珈琲と占いの店 地底人1
街に明かりが灯り始める。そして海浜幕張駅前は日常的な夜の風景に染まっていった。少なくともこの街は今日も平和なのだ。紛争地域のような空爆もないし、路地裏で人知れず襲われるような人もいないと思う。
そんなありふれた景色の一部として私は海浜幕張駅南口駅前広場で立ち止まった。そして人の群れを避けるようにベンチに座ると電話に出た。電話の相手は……。澪ちゃんだ。
「もしもし?」
『もしーもし。ごめんね。忙しいときに』
私が電話に出ると澪ちゃんのそんな声が返ってきた。そして彼女の後ろからは聞き慣れた音楽が聞こえた。私が週四回は必ず聴く曲。UGで流れている店内BGMだ。
「ううん。大丈夫だよ。どうしたの?」
私は彼女がUGにいることを知らない体でそう尋ねた。すると澪ちゃんは『実はねぇ。今UGまで来てるんだ』と予定調和的に言った。その言い方から察するにどうやら澪ちゃんは私が帰って来るのを店で待っていたらしい。
「そっか。こっちも今幕張駅まで戻ってきたとこだよー。じゃあ……。待ってて。今からそっち行くから」
私は極力余計な言葉を省いて彼女にそう伝えた。すると彼女は『うん。ありがとう。待ってるね』とだけ言って電話を切った――。
「お疲れ様です」
UGに着くと私は中に声を掛けた。すると奥から叔父と澪ちゃんが顔を覗かせた。他に来客はない。残念ながら今日も店は開店休業状態らしい。
「お疲れ様。ごめんね。急に呼び出して」
澪ちゃんはそう言うと申し訳なさそうに眉毛をへの字に曲げた。
「ううん。いいよ。ちょうど幕張戻ってきたとこだったしね」
「そっか。……藤岡くんは大丈夫そうだった?」
「うん! 大丈夫だったよ。てか聞いてよ! あの子すんごくセンスいいよ。小物選びすっかり頼っちゃった」
「そっかぁ。なら良かったよ。ちょっと心配してたんだ」
澪ちゃんはそう言うと慣用句通りに胸をなで下ろした。そして少し渋い顔になった。その表情には何か含みがあるように感じる。
「そういえば千歳ちゃんは一緒じゃないんだね? てっきり一緒だと思ってたけど……」
「ああ……。そのことでちょっと話があるんだ」
「話?」
「うん。ちょっと……。聞かせるには酷な話かもだけど」
澪ちゃんはそう言うとどこかに電話を掛けた。そして「今から行くよ」と通話相手に告げた――。




