表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東亰PRISON  作者: 天野地人
《新八洲特区》動乱編Ⅱ
722/752

第31話 共闘①

 すると、知念(ちねん)は頬を膨らませた。


「ええ~!? せっかくこれからって時なのに!」


 真柴(ましば)はそれに半眼で突っ込む。


「どこがだよ!? ……まあ、単騎じゃ火力で劣るってのは否めねえ。悔しいけどな。梶谷の言う通り、戻るぞ、知念!」


「ちぇ~っ!!」


 ピンク頭とアッシュグレー頭の二人組はぶつくさ言いつつも、梶谷(かじたに)郷上(ごうがみ)の元へ戻って行く。その不審な動きに、深雪と聖夜は眉根を寄せた。


「撤退していく……?」


「何かキナ臭えな。ひょっとして、あのバカ二人組は最初から当て馬役だったってワケか? 俺たち二人のアニムス情報を引き出すための」


「……! 確かにその可能性は高そうだな。何より、四人目のアニムスは何なんだ……!?」


 その頃、三層に築かれた防御壁の向こうでは、梶谷が戻ってきた真柴と会話を交わしていた。


「そんじゃ真柴ちゃん、俺のアニムス・《フルバースト・キャノン》の弾、お願いできる?」


「うっせーな、今すぐ用意してやるよ。黙ってろ!」


 そう言うと、真柴は《リキッド・メタル》を使い、身近に転がっている鉄柱からいくつもの球を作り出した。どれもだいたい同じくらいの大きさで、直径は11センチから13センチ、重さはおよそ7、8キログラムだ。


 梶谷はその中から一つの球を拾い上げると、瞳に赤い光を放ちアニムスを発動させた。


「それじゃ、いっちょ行ってみますかね!」


 それからその球を肩のところへ持って行くと、梶谷は体を回転させ、その勢いで鉄球を上空に放り投げる。まるで砲丸投げのようなフォームだ。


 だが、その飛距離や威力は、アニムスの効果によって何倍にも底上げされている。一般的な砲丸投げとは比べ物にならないほどに。


 梶谷の放った鉄球はぐんぐん加速して三層の《トーチカ》の真上を飛び越え、その向こうにいる深雪と聖夜に襲い掛かった。


「おい、何か飛んできやがったぞ!!」


「聖夜、下がろう!!」


 深雪と聖夜は慌ててその場を離れた。自分たちめがけて飛んできたものが何なのか完全に把握していたわけではなかったが、それが相手のアニムスによるものだと想像がつく以上、逃げない手はない。


 やがて鉄球は空中で火をまとい、急降下すると、深雪たちの三メートル手前ほどで地面に着弾。大爆発を起こす。


 ズウン、という重々しい爆音とともに地面がぐらぐらと激しく揺れた。


 爆発による土煙が大きく上がり、辺り一面に土砂が降り注ぐ。


「くそ!」


「何て威力だ!」


 直撃こそ免れたものの、深雪と聖夜は凄まじい爆風にあおられた。まるでフライパンの上のポップコーンみたいに、為す術もなくころころと地面を転がるしかない。


 それでも何とか大きな瓦礫の陰に隠れることができた。朽ちかけてはいるが、爆風には辛うじて耐えられそうだ。とはいえ、凄まじい爆発音の影響もあり、頭がぐらぐらするのは避けられない。


