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チグハグガール

さて助けたはいいがここからどうするんだろうか。


見れば明らかに含みを感じる、しなっと倒れた緑の毛で覆われた獣耳、ついでに微妙に外される視線。これは何かにビビってる犬みたいだな。ビビってるのなんで?


「取り合えずその悪趣味な仮面を外してくれるかい、……その、怖い」


あっ、それか。


今は俺は頭部に「罅割れた黒命の仮面」という装備をしている。頭部装備としては珍しくMPが増えて便利なので付けているが、その形状が鴉の顔を模したような見た目なので傍から見たらヤベェやつにしか見えない代物だ。個人的にはキマってて好きです、ハイ。


で、このゲームでは頭部装備は顔を覆う形状をしていても透明化されて視覚に制限を受けない仕様があるため、一年間のブランク込みで今の自分の見た目の異様さは言われるまで気づかなかった。


さっとメニュー画面を呼び出して頭部装備を外す。


「ふーん、仮面の下は意外と普通だね。てっきり顔の皮が爛れてて色んな液体が滲んでる顔をしてると思ってたよ」


一体どんな見た目を想像してんだよ。こいつ見た目とは違ってエキセントリックな性格してるな。


本当にNPC? 表示はNPCですね。マジかよ。


「改めて助けてくれてありがとう。僕はニカ・ハルクゥ。カンタドル西のグラサス村の住民だ」


グラサスというと緑の国へ向かう道の途中にある村か。あの村で受けられる薬草クエは簡単に且つそこそこ短時間でクリアできるため初心者は取り合えずそれを周回してレベル上げろと言われる。 


「貴方の名前は……」


「ユラギ」


「そうユラギっていうんだね。それでどうして僕を助けてくれたんだい?」


「男三人に囲まれてる女性を見かけたら助けるでしょ。そういうこと」


「中々面白い理由だ。冗談っぽい」


流石にクエスト受けたいから助けたなんて口が裂けても言えませんよ。


しかしさっきのテンプレ返答といい妙に変なセリフばかり思いつくな。多分最近ハマってたゲームの影響だろうか。アレ、ひたすら歯の浮くようなセリフを吐き続ける奴が主人公だったからな。まぁそれが伏線だったわけで……いい作品だった。


と、いかんいかん今は目の前のイベント進行に集中しなくては。 


「そういうお前も……」


「お前じゃない、ニカと言う名前がある」


「お、おう」


いきなり強く言われ少しどもる。お前呼びじゃ駄目なのか。


「それでニカは何で襲われたんだ?」


「僕が可愛いからじゃないかな」


「馬鹿かな?」


理由が適当過ぎやしませんかね。


「フフッそんな訳が無いよ。理由は僕もさっぱりだ」


「分かんないのかよ」


「僕はただ楽器を作りたいだけだからね」


「楽器?」


「そうだ、僕こう見えても吟遊詩人なんでね」


吟遊詩人。楽器を使った強化、弱体化を得意とするサポート特化のジョブ。バフ、デバフ、範囲回復などそのサポート能力に隙はない。ただしその分個人での戦闘能力は低い。まさにパーティプレイ用のジョブと言えよう。


前やっていた時に面白いロマン技があるとかで取ろうと思ったが、少し、いやかなり面倒なジョブの取得条件に諦めた思い出がある。


何でNPCのオッサンにゴマすりしなくちゃいけないんだ。せめて美少女にしておいて欲しかった。


「楽器を持ってないのか?」


「いや、ちゃんと持ってるよ。ただ、どうしても質のいい楽器が欲しくてね」


「何で?」


「緑の国の祝福祭は知ってるかい?」


「そりゃ勿論」


「僕はそこで女王パルネシアに会いたいんだ」


「ああ……つまり優勝狙いか。それはまた高い目標をお持ちで」


二ヶ月に一回ある国ごとのイベントの一つ。緑の国のは確か女王による森の恵み云々に感謝して何かしらを献上する。献上すると言っても物である必要はなく、何かしらの出し物でもいい。要するに女王のポイント稼ぎが出来ればいいのだ。


それで一番良いものを献上したものは緑の女王と謁見出来て、そこで色々便利な報酬が貰えるというやつなはずだ。


ただ、その、あまりいいイメージが無い。イベントの内容というよりはその雰囲気に。


かつての知り合い曰くこのイベントのメリットは三つ。


報酬がいい。


女王に会える。


女王に褒められる。


女王と握手出来る。


三つと言って四つ言っちゃってることを抜きにしても何かがおかしい気もするがつまりはそういう事だ。


その祝福祭とは一部のプレイヤーにとっては女王との握手会に他ならないわけだ。


女王のそのNPCだからこその人間離れした美貌は男女問わず多くのプレイヤーを魅力した。


そもそもこのゲームのNPC達の容姿は平均的に高いレベルで纏まっている美男美女である。だが緑の国の女王はそれらに輪をかけて美しい存在だ。


非公式ファンクラブことギルド「パルネシア護衛団(自称)」が緑の国所属の中でも最大のギルドだという事実がその人気を証明している。ちなみに自称までが名前だ。


そんな理由で白熱する熾烈すぎる争いは傍から見てる分には最高のお祭りだが、報酬狙いの者からすれば邪魔以外の何者でもない。どう考えてもそれのせいで緑陣営は人が増えなくて弱小陣営になってるんだよなぁ。


「難しいことは分かっているさ。それでも僕はあの方に会わなければいけないんだ」


「理由を聞いても?」


「……そうだな。聞いたら素材集めの手伝いをしてくれるかい?」


つまり聞いたらクエスト開始ってことね。


さてどうしたものか。ただのモブの手伝いかと思ったがゲーム的な意味で思ったよりもデカい案件な可能性が出てきた。


女王に用がある謎の少女が謎の兵士に襲われてたなんてどう考えても厄いでしょ。


しかも彼女は普通の緑の国の住人ではない。プレイヤーは弄れるがNPCの髪色は種族で決まっている。


それぞれの国を治める種族はその国の名前の色の髪色になる。エルフは緑の国を治めているので緑色の髪といった具合に。


だが目の前の彼女、ニカは獣人族(ウェアビースト)にも関わらず緑色の髪の毛だ。緑はエルフしかいないはずだし、獣人族は黄の国なので黄色の髪の毛でなければおかしい。


となると何だ。彼女は普通のNPCではないと言うことになる。所謂ユニークNPCだ。


必然彼女のクエストもユニーク枠になる訳で報酬も期待出来るはず。


……これは当たりのエンカウントクエストだ。


逃す手は無い。


「分かった手伝ってやるから教えてくれよ」


「ありがとう。正直断られて切られると思ってたよ」


「何で助けたのに切るんだよ」


真顔で彼女に手を握られてブンブンと勢いよく上下に振られる。表情はアレだが行動的には多分結構嬉しいのだろう。見た目がチグハグだが中身と行動も結構チグハグだな。


「で、何で女王に会いたいの」


「せっかちだね君は。まぁ条件で出したしね、ちゃんと教えるよ」


そう言うと彼女は握っていた手を離し、くるっと振り向いてこちらに背中を向けながら教えてくれた。


「実は女王は僕の……親かもしれないんだ」


……ヤバい。想像以上にデカいやつだコレ。



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