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伝説の竜騎士の後継者  作者: sold out
第一章
3/8

踏み込む者

まだまだ頑張ります。

それではどうぞ。

episode2~神龍樹海(しんりゅうじゅかい)



≪RYUJI SIDE≫



僕は自由気ままに空を翔けるドラグフェルとともに上空にいた。頬を伝う空気や飛び込んでくる下の景色に毎度のことながら感動し、ドラグフェルが羽ばたく音に耳を立てながら今日も一緒に飛び回る。最初に咆哮を上げたときは驚いたが、その声はとても嬉しそうだったのであまり追求しないことにしよう。

その後もいろいろな飛行を繰り返し、満足したのかドラグフェルは元いた場所へと降下を始める。そして僕を下すと、ドラグフェルも羽を休める。いつもなら一緒にそのまま眠りへと着くのだが、今日はウェストが僕に大事な話があるみたいだからそっちに行かなくてはいけない。


「ドラグフェル。僕は今から行かなくちゃいけない場所があるからお前はもう一回自由に飛んできていいよ。餌を探してもいいし、ここで寝ていてもいい。だけど、さっきみたいにいきなり咆哮を上げちゃだめだよ」そう、多少の釘を刺しておいて頭を軽くなでると僕はその場を後にする。

それから数分かけていつもの会議場所のようなところになっている場所へと移動する。その場所は酒場であり、冒険者の集いの場所となっていた。ここに来ると僕は大抵みんなに注目されるのだがそのことはもう慣れてしまったのであまり気にせずその酒場の一番奥にある場所へと移動する。


「待ってたぞ。ずいぶん遅かったじゃないか?そんなに長く飛んでたのか?俺たちよりドラグフェルのほうが大事ってな」コモスが口の端を吊り上げていたのを軽く流していつも通りの席へと着く。そんな僕のようにコモスはつまらなそうな顔をしながら、手元にあった酒を口へと運ぶ。


「ウェスト、今日は本当に大事な話なんだよね?それってもしかして僕の独り立ちについて?」僕がそう口火を切った途端にパーティのみんなの顔色が悪くなる。そんな様子を見て僕は改めて気合を入れる。こういう時は大概ふざけた真似はできない。


「………リュウジ、お前はヴァーミリオンの伝説を知っているか?」僕はその言葉を聞くと同時に思考を巡らせてみるがわからない。そこで僕は頭を軽く横に振る。


「…ヴァーミリオンは白竜を従えて、前人未踏であった『神龍樹海』を踏破した。この三千年の歴史の中でも、踏破したのはヴァーミリオン彼一人だけだ。その強さは、大陸中のA級冒険者百人分くらいのもので、従えていた白竜と一緒ならば国の一つを壊滅寸前にまで追い込めるほどの強さだったらしい」そこでいったんウェストは口に酒を含むと一拍おいて再び話を再開させる。


「そして、その『神龍樹海』に俺たちは過去に一度だけ死を覚悟して踏み入ったことがある。ヴァーミリオンはあの樹海を半年かけて踏破していたらしくて、俺たちだって一年くらいかければ踏破できるんじゃないかと思っていったんだ。でも、あそこはそんな生半可な気持ちで行く場所なんかじゃなかった。……あそこは化け物の巣窟だ。A級である俺らでさえ二週間が限界だった。進んだ距離はたったの105ファーリ(105キロ)だけだった。あの樹海は約7万8千ファーリ(約7万8千キロ、北海道と同じ面積)あるのに、それだけしか進めなかった。それくらいあの場所は恐ろしい場所なんだ。……それで、今回お前が独り立ちするにあたって、一つの試験を行うことにした」そこでまたしてもウェストは口に酒を含む。パーティのみんなからは息をのむ音が聞こえる。息をのむくらいの試験名様なのかと思い目を瞑ると、ウェストがその重い口をようやく開く。


