ロイヤルヴァージン7
奥寺澪の話④
都市伝説『自裁の魔女』は私がまだ小さかった頃に流行った噂だ。その内容は『いじめられた子供の恨みを晴らすためのウェブサイトが存在する』というものである意味社会問題みたいなっていた。まぁ……。とは言っても半分は眉唾みたいな話だったのだけれど。
「この話すっかり聞かなくなったよねぇ」
私はまりあから借りたスマホに表示されている記事を読みながらそう呟いた。
「そうなの! 小学校のときはあんなに流行ったのに……。気がついたらみんな忘れちゃったみたいだよね」
「ま……。噂ってそんなもんだと思うよ? テケテケとか口裂け女とかもそんな感じだし。一瞬だけ流行ってみんな忘れちゃうんだよね」
私はそんな当たり障りのない返答をして彼女にスマホを返した。そして「ま、私も都市伝説とか嫌いじゃないけど」と付け加える。正直に言うとオカルトだとか心霊現象だとかは結構好きなのだ。それこそホラー映画を一人で見に行くぐらいにはその手のものに傾倒していると思う。
「やっぱりね。澪はこの手の都市伝説には詳しいと思ってたんだ。ほら、前にくねくねの話したときも食いつき良かったし」
まりあはそう言うと口元を歪めて笑った。その表情は何というか妙に歪で、見ていると不安な気持ちになった。まりあはたまにこういう顔をするのだ。普段の彼女の顔が綺麗なだけに余計そう感じる。
「……私ね。もしこのサイトあったらお願いしたいことがあるんだ」
不意にまりあがそう呟いた。
「お願いって……。復讐したい人がいるってこと?」
「うん。まぁ……。そうだね」
まりあはそう返すと首を横に振った。そして「なんてね」とさっき言ったことを取り繕うように戯けて見せた――。
その後、私は無事自宅前に到着した。
「今日はありがとね。お茶ご馳走様でした」
「いえいえ。こっちこそ都内まで来させちゃってごめんね。……また遊び来てね」
まりあはそう言うと長谷川さんに「じゃあ行こうか」と言った。長谷川さんはそれに「はい、お嬢様」と答えると私に会釈してから車を発進させる。
少しずつまりあの車が遠ざかっていく。そして車はカーブを曲がると加速して浦安方面に走り去っていった。これで今日の予定は終わり。やっと解放される。そんな気分だ。
それから私は貰った白チューリップの花束を持って自宅に帰った。そして帰ると母に「それどうしたの?」と訊かれた。学校の用事で外出してきた娘が大きな花束を持って帰ってきたのだ。当然の疑問だと思う。
「太田さんがくれたんだ」
「へー。綺麗じゃない! ……それに良い香り」
母はそう言うと私から花束を受け取った。そしてどこからか花瓶を持ってきて手早くそれを生けた。母はこの手の生花が好きなのだ。思えばウチの玄関にはいつも何かしら花が飾られている気がする。
「ふんふん。良い感じじゃない! あとで太田さんにお礼しなきゃね」
母は鼻歌交じりにそう言うと生けたばかりのチューリップをスマホで撮影した。そして「やっぱり季節の花は綺麗ねぇ」とおばさんっぽいことを言った。いや……。実際四〇過ぎなのでおばさんではあるのだけれど。
そうこうしているとまりあからLINEが入った。内容は『今日はありがとね』というシンプルなもので、私はそれに『こちらこそありがとね』と返した。これといって特別な返事はしない。
でも……。そんな私の思いとは裏腹にまりあから『自裁の魔女の話は聞かなかったことにしてね』と流れを無視するようなメッセージが届いた。私はそれに『分かったよ』と短く返した――。




