ヘリオス幕張3
奥寺澪の話②
空が青い。そして雲一つない。それはまるで私たちを宇宙に投げ出すみたいに高く、遠く見えた。屋上には私と羽田さんだけ。そんな空間だから空が余計遠く感じたのかも知れない。
「は?」
私がそうやって意識を空に向けていると羽田さんが冷たい声で再びそう言った。それはさっきまでの呆れ気味の「は?」ではない。明らかな敵意。それが込められているように聞こえる。
「……マリーとね。話してみてちょっと気になったから調べてみたんだ」
私はそう言うとスマホを操作してクリーンショットを画面に表示した。そしてそれを羽田さんの方へ向けると彼女は顔をこわばらせた。予想通りの反応。どうやら羽田さんは思いのほか顔に出やすいタイプらしい。
「とりあえず話を聞いて。たぶん当たらずも遠からずだと思うから」
私は固まる羽田さんを放置してそのまま話を続けた。羽田千歳がやってきたこと。模造『自裁の魔女』について――。
「実はね。B組でいじめに加担してた子たち全員に聞き取りしたんだ。いやぁ、あれは正直キツかったよ。だってみんな口固いしさ。ま、かなり食い下がったから色々分かったんだけどね」
「……」
「えーとね……。聞いた話だと彼らはみんな夏休み前に『自裁の魔女』っていうLINEグループに招待されたんだってさ。それでそのグループにはマリーを除くB組の中心メンバー……。要は意見の強い子たちが集められたんだって。要はあれだよね。RVの子会社や関連会社の子供たちのLINEグループって感じ」
私はそこまでまくし立てるように言うとスマホを操作してそのLINEグループ一覧のスクリーンショットを表示した。すると羽田さんは酷く顔をしかめた。その表情は普段のノリノリパリピな羽田さんからは想像できないほど憎悪に満ちて見える。
「でね。結論から言うとあの子たちはみんなこのLINEグループの作成者に脅迫されてたみたいなんだよね。まぁ……。これに関しては自業自得なとこがかなりあるけどさ。万引きでしょ、あとは暴行にパパ活……。聞いた感じだとB組の子たちの風紀乱れまくってるからさ。それをネタに『自裁の魔女』は彼らを揺すってたみたいなんだよね。要は――」
私がそこまで話すと羽田さんは「もういいよ」と言って私の口元に人差し指を立てた。そしてゆっくりと口を開く。
「はぁ……。やっぱり警戒すべきはあんただったね」
羽田さんはそう言うと据わった目で私の顔を煽るように見た。もうすっかりいつもの明るく楽しい羽田さんではない。
「大正解。流石は優等生だ。まさか私のことそこまで調べ上げてるとは思わなかったよ」
羽田さんはそう言うとスッと立ち上がった。そして気だるそうに荒れた屋上の床を蹴っ飛ばす。
「ねぇ? なんでこんなことしたの?」
私は最も簡潔で語彙力の欠片もない質問を彼女に投げた。結局のところ私は彼女の本心が知りたいだけなのだ。犯罪行為における動機。何が彼女をこんな凶行に走らせたのか。その理由が知りたい。
「フッ。理由なんて簡単だよ」
私の質問を羽田さんはそんな風に鼻で笑った。そして「あの太田まりあって女が大嫌いだからさ」と吐き捨てた――。