「……それで、その試験内容は…その『神龍樹海』で三日過ごすことだ」その言葉を聞いた途端に、僕の顔からの血が一気に引いていく。

青ざめている僕に対し、ウェストはただただ返事を待つだけ。その空間での時間は一秒が何分にも何時間にも感じられた。そして僕はおもむろに席から立つと、扉へと向かった。


「おい、どこ行くんだリュウジ!」席を立ち驚いているウェストに言葉を返す。


「今ウェストが言った『神龍樹海』に」その言葉を聞いた時の酒場の空気と、『バルムンク』の顔は一生忘れないだろう。そして出て行こうとすると、一人の女性が僕のもとへと縋り付いてくる。


「あ、あの、『神龍樹海』に行くんですか?…それだったら、できればいいんです。あの子たちを…私の妹がいる冒険者のパーティを探してくれませんか?二ヶ月前にあそこに行くと言って出て行ってから帰ってこないんです。……もし道中で見つけたら、早く帰ってくるように言ってもらいたいんです」僕は自分の夢への足掛かりにするために、その頼みを引き受けようとするとティアがその話に割り込んでくる。


「リュウジ君…引き受けるつもりじゃないよね?そんなことしてたら確実に死ぬわよ。あそこに行くだけでも反対だっていうのに…」その言葉は本当に僕を心配しているように聞こえる。しかし、僕は目の前で困っている人を助けないわけにはいかない。


「…ティアさん止めないでください。お願いします。きっとあなたたちに言われなくとも、この人に言われていたら僕は飛び出していくでしょう。……後にも先にも一回だけの我儘を聞き入れてください」僕は真剣に彼女の目を見つめる。その睨み合いが続くこと数秒ティアから折れてくれた。


「……わかったわ。でも、死んだら許さないからね…」その声は今にも消えそうなほど小さな声でありながらも、ぬくもりが伝わるような暖かいものであった。

僕はその言葉に大きくうなずくともう一度頼み込んできた女性に向き直り、その妹の特徴や、パーティの特徴を聞くと装備を確認してその酒場を後にする。


そしていよいよ『神龍樹海』へと行く時が来た。いつものようにドラグフェルに乗る。その後ろには『バルムンク』のみんなが乗っている。これは試験。だから審査官が必要になる。そこで僕は彼らの顔を確認しその場を飛び立つ。『神龍樹海』を目指して飛び立つ。



≪COMOS SIDE≫


俺たちがあの町を出てからみんなも言葉を発していない。この試験を考案した張本人であるウェスト本人でさえも。いつもならからかっているところだが今はそんなことをできる状況じゃないのは分かっている。

かつて踏み入り失敗した神龍樹海に行くのは怖いが、そんな場所にたった一人で行くあいつのことを考えたら俺たちは全く怖くなんかないんじゃないかと思う。それくらいあいつのやろうとしているこてゃ常軌を逸しているのだ。それにすら気づかないとはさすがあいつだな。そんなだからこそ俺らは毎回救われるんだ。どんな酷いことをしてもそれを訓練だと勘違いして受け入れやがるから時に面白かったり、つまらなかったりする。だが、そんなあいつのことは結構気に入っている。

俺がみんなに相手にされないときは近くに来てさりげなく励ましたりしやがるし、ずっと前に行ったダンジョンでも、あいつは疲れている俺らに代わって率先して寝ずの番をしたりと俺達でもやりたがらないことを自ら進んでやる。


そんなことばかり繰り返すあいつに俺は一度だけ聞いたことがある。「なんでそんなことをしているんだ?」と。そしたらあいつは「人助け人助け♪」と大したことはしていないという感じで言いやがったときはさすがに驚いたけどな。

そんないいやつだからこそ俺はあいつに死んでほしくないと思っている。いや、きっとおれだけじゃない。パーティのみんながそう思っているはずだ。ウェストやティアに至っては親のような気持ちに違いないだろう。まぁ俺はちょっと意地汚い兄貴くらいのものだと思うが。そうするとキースは、見た目は怖いが少々心配症の兄貴ってところか。年齢的に俺のほうが上だから家族構成的には、父親がウェストで、母親がティア、長男がオレで、次男がキース、それで最後にリュウジか。そんなまがい物でもいい。俺は本当の親に捨てられた子供だ。だから居心地のいいここは大好きだ。

