ヘリオス幕張12
千歳ちゃんが曲名を告げると会場内に設置されていた大きなモニターに分割されたバッグバンドが映し出された。ギター、ドラム、ベース、キーボード。そんなロックバンドみたいなメンツだ。どうやら今からやるのはカラオケではなくオンラインセッションのようなものらしい。
そして画面越しのドラマーが「ワン、ツー、ワンツースリー!」とドラムスティックを打ち鳴らすと演奏が始まった。レベッカのフレンズ。千歳ちゃんが最も得意とするガールズバンドの名曲だ。
イントロが終わると千歳ちゃんはフレンズを歌い始めた。その歌声は普段の彼女からは想像できないほど透き通っていて、それでいて悲しかった。まるでみんなで行った夏祭りの帰り道に。一人、また一人帰路に着いて。最後にはひとりぼっちになってしまった……。そんな寂しい気持ちになった。思えば千歳ちゃんの歌声には昔からそんな物寂しげな空気が纏わり付いていたような気がする。
私はそんな彼女の歌声が昔から好きだった。普段はおちゃらけていて。私のことを散々振り回して。ときにはメンヘラのように感情を露わにする。そんな滅茶苦茶で出鱈目な羽田千歳が嫌いになれなかった。たぶん私は千歳ちゃんのことが大切だったのだ。弥生ちゃんと比べても遜色ないくらい。それくらい深い絆ができてしまっていたのだと思う。
だから私は千歳ちゃんの歌が終わるまでその場で立ち尽くすことしかできなかった。もしかしたら……。今日で彼女との関係が終わってしまうかも知れない。そう思うとなんとも言えない気持ちになった――。
それから数分後。千歳ちゃんの歌ってみた生配信は終わった。そして彼女はこちらに気づいたのか私にだけ分かるように目配せした。
『今から時間作るから。大丈夫。逃げも隠れもしない』
その目配せからはそんな意図を感じた。悲しいかな私たちは変なところで以心伝心できてしまうのだ。
「行こうか」
私は澪ちゃんたちにそう伝えた。そして舞台袖に下がった千歳ちゃんのあとを追った。




