らかくて繊細なそれを、俺はそーっと透明な袋の中に入れる。


 今は、五月中旬。窓の外には初夏の日差しが差し込み始めていて、これからどんどん暑くなることが目に見えている。だからこれは……日陰に置いておくか。おまえも俺と同じ、日陰者だな、なんて。水道を離れ、人気のない廊下を歩きながらそんなことを考える。

 でも、大丈夫だ。何があっても、俺はお前を――育ててみせるからな。


「へへ……」


「……なにしてるの、双葉(ふたば)?」


 そう心の中で誓いを立てていると、唐突に後ろから一人の女子から声をかけられる。


「うおっ!? 佐倉(さくら)! なんだよ! 待ってろって言っただろ?」


「だって、なんか怖くて待ってられないもん! 手に持ってるそれ……なに?」


 俺の手元にある茶色い土の塊のように見える物体に指を差し、訝し気な視線を向けてくるこいつは、うちのクラスのルドヴィア・佐倉・リリアーネ。名前の通りハーフで、イタリアからの帰国子女である。


 そして、胸まで伸びたふわふわと柔らかそうな赤毛、くりっとした琥珀色の瞳、きめ細やかでつやつやとした肌。と、羨ましい程恵まれたルックスである。

 ……だが正直、口を開くとただのおしゃべりなやつにしか思えないのはここだけの秘密だ。

 その話好きのせいかおかげか、日本にやってきたばかりだというのにネイティブと見間違うくらい日本語が話せる。むしろ俺よりペラペラ話せるんじゃないかと思う。だけど――


「これはな、菌床だ」


「きんしょう?」


「ああ。培地(ばいち)……まあ、きのこの苗みたいな感じだ。あ、ちょうど説明書あるぞ」


 俺はぼこぼことした菌床を片腕で抱えながら、片手でポケットから四つ折りの紙を出して佐倉に渡す。


「もー、どれどれ……あー、な、なんとかマニュアル? この漢字読めなーい!」


 話す能力とは対称的に、こいつは読み書きが大の苦手なのである。さて、どう読みを説明したもんかな……。そう頭を悩ませていると、ちょんちょん、と後ろから服の裾を引っ張られる。くるりと振り返った先には、一人の小柄な少女が立っていた。


「おお、(ひいらぎ)。お前もついて来たのか」


 コクリと静かに頷くこいつは、アメリア・柊・セレーナ。佐倉と同じくイタリアからの帰国子女で、俺のクラスメイトだ。なぜかこいつも、うるうるとした丸い瞳、骨格の違いを思わせる端正で綺麗な鼻、小さくふっくらした唇と、とても整った容姿をしている。


「そうだ。お前なら読めるよな?」


 俺は佐倉の手元の説明書を指さしながら柊にそう伝える。すると柊は不思議そうな顔をしながらも、


『椎茸栽培マニュアル……かな?』


 そう書いたホワイトボードを俺たちに向けた。そう、こいつは日本語の読み書きはバッチリだ。バッチリなんだが……いかんせん、佐倉と真逆で話すことを苦手としており、基本的にホワイトボードで会話しているというまた変わったやつなのである。


「正解だ。これは、この菌床からしいたけを育てるためのマニュアルだ」


「難しそうだと思ったら、まーたしいたけ? もー……。って、言いたいのはそんなことじゃなくて! なんで部活でしいたけを育てることになるの⁉」


 そして、見た目も中身もひと癖あるこの二人と、そのどちらも平凡である俺が放課後集まったことには、ちゃんと理由があるんだ。


「だって、しいたけ栽培って……異文化研究にピッタリだろ?」


「ピッタリじゃないよ!」


 そう。俺たちはなぜか――異文化研究部という部活を作ってしまったのだ。


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