そういえばリュウジは最初に俺たちにあった時に変なことを言っていたな…

確かチキュウとか言っていたな。どこかの地名かなんかと俺は解釈していたんだがそう思うとなんか違うようにも思う。……もしかしたらもうこいつと会うことが二度とできないかも知れない。だから今のうちに聞いておくかな。今までの疑問とか本当の今の年齢とか、本当の家族構成とか……。


「どうしたのコモス?ずっとさっきっからニヤニヤしてるけど…」この重苦しい空気の中で一番最初に声を発したのは予想を逸してリュウジだった。きっと一番気負っているはずのあいつが最初に話すとは思ってなかった。しかし、今までのことを考えるとこれが普通なのかもしれない。


「あぁ、ちょっと考えてたんだよ。今のこれって俺たちの『家族』の試練なのかも。ってな」俺がそう口火を切ると一番最初に反応したのがティアだった。


「か、家族って…リュウジが一番下なのはわかるけどほかの人は?みんな兄弟?」食いつくのはそこかよ…と心の中で突っ込みながら、自分の言った言葉に説明を加える。


「違うって。まず父親がウェストだろ。んで母親がティア、長男がオレで、次男がキース。それで最後にリュウジってわけ」すると何を思ったかティアの顔が急に赤くなる。リュウジは軽く笑っているがウェストに至っては渋い顔をしていた。あれ?そんなに父親嫌だったかな?キースは嬉しそうに笑っていたから大丈夫だろう。それにしてもなぜティアはそこで顔を赤くする?


「コモスわかってないね。ティアが顔を赤くしてる理由。それに、ドラグフェルのこと忘れちゃだめだよ」呆れた顔をしたかと思うと急におこったリュウジに疑問を浮かべながらティアにそのことを聞いてみると「か、関係ないでしょ!」だとよ。なんだよ俺は仲間はずれか。でも、こんな明るい気持ちになったのは随分と久しぶりだ。だから楽しい。…心から。


「俺ってさ、小さいころに親に捨てられたから家族とかって羨ましかったんだよ。だからさ、『バルムンク』とリュウジにドラグフェル。本当の家族みたいで嬉しいんだよ」自分でも思うがいつになくしおらしいな。でも、こんな時くらい良いだろ?もしかしたら『家族』が一人居なくなっちなうかもしれねぇんだから。

俺のその言葉でリュウジがぼそっと「家族か…」と呟いているのを俺は聞き逃さなかった。


「おいリュウジ。今まで聞いてこなかったけど、お前って家族とかどうした?あの森にいたときはそれらしい奴なんて一人も居なかったけどよ」その言葉にリュウジは、初めて俺らの前で悲しそうな顔をした。今まで明るい顔しかしてこなかったあいつが…


「んー、この話は長くなるから帰ってきたら言う。先に言っとくけど、僕は絶対に神龍樹海で死ぬ気はないし、生きて帰るつもり。だからその時までその話題は楽しみに待っといて」いつもと同じような笑顔にパーティのみんなも自然と笑顔になる。こいつはどんな逆境でもめげない。それを俺は陰ながら毎回尊敬していた。

だからこそ、尊敬しているやつだからこそ絶対に信じて待とう。『帰ってくる』と信じて…。



≪RYUJI SIDE≫



僕たちは遂に『神龍樹海』の近くまでやってきた。神龍樹海の近くは僕の予想とは違ってどこまでも綺麗でいて、人間の手が加わった気配なんて一切しない。それどころかここは人を寄せ付けない。いや、寄せ付けようとしない。それくらいの神々しさが僕には感じられた。

そしてそんな神々しさと同時に、僕の中の何かに流れてこんで来るものがあった。それは『懐かしさ』や『嬉しさ』などの正の感情。


「懐かしい……それに誰かが僕を呼んでる。奥地だ…」無意識のうちに僕の口から言葉がこぼれ出る。その様子を見たみんなは多少動揺をしていたが、僕は知らず知らずのうちに言葉を紡ぐ。