「ちくしょう、耳がイカれて何も聞こえねえ!!」


 共に瓦礫の陰に逃げ込んだ聖夜は悲鳴を上げた。だが、深雪もあまりの轟音で耳が詰まったようになり、聖夜のその声が途切れ途切れにしか聞き取れない。


「爆発系アニムスだけど、火力自体は俺の《ランドマイン》より威力が高い! まるで本当に砲撃を受けているみたいだ!!」


 一方、知念は《エア・ボード》を使って空中に浮かび上がり、《トーチカ》の上から頭だけ出して深雪たちの逃げ回る姿を楽しげに眺めていた。


「おおっ! 効いてる、効いてるゥ~!」


「そんじゃ、どんどん行きますかねえ!!」


 梶谷は同じように砲丸投げを繰り返し、三発の《フルバースト・キャノン》を放った。鉄球はどれも鮮やかな弧を描き、《トーチカ》の上を飛んでいく。


 三連続の砲撃で、しかも威力は先ほどと同じ。つまり単純計算で威力三倍だ。


 それが深雪と聖夜の隠れている瓦礫に向かって、容赦なく襲い掛かる。


「くそったれ、マジかよ!?」


 新たな鉄球の飛来に気づいた聖夜が、身振りで後退しようと提案した。深雪もそれに頷いて同意する。今は一時撤退し、態勢を立て直すしかない。


 両者は同時に瓦礫の陰から飛び出すと、《トーチカ》の反対方向を目指し、全力で走り出す。


 間髪入れず、三発の『砲弾』が着弾した。三連続の大爆発。大地が大きく揺さぶられ、撒きあがった土くれが降り注ぐ。爆風や轟音も、先ほどにも増して激しい。


 命からがら逃げだした深雪たちは、背後を振り返る。


 先ほどまで身を隠していた瓦礫は木っ端微塵に吹き飛ばされ、叩きのめされていた。退避が一瞬でも遅れていたら、自分たちも巻き込まれていただろう。


 それを目の当たりにし、深雪と聖夜はさすがに青ざめる。


「な……なんつー破壊力だよ!?」


「反撃しようにも、相手はあの三層からなる分厚い壁の向こうだ。聖夜、まずはあの壁を破壊する方法を考えよう!」


「ああ、そうだな!」


 取り敢えず深雪と聖夜は、《トーチカ》から距離を取ることにした。


 梶谷の放つ《フルバースト・キャノン》は強力だが、人力で投げている以上、どこまでも無制限に届くというわけではないだろう。射程範囲外に出てしまえば身の安全は確保することができる。それに、いかにアニムスを使用しているとはいえ、体力にも限界があるはずだ。チャンスは必ずある。


「あー、何だよ。あいつら《フルバースト・キャノン》が届かないところまで後退していくじゃん!」


 深雪と聖夜の動きに気づいた知念は、唇を尖らせた。それを聞いた梶谷は郷上の方を振り返る。


「そうは問屋が卸さないってね。ゴウちゃん、奴らに向かって土塁ごと前進しよっか」


「ん!」


 郷上は再び瞳から赤い光を放つ。すると《トーチカ》によって生み出され扇形に配置された壁が、逃げる深雪や聖夜を追うようにして、ゆっくり前進を始めた。


 それに伴ってズウウンという地鳴りのような物々しい音が響き渡る。深雪は、ぎょっとして背後の壁を振り返った。


「防御壁が……追いかけて来る!?」


「おいおい、冗談だろ!?」


 さらに、層になった土壁の向こう側から容赦なく《フルバースト・キャノン》による砲撃が加えられた。


 深雪と聖夜は、慌ててビルの外壁であったものと思しきコンクリート製の瓦礫の裏に滑り込み、身を隠す。今はただ、砲撃による爆発の衝撃をやり過ごすしかない。


 おまけに、深雪たちの劣勢を悟ってか、知念と真柴が《トーチカ》の向こうから飛び出してきた。そして、それぞれアニムスを使った攻撃を繰り出す。


「形成、逆転逆転~! ギャハハハハ!!」


「今度こそ、俺の《リキッド・メタル》でブッ潰す!!」


 知念は例の二丁拳銃を構え、《エア・ボード》で上空から深雪たちめがけて発砲しまくった。相変わらず命中率は絶望的だが、かと言って油断するわけにはいかない。一発でも当たれば、致命傷になりかねないからだ。


 さらに真柴は鉄塊を《リキッド・メタル》で鞭状にすると、手当たり次第に辺りを薙ぎ払っていく。梶谷のアニムス、《フルバースト・キャノン》にも鉄塊が必要だ。鉄屑の消費を抑えるため、槍ではなくより攻撃範囲の広い武器に変形させたのだろう。


 鞭とはいえ側面は刃状になっており、触れた瓦礫はスパッときれいに真っ二つになっていく。なかなかの殺傷力だ。


 聖夜は顔を歪め、毒づいた。


「畜生! あの馬鹿二人組ども、調子に乗りやがって!!」


「空中を飛んでる奴は俺に任せろ!! 代わりにもう片方は頼む!」


 深雪はそう叫ぶと、知念に向かって《ランドマイン》の付着した石礫(いしつぶて)を投げつける。ところが、それに気づいた知念は、ひらりと方向転換してしまった。


「はいはいはい、恒例の爆破攻撃ね。でも、もうその手は通じないよ~!」


 石礫は空中で爆発したが、それが知念の体を掠めることはなかった。


 一方、聖夜も《トール・ハンマー》を付着させた鉄屑を真柴に向かって投げようと右腕を振りかぶる。


 しかしその刹那、地面から新たな《トーチカ》が出現し、真柴を守るようにして(そび)え立った。聖夜の投擲(とうてき)した鉄屑はその《トーチカ》にぶち当たったものの、やはり傷一つつけることができなかった。


