真実を知る者(前編)
このepisodeは話を二分割にしたいと思います。
前編と後編に分けるつもりです。それでは前編をどうぞ。
episode3~古代の竜―聖なる竜と邪悪なる竜~
《RYUJI SIDE》
レイスに見送られてから数刻が経過した。
ここまでの道中は大して何もなかった。それどころか何もなさすぎて逆に怖いくらいだ。しかし、僕は懐かしさの気持ちがだんだんと強くなっていくのを感じる。自分のもともといた世界じゃないのにこんな気持ちになるなんて思わなかった。
なんだか故郷に帰ってきているかの気持ちだ。どこか澄んでいるかのような空気に、風が吹いた時に聞こえる木々のかすれる音。そこで僕は思わず歩を止める。そして綺麗な空を見上げる。
きっと今頃レイスやリューシェ、ミルハルトは心配しているだろう。それから僕の第二の家族であるウェストやティア、キースにコモス。きっとみんな心配しているだろう。だから、絶対に僕は無傷で帰るんだ。無傷じゃなくても、瀕死でも生きて帰る。それがみんなとの約束だから。そして、生きて帰って何年か経った時に向こうの世界に帰れる時が来たら、結婚してても言おうかな…『あの子』に。ずっと好きだったって。
その時の光景を思い浮かべて僕は少し苦笑いをする。夫がいる人に告白するって一体どんな人間だよ。でも、もし結婚してなかったらいっそのことプロポーズしようかな?そんなことを考えながら、見上げていた空から首を戻して前方を見据える。
…まだか。かつての友の子よ。早く来るがいい。私は逃げも隠れもしない。さぁ会いに来るがいい!!
ふと僕の頭の中にそんな声が聞こえる。その声はどこかで聞いたことがあった。しかしどこだろう?おそらくこっちの世界に来てからだと思うんだけど…。
そして僕は、自分の顔を両手で叩いて気を引き締めて歩く。
しばらく歩いていると何かにぶつかる。しかしそこには何もない。門のようなもの以外は全く何もない。先ほどぶつかったところに手を当てて再確認してみるが、やはりそこには何かがあった。…これは結界?
そして、門のような形をしている柱を触ってみると頭の中に再び声が響く。
…示せ。汝の力の形を。叫べ、汝が力の核たるものを!
そう、僕にはまだ誰にも知られていない秘密の力がある。それは……
発動せよ!我が真なる力
『ファウストよ、我に力を与え給え。包み込む破壊!!』
その言葉を発した途端に辺り一面が眩い光に包まれる。そして眩い光が収まると、先程までそこにあった門のようなものは、跡形もなく消え去っていた。
僕は歩き出す。声の正体を突き止めるために。本当に父の『友』なのかどうかを確かめるために。
《TIA SIDE》
私は今あの子のことが心配で寝込んでいるところ…。こんな姿をあの子が見たらきっと笑うでしょうね…。でも仕方ないじゃない。あの子は―リュウジはもう私たちの家族も同然なんだから。
それにしても本当に大丈夫かしら…リュウジは私たちの中でも二番目に強いからそんなに心配はないと思うけど。もちろん一番目はウェスト。彼は『バルムンク』が始まった当初からずっと一番に輝いている。
でも、最近はリュウジもウェストと同じくらいに強くなってきているからきっとウェスとは焦ってるに違いないわ。だってリュウジと稽古している時の彼の顔ってばほとんど本気に近い顔をしてるんだもの。
そんなことを考えているとティアの部屋に扉をノックする音が響き渡る。
「ティアさん…?起きてますか?」その声はここ何日かで聞きなれてしまった声。そう―私たち、いや…リュウジに妹たちを助けるように頼んできた人ケイトであった。
彼女はリュウジたちを見送ったあとによくかけてくるようになった。理由はいつも聞いてくる「あの言葉」が原因だと思う。
「ティアさん!まだ…まだ妹たちは帰ってこないんですか?」私は内心で溜息を吐きつつも、いつものように同じ言葉を返す。
「…私だって早く帰ってきてほしいの!すごく心配なの!妹さんたちを待っていいるのはあなただけだと思うわないで!」少しきつく言いすぎただろうか?でも、このくらい言わないときっと彼女は納得してはくれないだろう。
そんなことを思いつつ私は、今は天井があって見ることはできないが空を見てみる。
きっと澄み切った綺麗な空なんだろうな…。いつまでも寝込んでるとリュウジは怒るかしら?いや、その前にしびれを切らしてコモスあたりがきっと嫌味を行ってくるに違いない。