「『ミルファリウス』なのか?懐かしき友よ。今こそ再び会い見えん。おぉ…」その言葉と同時にこの神龍樹海の奥で猛々しい(ドラゴン)の咆哮が森の中を駆け巡る。そしてその咆哮は龍次以外の人間の耳をつんざく。僕は完全に何かに取りつかれたようになっていたがウェストたちによって僕は現実に引き戻されることになる。


「おいリュウジ…お前『ミルファリウス』なんてどこで聞いたんだ?」まだ(ドラゴン)の咆哮の残響が残る中、耳を抑えながらウェストが僕に聞いてくる。

確かにあの時僕は無意識のうちに名前を呼んでいた。『ミルファリウス』と。今まで呼んだことがなければ、聞いたこともないその名前を。

しかし、僕はその名前をどこかで聞いたような、聞かされたような気がする。そう…あれは僕がこの異世界に来る前の話。大好きだった父から聞かされた数々の冒険の話。そしてその冒険の中にいつも登場していたのが『ミルファリウス』であった。父のピンチを数々も救い、なおかつ、一番の親友だった『ミルファリウス』

今の今まで思い出すことができなかったが、この神龍樹海に来てから思い出したこの異世界に来る前の唯一の言葉。それは不思議な暖かさと共に、嬉しさがこみあげてくる。そこで僕は多少口の端を吊り上げ、『試験官』に声高らかに告げる。


「『試験官』のみなさん。僕は三日ではなく二週間籠ろうと思います。ここは何故だかはわかりませんが懐かしい気がします。だからきっとここで僕が死ぬことはありません。……そして会わなければならない『友』が居ます。その友はきっとすべてを知っている。だからこそ、僕は友に会いすべてを知ろうと思うのです。僕がここ(異世界)に来た理由や、僕の本当の父のこと。そう…隠された名前、『岸本しきもと あきら』について」僕の口から出るとは思ってもいなかった言葉の数々にその場にいた僕以外の人の顔に驚きの表情が浮かぶ。しかし、誰も僕の意見に反対をしようとはしなかった。いや、驚きのあまり反対できなかっただけか…

その後、僕が出発の言葉を発する前に前方で大きな爆発音が再びその場にいた人たちの耳をつんざく。




≪??? SIDE≫



私たちがあの町を出てから今日で早くも二ヶ月が経過していた。姉には早く終わらせてすぐ帰ると言ったのだが、それは無理そうだ。まず、無事な体で帰るということ自体が無理そうだ。

六人パーティでこの最上位ランクに位置づけされている神龍樹海に来たことそのものが間違っていた。パーティのリーダーが、「あの場所はもはやだれでも行けるということを証明しよう」なんて馬鹿げたことを言うから。本来なら来ることすら避けるべき場所にDランクの私たちが来るべきではなかった。ここについたのはつい先日。本当におとといに来たのだ。しかし、私たちのパーティは六人から三人にまで減っていた。

ここにいる魔物の強さは半端ではなかった。あの伝承は嘘偽りなど書いていなかった。それなのに、それを信じずに来た私たちが悪い。でも、ここにいる魔物が強いというのはわかっていたけど…ここまでとは。


「おいレイス、これからどうする?きっとここは今、大変なことになっている。さっきの(ドラゴン)の咆哮だってそうだし…。もしかしたら、俺たちが動かしてしまったのかもしれない…『ホーリーエンシェントドラゴン』か『ダークエンシェントドラゴン』を。もしかしたら両方かもな…」ここまで来てしまうともはや、自暴自棄になるしかすることはない。と言いた表情のミルハルトを何とか立て直そうとさせるが、無理そうだ。

しかし、本当にあの二体のうちどちらかを動かしたとしたら、それは歴史的なことだが同時に『この世界の崩壊』を意味している。

ギリッと唇をかむがそんなことをしたところで何かが変わるわけではない。だからっと言ってここで黙っているわけにもいかず、私たちはここからの離脱を優先させることにした。もはや、私たち以外のパーティの遺体すらない状況でここには留まれない。

