珈琲と占いの店 地底人2
「いいよ。話訊くよ」
澪ちゃんの通話が終わると私はそう答えた。事後承認過ぎるけれど仕方がない。おそらく澪ちゃんは意図的に私の逃げ道を塞いだのだ。トラブルに巻き込む気満々。今の澪ちゃんからはそんな意図を感じる。
「本当にごめんね。もっと早めに色々相談できてれば良かったんだけど……。なかなかタイミング合わなくてさ」
澪ちゃんはそう言うと申し訳なさそう頬を掻いた。それに対して私は「……まぁいいよ。それより誰か待たせてるんでしょ? 早く行かなきゃ」と淡泊に答えた。これから高確率でトラブルに巻き込まれるのだから少しぐらい無愛想にしたってバチは当たらないと思う――。
それから私たち二人はUGの斜め向かいにある『地底人』という名前の占い喫茶に入った。完全にUGのご近所さん。ここは私も叔父と二人でよく利用している店だ。
「いらっしゃ……。あら? 香澄ちゃんじゃない」
地底人のドアを開けるとママがそう言って出迎えてくれた。白髪交じりの長い髪、皺の寄った手、派手な紫のカーディガンに黒のロングスカート。そして真っ赤な口紅……。言い方は悪いけれど怪しさ満点な人だ。絵に描いたような占い師。内心そう思う。
「こんばんは! お邪魔します」
「ええ。ゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます」
私がママにそう挨拶すると澪ちゃんが「奥の席だよ」と言ってそちらに視線を送った。視線の先には……。花見川高校の制服を着た女子が一人で座っている。
「あのね香澄ちゃん。行く前に謝っておくけど……」
私がその女子生徒を見ていると澪ちゃんが言いづらそうに口を開いた。そして「たぶん香澄ちゃんは今から気分を悪くすると思うんだ。でも……。悪いけどそうでもしなきゃ今の状況説明できそうになくてさ。……ってかたぶん私がどんだけ口で説明しても香澄ちゃん信じないと思うんだ。そんぐらいぶっ飛んだ話だからさ」とまるでラスト五分でどんでん返しがある映画のCMみたいに勿体ぶった言い方をした。最高にまどろっこしい。澪ちゃんらしからぬ慎重さだ。
「大丈夫だよ。ここまで来たらもう逃げないって」
「そう? じゃあ……。行こっか」
澪ちゃんはそう答えるとゆっくりと奥の席に向かって声を掛けた。するとその女性生徒がこちらにゆっくりと振り向いた。そして次の瞬間――。私の思考は急停止してしまった。正直に言えばここにいるのは千歳ちゃんだとばかり思っていたのだ。だから……。ここにいるはずのないその顔を見て反射的に現実逃避してしまったのだと思う。
そんな私を見かねたのか澪ちゃんが「紹介するね」と見当違いなことを言った。それに対して私は「いいよ。知ってるから」と澪ちゃんを睨みながら返した。サプライズにしたってあんまりだ。だって……。そこに座っていたのは私の天敵。太田まりあだったのだから――。