でも、やっぱりリュウジのことが心配過ぎてこの部屋から出ることもできないかも……。
一人心の中でそんなことを思っていると、またしても扉をノックする音が聞こえる。
「…ティア大丈夫か?…入るぞ?」その声は長年のあいだに耳に染み付いた声だった。
「ウェスト…。どうしたの?あなたが私の部屋に来るなんて珍しいじゃない。…もしかしてリュウジのことが心配過ぎて寝込んでる私を笑いに来たの?…そんなことをするのはコモスだけだと思ってたけど、あなたもなの?」私は自嘲するかのように矢継ぎ早に質問を繰り返す。
しかし、ウェストは肯定もしなければ、否定もしなかった。
「ティア。お前が大切な家族の事が心配なのはわかるが、何もしないで寝込むのはどうなんだ?…俺はあいつのことを認めてる。心配するかしないかって言われたら、無論心配する。だが、あいつは強い男だ。そろそろ俺も実力で越されるかもしれない…。きっとこの試験が終わって帰ってきたら、あいつは独り立ちをしたいと行ってくるに違いない。だが俺は…止めない。あいつの進むべき道はあいつが見出すしかないんだ。でも、もし『一緒にいたい』って言うんなら一緒にいる。どっちにしろ俺は冒険者の先輩として、バルムンクの仲間として、そして家族として、あいつが帰って来た時に笑顔で迎えてやりたいと思う。だからお前も寝込んでないで元気を出せ!一緒にあいつが帰って来た時に笑顔で迎えてやろうじゃないか!!」その表情に嘘はない。ウェストはきっと本気だ。だから珍しくあんなに喋ったに違いない。
…リュウジの心配をしてるのは私だけじゃない。ウェストも、キースも、コモスだって。リュウジが私たちのパーティに同行するようになってから、私たちのパーティはリュウジを中心に回っていた。いつだって、どんな時だって。
さっきケイトに「心配をしているのはあなただけじゃない!」なんて言って置きながら、一番心配していたのは私の方だったのか…。なんか恥ずかしいな…。あぁ…ウェストに諭されるなんて私らしくもない。私はいつでも諭す側だったのに…。
ウェストも成長たのかな?それとも私が幼くなっちゃったってこと?はぁぁ…。
こんなんじゃ、リュウジが帰ってきたとお気に合わせる顔がないわね。ウェストの言葉を借りるようだけど、冒険者の先輩として、バルムンクの仲間として、そして二つ目の家族として、私が…私たちが笑顔であの子を迎えてあげなきゃ!
だから早く帰ってきてね……私の可愛い、大きな子供さん♪
《RYUJI SIDE》
僕があの門を通り過ぎてからそれなりに時間が経過した。それと同時に僕は場所の開けたところに到着した。そこの広さはとてつもなく広く、どこか荘厳な感じを醸し出している。
…来たか。かつての友の子よ。汝名は何と言う?
僕の名前は岸本 龍次。岸本 聖が一子。どこか懐かしい感じを思い出しここに来ました。…あなたは、いや、あなたと父さんがかつての友ということでいいでしょうか?
…うむ。間違いない…。それにしても懐かしい名だな。岸本 聖。あの男は竜と会話する者の中でも異彩を放っていた。奴は数多の魔術を使えるにも関わらず、私とともにあることを選んだ。普通の者なら決して私に関わろうとはしない。しかし、奴は私のことを受け入れてくれた。そんな奴の子に我が姿を特別に見せてやろう。
その言葉とともに辺り一面が淡い光に包まれる。そして数秒の後にその光は消え、その先にいるひとつの影が顕になっていく。その姿は並みのものなら一瞬にして気絶してしまうだろう。それくらいのプレッシャーがのしかかる。
…ふふふ、貴様も面白いやつだな。奴と同じで私の姿を見ても顔色一つ変えないとは。なんといってもその目か…。黒眼に刻み込まれたひとつの紋様。龍印。それがあるからこそ貴様は竜との会話をまともに出来るというわけだ。ははは!気に入った!貴様に…いや、リュウジには私の真名を教えよう…。一度しか喋らん。心して聞くがいい…。私の名は……――――だ。そしてリュウジお前には私から贈り物をやろう。上着を脱ぐが良い。
僕は言われるがままに上着を脱ぎ、――――に背を向ける。すると、一瞬だけ背中に痛みが走った。しかしその痛みは直ぐに収まり、服を着る。そして思い出す。聞かなくてはいけないことがまだある。
そうだ…僕はまだ聞きたいことを聞いていない。父さんのことを、伝承の深淵を。




