ロイヤルヴァージン6
奥寺澪の話③
その後、私たちは三〇分ほど他愛のない話をした。まりあは秋期コンペに出すモチーフの話を。私は来月の委員長会の議題を。それぞれ話した。当然のようにA組の話題は避ける。ここで無理にウチのクラスの話をしてまりあを不快にさせる必要もないだろう。
「――じゃあそろそろお暇しようかな? お茶ありがとね。すごい美味しかったよ」
私はそう言うとソファーから立ち上がった。するとまりあは「これくらい気にしないで」と言ってから内線でどこかに連絡をした。おそらく長谷川さんに送迎の手配を頼んだのだと思う。
「じゃあ新都心まで私も行くよ。家まで送るようにお父様に言付かってるからね」
まりあはそう言うと口元に人差し指を添えた。その様子は……。まるで幼い子供がおねだりしているように見えた――。
それから私たちは長谷川さんの運転で幕張新都心に向かった。運転席に長谷川さん、助手席には水原さん、そして後部座席には私とまりあ。そんな並びだ。
「水原悪いわね。付き合わせちゃって」
まりあはそんな風に助手席の水原さんに声を掛けた。水原さんはそれに「いえ、お気になさらないでください」と丁寧に答えた。……ちなみに水原さんの服装は黒のスーツだ。外に出るときまでメイド服というわけではないらしい。
「たまには舞浜あたりぶらつきたいんだよね。ほら、私いつも送り迎えであそこらへんは通り過ぎるだけだから」
まりあはそう言うと軽いため息を吐いた。そして「まぁ、都内から通うには遠いからね」と付け加える。
「そうだよね。花高ってまりあんちからはちょい遠いかもねぇ」
「そうなんだよー。本当なら幕張あたりで部屋借りたかったんだけど……。お父様がダメだって。酷くない? 私だって一人暮らししたいのに……」
まりあは不満げに言うと今度は水原さんに「私だって一人暮らしぐらいできるよね?」と話を振った。水原さんはそれに「確かにお嬢様なら一人暮らしをしても問題ないでしょう」と答えた。そして一呼吸置いてから「ですが……」と続ける。
「旦那様のお気持ちも分かります。奥様がお亡くなりになってからはお嬢様のことに心を配っておられますから。私のようなものが察するのもおこがましいですが……。一人暮らしされると旦那様もお寂しいのでしょう」
水原さんはそんな風にやたら丁寧な口調で言うとまりあに優しく微笑み掛けた。まりあはそれに「それは……。ま、分かるけどさ」と答える。
「出過ぎたことを言ってしまいました。申し訳ございません。ただ……。私としてはお嬢様にも旦那様のお気持ちも汲んでいただきたいです。旦那様は強そうに見えてお嬢様のこととなると取り乱されますから」
「……分かったよ。でも! 高校出たら一人暮らしするからね!」
水原さんに言いくるめられたのか、まりあはそう言って窓の外に首を向けた。その様子はまるで本当の母子みたいに見えた――。
そうこうしていると車は千葉県内に入った。あと少しで幕張新都心。私の地元に到着する。
「そういえば……。澪って『自裁の魔女』って都市伝説知ってる?」
不意にまりあにそんなことを訊かれた。私はそれに「ああ」と曖昧な返事をした。一応『自裁の魔女』の噂程度は知っている。
「アレでしょ? ネット上にあるって噂の復讐サイト」
「そうそう! 澪はあの噂信じてる?」
「うーん……。あんま信じてないかなぁ。ってかアレが流行ったのってウチらが小学生の頃じゃん? 結構古い話な気がするけど」
そう。『自裁の魔女』という都市伝説自体は結構古めの話なのだ。それこそスマホがそこまで普及していなかった頃の。
「そうなんだけどさ。でも……。やっぱり気になるんだよね。アレはかなり流行ってたから」
まりあはそう言うとスマホで『自裁の魔女』と検索した。そしてその検索結果のトップには『都市伝説はほんと? 自裁の魔女の真実』というゴシップなネット記事が表示されていた。




