株式会社ニンヒアレコード 新宿本社2
それから二〇分後。注文していたピザが届いた。
「はぁ……。やっとまともなご飯だよ。いただきまーす」
弥生ちゃんはそう言うとマルゲリータを美味しそうに頬張った。そして「うん。最高だね」とほっこり笑顔になった。その表情は……。どう足掻いても最高に可愛い。これで彼氏がいないのだから世の中は間違っていると思う。
「ねー。美味しいよね。私も久しぶりにピザ頼めて良かったよ」
「だよねー。私もさぁ。今は一人暮らしみたいなもんじゃん? だからピザとかひさびさだよぉ」
弥生ちゃんはそう言うと「はぁあぁあ。疲れたー」と空気の抜けた風船みたいなため息を吐いた。その脱力具合から見て今の今まで気を張り続けていたのだと思う。
「本当にお疲れ様。……今度行くときは学校に話してちゃんと着いていくからね」
「ああ、うん。ありがと……。でも本当に気にしないで良いんだよ? 香澄ちゃんは学校生活あるんだからさ。それに……。専修高校とかだと授業忙しいだろうし」
「まぁ……。それはそうなんだけどさ。でもウチの学校スタイリストの見習いって名目あれば公欠扱いにはしてくれるみたいなんだよね。だから次は何とかなると思う」
「そっか。じゃあ次の仕事でタイミング合ったら来て貰おうかなぁ」
弥生ちゃんはそう言うと二切れ目のピザに手を伸ばした。そして「香澄ちゃんも食べなぁ」と世間一般の母親みたいな言い方をした――。
そうこうしているとドアフォンが鳴った。時刻は二一時。来客にしては随分と不穏な時間だ。
「誰だろ?」
私は独り言みたいに呟くとドアフォンに向かった。そして「はい」とドアフォン越しに呼びかけると『こんばんはー。かすみん遅くにごめんね。今からちょっと話せない?』と千歳ちゃんの声が返ってきた。嫌な予感がする。おそらくトラブル発生……。だろう。
「……ちょっと待ってて。今開けるから」
私がそう答えるとドアフォン越しに千歳ちゃんの『ごめんね』という声が返ってきた。私はそれに「今更気にしないでいいよ」と答えた。我ながら性格の悪い返事だと思う。
「千歳ちゃん?」
私がテーブルに戻る弥生ちゃんにそう訊かれた。私は「うん。何か話したいことがあるんだってさ」と答えた。弥生ちゃんはそれに「「あの子も悩みとかあんだねぇ」とやや失礼なことを言った。まぁ……。あの子の普段の素行を見るとそう思うのも致し方ない気もするけれど。
そうこうしていると千歳ちゃんが部屋にやってきた。
「いらっしゃい。あれ? 家帰ってないの?」
私は制服姿の彼女を見て思わずそう尋ねた。千歳ちゃんはそれに「うん。今帰り」と答える。
「まぁ……。とりあえず上がって」
「うん。ほんとごめん。お邪魔します!」
千歳ちゃんはそう言うと申し訳なさそうに頭を下げた。こんなにしおらしい千歳ちゃんを見るのは初めてだ――。