「うわっと……へへ、ナイス郷上!」


 真柴はニヤリと笑い、《トーチカ》の向こうから《リキッド・メタル》で生み出した鞭を繰り出す。変形自在の鞭は大きくしなり、軌道を読むのが難しい。


「くそ、そんなんアリかよ!?」


 聖夜は真柴の鞭を避けつつ、苦々しげに吐き捨てる。


 知念の《エア・ボード》にしろ真柴の《リキッド・メタル》にしろ、一つ一つのアニムスはそれほど脅威だというわけではない。だが、梶谷の《フルバースト・キャノン》や郷上の《トーチカ》と連携することで、格段に手強くなる。


 深雪と聖夜は、知念・真柴の二人組と激しいアニムス戦を繰り広げた。


 やがて《トーチカ》の向こうから梶谷の声が聞こえてくる。


「はーい、《フルバースト・キャノン》の充填完了ですよー! 知念くんと真柴くんは後退しよっか!」


「何だよ、もう!?」 


「ち……これからだってのによ!!」


 知念と真柴は不服そうながらも、梶谷の指示に従った。二人とも大人しく《トーチカ》の向こうへ戻って行く。聖夜はそれを逃がすまいと身を乗り出した。


「逃がすか!!」


「聖夜、壁だ! まずはあの土壁(つちかべ)を破壊するんだ!!」


 現に《トーチカ》が目の前に立ちはだかり行く手を塞いでいるため、知念と真柴の後を追うことができない。深雪と聖夜はそれぞれ《ランドマイン》と《トール・ハンマー》を付着させた鉄屑などを《トーチカ》に向かって投げつけ、アニムスを発動させて壁を破壊しようと試みた。


 しかし、どれだけ攻撃を加えても、やはり土壁はびくともしない。


 一体、どれほど頑丈なのか。


 おまけにそうこうしているうちに、《トーチカ》の向こうから《フルバースト・キャノン》によって火球と化した砲丸が弧を描いて飛んで来る。


 しかも今度は、一度に六発も、だ。


 深雪と聖夜は慌ててその場から退避するが、爆破の影響は免れない。撃ち込まれた砲丸の直撃こそ避けられたものの、方々から強烈な爆風と衝撃波に煽られた。


 容赦なく吹き飛ばされ、体ごと木の葉のように空中を舞い、一瞬の後にはしたたかに地面に叩きつけられる。その上、他の瓦礫と共にゴロゴロと大地を転がった。


「だあああああ!!」


「うわあああっ!!」


 全身に激痛が走った。しかし、悠長に寝転がっている暇はない。そこへさらに新手の砲弾が飛んで来たからだ。

 

 いち早く身を起こした聖夜が、深雪に向かって叫ぶ。


「おい、立てるか!?」


「あ、ああ!」


 深雪と聖夜は全身泥だらけ、傷だらけだ。服はすっかり汚れ破損も目立っているし、あちこちに擦り傷や打撲痕ができている。


 それでも二人は気力を振り絞って何とか立ち上がると、襲い来る砲弾から逃れるため駆け出した。そして、滑り込むようにして崩れかけた家屋の後ろへ身を隠す。


 その直後、連続して炸裂する爆発で大気が一気に膨張した。


 大地が揺れ、爆風が吹きつけ、粉々になった瓦礫がバラバラと雨霰(あめあられ)のように降り注ぐ。


 深雪と聖夜は両手で頭を庇い、体を縮めてひたすらそれに耐えた。この傾きかけた廃屋も、そう長くはもたないだろう。


 砲撃がひと段落してから、聖夜が悪態をついた。


「クソッたれ! あの壁、びくともしやがらねえ! 俺の《トール・ハンマー》じゃ、引っ掻き傷をつけるくらいがせいぜいだ!」


「《ランドマイン》も全く歯が立たない。あの壁を何とかしなければ、俺たちは永遠に不利なままだ!」


 《Zアノン》信者たちは深雪をしつこく追いかけてくるが、深雪の方には彼らに用などない。相手にせず逃げ出してしまおうかとも思うが、知念や真柴がなかなかそうさせてくれない。


(……というか、あいつらの目的は《死神》である俺なんだから、そもそも聖夜には何の関係もないはずなんだよな)


 しかし聖夜は、こうして共に戦ってくれている。成り行き上、仕方なくという面もあるだろうが、深雪一人を放っておけないと考えたのではないか。


(だとしたら……ここは何としてでも俺たちの力で切り抜けたい! 聖夜の信頼を繋ぎ止めるためにも……!!)