そうと決まれば即実行と言うことでこの場所からの離脱をしようとした刹那、私たちの前方で数体の魔物たちにより道を塞がれてしまった。


「ど、どうするのレイス?もうこんな状況じゃ逃げ切れっこないよ…」そう…この状況で逃げ切ることができたらそれはもはや『奇跡』レベルの話であろう。しかし、今の私たちにそんな奇跡などを起こすことなどできるはずもない。しかし、人間このような状況に陥るとどうしても祈らざるを得ない。

「誰か助けて…」と。

魔物たちから逃げて逃げて逃げて…ついに私たちの体力も限界。そこで私は死期を悟ってしまった。あぁ…私たちはここで死んでしまうんだな…いっか、楽しかったし…でも姉さん無事かな?

そんなことを心の中で考えていると目の前で爆発が起きた。

その爆発はリューシェのもので、まだ上位の魔法を使用することはできないが中級なら使える。Dランクで中級魔法を使用できるものは本当に才能があるものだけ。私にはそんな才能はなかったけど、この子にはある。せめてリューシェだけでも…再び私は心の中で祈っていた。

「誰か助けて…」と。


リューシェも死を覚悟したような面持ちで、きっと最後になるだろう魔法の詠唱を始める。

中級魔法の溜めはやはり下位魔法と比較すると時間がかかってしまう。その詠唱が終わるのを待っていられず、私は攻撃を加えようと弓を構え、魔物に向かって矢を引き絞る。そして魔物に向かってその矢を引き放つ。その矢は吸い込まれる魔物の間に突き刺さると同時に魔物から叫び声があげられる。

生きられた…と思ったのもつかの間。魔物たちは一斉に怒り出すと私に向かって走り出す。そこで私は本当に最後だと思った。これで人生が終わる…と。


しかし、私の人生は私たちを見捨てなかった。

誰かの叫び声によって魔物たちの動きはわずかに停止、そこにリューシェの中級魔法が炸裂する。その魔法「ヴェルファイア」は魔物たちの間に拡散し、魔物たちは火が苦手なだけに怯む。そして、一人の男の乱入によって魔物たちは一気に駆逐されていく。その動きは一切の無駄な動きがなく、洗練され、そして美しかった。

魔物を駆逐するとその男は私たちに駆け寄ってくる。


「あなたたちは、『ハーツアーマーズ』ですよね?レイスさんはどなたですか?」どんな怖い男なのだろうかと思っていたら、それは私の勘違いだったようだ。その男は怖いどころか逆に親しみを持てるようないい男だった。


「わ、私がレイスです。……なぜ私たちのことを?」しかし、いくら好感が持てると言っても所詮は知らない男。だからこそこの男の真意を聞いておきたかった。

すると男は笑って答える。「あなたのお姉さんから聞きました」とたったそれだけ。本当にたったそれだけ。それ以外の何が必要なのですか?と言った表情で笑いかけてくる。そんな男の優しさや温もりに私は思わず涙をこぼしてしまう。

その涙は止めようとしても止まらず、堰を切ったかのように私の瞳から溢れ出していく。




≪RYUJI SIDE≫



急な爆発音が僕たちの耳に入ってくると同時に僕は誰よりの早く駆け出していた。

そして、爆発音の中心地にたどりつくと僕は生存者を真っ先に探し出す。すると少し行ったことろで誰かが魔物と交戦している様子がわかったため、そこへとまたしても駆け出す。

その場所にたどりつくと同時に僕は刀を抜き放ち、魔法で怯んでいる魔物たちを切りまくる。そして気が付いた時には魔物は全滅していた。


「あなたたちは、『ハーツアーマーズ』ですよね?レイスさんはどなたですか?」僕の声に反応するように出てきたのは、一人の少女。おそらく年齢は僕より二つくらい下の。

その少女の容姿は腰まで届く落ち着いた黒髪に黒眼。顔は少々吊り上った感じではあるが、ぷっくりと膨らむ唇と見事に中和し、とてもきれいに見えた。

僕は少々見惚れそうになるのを抑え、彼女との会話をする。ここまで来ることになった経緯や、助けた理由。そのどれをも信じてもらえなかったので、もしもの時のために貰っていたものを取り出し、彼女の渡す。

