突発性一期一会
「セイッ!」
まず先陣を切ってきた一体目の横っ面にスキルを使った拳を叩き込み張っ倒す。
「フンッ!」
続く二体目にはミドルキックで軌道逸らす形での一撃で凌ぐ。
「あっもう無理……痛いッ!」
三体目で攻撃が間に合わないのでHPで受ける。回避したくとも避ければ背後のニカへと一直線だ。その選択肢は現状取れない。
かと言ってこのまま更に三体もの攻撃を喰らえば余裕でリスポンする。なので無理やり打開する。
身体全身で受け止めた子鹿のツノを掴みその場で回転する。
「ジャイアントスイング」という拳スキルにおける数少ない投げ技だ。何のひねりもないネーミングの技だが敵を掴んで回転することで広範囲を攻撃できる便利な技だ。
後続の三体をこの技で迎撃して吹っ飛ばし、その後掴んでいる鹿を他の鹿に当たるように投げ捨てる。おっ、いい感じに二体を巻き添えに出来た。
子鹿達のHPバーを見れば全員半分は行かないまでも3、4割は持って行けていた。但しこっちのHPは半分切っているが。
……これ自体は悪くはない。いや、罠にかかってる時点でダメなのだが。こちらには回復アイテムがある以上、今のを繰り返せば子鹿を全滅できる。問題は今からは親の青鹿がこれに加わってくるという事だ。
連続攻撃喰らったら回復の暇もなくHP消し飛ぶよなぁ。
「どうするんだい」
「いや、これは流石にキツい。一旦逃げよう」
無理だ。明らかに戦力不足。このままやっても全滅がオチだ。
「それが出来たら良いけどね……」
分かってるよ。俺たちが逃げたら青鹿は確実に追ってくる。さっきとは立場が逆転しているのだから。
そしてDEXの事を考えたらまず逃げきれないだろう。
俺だけなら別に悩む事は無いんだけどなぁ。
サクッと死ねばいいだけだ。そしてリスポーンしてもう一度やり直すだけ。ゲームにおけるプレイヤーの最大の特権だ。
が、今回は彼女ありきのクエストだ。彼女の願いを叶えて、その行く先を見届けるのが目的のクエスト。
NPCにリスポーンは無い。つまり彼女が死ねばそれでお終いだ。
無敵とかあってもいいのにこのゲームは頑なに実装しない。リアル感とやらを重視しているからだろうが、おかげで今回のような護衛系のクエストの難易度がやたら高いんだよ。
それにこれはエンカウントクエスト。乱数のお導きで手に入れた機会。一度失敗したら、もう一回受けれる可能性はゼロに等しい。
なので俺には彼女を見捨てるという選択肢は存在しない。
NPCとか使い捨ててナンボなのに面倒な。
とにかくNPCの生存を第一に考えよう。そうすれば何度でも挑戦できる。
「俺が足止めするからお前は森を出ろ」
「僕一人で逃げろって?」
「そうだよ。このままじゃお前が死んじまうだろ」
「君が死ぬ前提なのはおかしくないか……」
いや、それは……。
まさかの切り返しに思わず返答に詰まる。まさかそこを突かれるとは。
どうする、リスポーンが有るからって言えばいいのか? いや、NPCにリスポーンの説明なんか出来るわけ無いだろう。
いかん、上手い理由が思い付かない。
悩んでいると、彼女は俺の前に出て来て楽器を構えて鹿達の方を見据える。
「悪いけど一人で逃げるなんて情けないこと僕はしないことにしてるんだ」
えーと、なんだ?
焦って混乱し始めている頭でどうにか彼女の言葉の意図を読み取ろうとする。
つまりは……選択肢からニカを逃すが無くなったのかな?
そしてそれはそのままこの場で鹿達を全滅させる以外の道が無くなったことも意味して無いかな?
マジで? 難易度が爆上がりしてません?
てっきり簡単に終わると思っていたのにどうしてこんなったんだ。
鹿達の荒い鼻息が聴こえてくる。地面を踏む音が段々と激しくなる。時間が無いと言いたいのか。もう少しくらい考える猶予をくれないかな。
当然そんな願いが叶うわけが無く。親の青鹿が大きく鳴くと子鹿達がまた一斉に突撃してきた。
ニカはその場から一歩も引かない。さっきの言葉が嘘偽りではないと言いたいのかよ。
上手くいかない。イライラを解消する為に来たのに逆にイライラしてきた。
……違うな。こんなことを俺はしたい訳じゃ無いんだ。
俺がしたいのは……。
ウィンドウを開いて素早く武器変更の操作をする。
アクセサリーも……いや時間がない、このままやるしかないか!
前に立つニカの肩を後ろに引いて互いの前後を入れ替える。
そして迫り来る子鹿達を今取り出した自らの身の丈程もある武器を盾のようにして押しとどめる。
とっておきもとっておき。かつてのこのゲームにおける最高攻撃力の大剣。「灼鯨の大骨剣」だ。
「めんどくせぇ! 全部吹っ飛ばしてやるよ!」
最近のキレやすい若者とか怖いわー