 深雪は集中し、思考を巡らせる。


 深雪たちにとって最も厄介なのは、何と言っても《トーチカ》だ。あの頑強な壁がなければ、知念や真柴は大したことが無いし、おそらく《フルバースト・キャノン》の砲手も制圧することができる。


 だが、あの壁が立ちはだかっているが故に全てが困難になっているのだ。


 壁は巨大であるため、乗り越えることができないし、迂回することもできない。郷上は《トーチカ》を移動させる力も兼ね備えているため、そもそも避けることはできないと考えた方がいい。どこから回り込もうとも、《トーチカ》の移動によって防がれてしまったら意味がないからだ。


 結果として、深雪たちはされるがままになっている。


(足りないのは火力だ。聖夜の《トール・ハンマー》、そして俺の《ランドマイン》……どちらも壁を破壊するには火力が不足しすぎている。この問題を何とかしないと……)


 何かいい解決策はないか。考え込んでいると、聖夜のぼやく声が聞こえてきた。


「……まあ、唯一ラッキーな点と言やあ、砲撃による衝撃のおかげで鉄屑が解体され、投げるのに適した大きさのものが増えたことだな」


 もちろん聖夜にとって有益な環境は、深雪にとって有益でもある。何故なら、両者はアニムスの使い方が似ているところがあるからだ。


 もちろん全て同じというわけではない。聖夜の《トール・ハンマー》の方が汎用性が高く、拳にまとった電撃を相手に直接叩き込むこともできる。


 だが、聖夜自身は物体に電撃を付着させて投擲する方が得意であるように見えた。聖夜が野球をやっていたことと関係があるのだろうか。


 深雪も小学生の時、少しだけ野球をした経験がある。バットにボールを充てるコツを掴むのに苦労した。


 キャッチボールはそれなりにできたのだが。


(……。キャッチボール……か) 


 その瞬間、深雪にあるアイディアが閃いた。深雪は聖夜に向かって口を開く。


「……。聖夜は鉄屑に《トール・ハンマー》で電撃を付与し、それを相手に投げつけることができるんだよな? それって聖夜が野球をやっていたからかな?」


「まあ……そうかもしれねえな。っつか、何だよ急に?」


「俺の《ランドマイン》も、物体に爆発させる性質を付着させるアニムスなんだ。ここで提案なんだけど、俺と聖夜のアニムスを合体させるというのはどうだろう?」


「何……!?」


「まずは俺がこの鉄屑に《ランドマイン》を付着させる。それに、さらに聖夜が《トール・ハンマー》を付着させるんだ。それから二つのアニムスが付着したその弾を、聖夜があの壁……《トーチカ》に向かって投げる。聖夜の方が制球力、飛距離、球威、全てが俺よりも上だろ? そして弾が壁に激突する瞬間、俺が《ランドマイン》を発動させる。そうすれば、《トール・ハンマー》と《ランドマイン》の両方をあの壁にぶち当てることができる!」


「つまり、《トール・ハンマー》と《ランドマイン》の相乗効果を狙うってワケか!!」


 聖夜も深雪の提案をいい考えだと思ったのだろう。興奮した様子で目を見開き、笑みを見せた。


 しかしその瞬間、近くで砲弾が着弾し、大爆発を起こした。案の定、深雪たちが身を隠していた廃屋はその衝撃に耐えられず、もろくも薙ぎ払われてしまう。


 深雪と聖夜もばらばらになった廃屋の残骸や土くれと共に吹き飛ばされることになった。度重なる砲撃で、辺り一帯には濃い土煙が待っている。


 聖夜は土砂にまみれつつも体を起こし、深雪に向かって怒鳴った。


「……ぶはっ! しかしよ、こう砲撃続きじゃ、反撃する隙すらねえぞ!」


「それは大丈夫。チャンスは必ず来るはずだから」


 やけに自信満々に答える深雪を怪訝に思ったのか、聖夜は眉根を寄せた。


 今のところは深雪たちの方が圧倒的に不利な立場に立たされている。そんな厳しい状況の中で、一体どうやって好機(チャンス)を生み出すつもりなのかと不思議に思っているのだろう。


 だが、深雪は信じていた。


 彼女が必ず来てくれることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