すると彼女は目を見開いたかと思うと、今度は泣き出してしまった。とっさに崩れ落ちる彼女を支え泣き止むのを待った。彼女からは女性特有の甘酸っぱい匂いが僕の鼻腔を突き抜けていく。僕の腕の中で泣きじゃくる彼女を抱きしめたいと思った。軽く触れてしまうだけで壊れてしまいそうなそんな彼女を僕は『守りたい』とそう思った。

肩に触れようとするが、僕は怖くて触ることができなかった。そして、ようやく泣き止むと謝ってきたが仕方ないと慰め、森の入り口にいる『バルムンク』に任せようとするが彼女はそれをかたくなに断り、僕に着いてくるといった。そこまでの勢いで言われると断りきれなかったので、仕方なくついてくることを許可し、条件としてまずはウェストたちにこのことを伝えに行くことにした。


「そうか…わかった。じゃあ俺たちは帰るな。…お前と一緒に行動するやつがいるなら試験官は必要ないだろ」そういうとウェストたちは踵を返して歩き出す。その後ろ姿を見て、僕も踵を返して歩き出す。『神龍樹海』に向かって。





僕たちがウェストとたちと離れて行動してからと言うもの、僕の苦労は絶えなかった。少し歩いては休憩また歩いては休憩。その繰り返しに僕はかなり辟易していた。僕は一刻も早くこの懐かしさがどこから来るのか確かめたいのに一向に進まず、それどころか変な方向に進んでいるのではないかと杞憂しているほどだ。しかし、そんな僕の杞憂を知ってか今日はおとなしいのでひとまず安心していいだろう。……まぁ、黙った理由は見当がつくけど。


「ドラグフェル、荷物を持っていてくれ。僕たちはこれから探しに行くなくて行けないんだ。父さんと同じことをするために。だから少しの間待っていてくれ。…そんな顔をするな。僕たちは絶対に死なない。お前が僕のことを信じてくれなくてどうする?今まで僕たちは一緒だったんだ。僕の強さは知っているだろう?……だから待っててくれ」僕の言葉に呼応するように頷くとその場を飛び立つ。そして見る見るうちにその影は見えなくなってしまう。

そう、一緒に行動していた奴らが黙ったのは『これ』のおかげだ。


「ね、ねぇ…なんで白竜を従えてるの?まさか竜騎士?」こいつらは僕のことを竜騎士だと思っているが僕はそんな大した者ではない。僕は顔を横に振るとレイスは軽く苦笑いをする。きっと心の中では「じゃあなんで白竜と一緒にいるの?」と言ったところだろうな。細かいことまで説明する気がなかった僕は大方のことを説明すると僕を軽く睨みつけてきた。……何で?

そんなこんなで僕は彼女らと二日ほどを共に過ごしていた。その間にわかったことが幾つかある。まず一つ目は、以外にもレイスは寂しがり屋であること。これを知ったのは、昨日僕が寝ずの番をしているときに彼女が寝言で「寂しいよぉ~」なんて言っていたからである。それから僕は彼女に少しだえ優しくしてやることにした。

二つ目は、リューシェが料理上手だということ。彼女は僕が狩ってきた魔物を手早く調理し、ほかのみんなにも均等に分けていたことからわかったことだ。そしてその料理は自分で作るよりも数倍おいしいということが分かった。

最後にミルハルトなのだが、彼は女ったらしであるということが判明した。レイアが悲しそうな表情をしていると必ず声をかける。そこまでなら僕もたまにするのだが、そのあとの言葉が如何せん。「悲しかったら俺が慰めてあげようか?」だ。その言葉に僕は驚いていると彼女が顔の色を変えてミルハルトを有無を言わさず殴り倒したのはかなり印象的であった。


とりあえず奥へ奥へと進んできて僕には『あの』気配がさらに強くなっているのを感じ、歩を早めようとするも、他のメンバーがゆっくりと進むためそうもいかずに苦汁を飲まされている。

しかし、イライラしているからと言って彼女らにあたるもの良くないので、仕方なくここで出てくる魔物には鬱憤を晴らすためにの餌食となってもらっている。…魔物には悪い気もするが。


そうしてようやく三日目に開けた場所に出た。その場所は少し手入れがされていて居心地もそれほど悪くはなかった。そこで僕は一緒にいる彼女らに一つお願いをしてみる。


「…みんな。お願いがあるんだけど…。ここからは僕一人で行く。だからみんなはここから動かないでほしい。きっとここは魔物が近寄れない場所なんだと思う。だからここは他の場所と比べて綺麗なんだと思う。……頼む」僕は彼女らに懇願するように頼みこむ。すると彼女らは悩む様子もなく。あっさりと拒否した。理由を聞いてみると、「安全だろうが、こんな男と一緒に待っているなんて嫌だ」らしい。しかし、それを僕は許さなかった。


「ダメだよ。じゃあここにはドラグフェルも置いていく。……ドラグフェル。彼女たちのことを頼めるかい?ここからは僕ひとりで行かないといけない気がする。…ううん。一人で行かなきゃいけないんだ。かつての友(父の友)がいるかもしれないから。だから……ここで待っていてくれないか?レイスやリューシェには悪いと思うけど、ミルハルトがなんかしたらドラグフェルに退治してもらうからそれで勘弁して」両手を合わせて懇願に近いことをすると二人共諦めたような顔をして了解してくれた。そして、ミルハルトの方を見てみると、多少ビクついていた。おそらく、僕がドラグフェルに退治してもらうといったからに違いない。しかし、これならミルハルトも彼女たちに変なことはしないだろう。


彼女たちを連れて僕は奥に踏み込み前に一日場所の開けた場所で休憩することにした。今まであまり休憩らしい休憩をして否かあったので彼女たちの顔には疲労の色が見れてとれる。それ以前に僕お少なからず疲れていたので、今きちんと休憩して奥に進みたいと思っていた。まぁ僕が疲れた理由は彼女たちにあるのだが…。





《RYUSYE SIDE》



私が彼に会ったのは、自分たちのパーティのみんなが全滅するほんの直前の話し。彼はら一名のごとく現れると、私たちが一人の犠牲者を出して倒した魔物(モンスター)を瞬殺した。そして、そんな彼の姿を見て私は不覚にも少なからず惹かれてしまった。

自分たちの危険に狙っていたかのように現れたらどんな女だって惹かれてしまうのは仕方のないことだと思う。だから私が彼に惹かれてしまうのも仕方ないことだと思う。

でも、彼が最初に声をかけたのはレイスだった。私じゃなくてレイス。確かに見た目はいいし、色々と気が利く。でも、最初にあってそんなことが分かるわけがない。それでも彼はレイスの下に駆け寄り名前をレイスに聞いた。

あとから聞いた話しではレイスのお姉さんのケイトさんに聞いたという事だったが、詳しい特徴を聞いていなかったというのも知った。では何故一番最初にレイスの下に彼―リュウジは駆け寄ったのか。私はそれが疑問でたまらなかった。だから、レイスとミルハルトが眠ったあとにリュウジに聞いてみたら、「あの状況で一番心が不安定みたいだったから」とただそれだけ。

一番最初の印象で決めるのは些かどうかと思うが、しかし、彼のしたことは決して間違いじゃないということも分かっているつもりである。なぜなら、レイスが一番間近で仲間の死を目撃しているから。

でも……私って嫌な女ね。自分が一番最初に話しかけて貰えなかったからって、何も悪くないレイスのことを恨んだりして。分かってる。自分のことは自分が一番よくわかっているから。自分のどんなところが良くなくて、自分のどんなところがいいかなんてことは……。

でも……いや、だからこそ、私は彼を―リュウジを私のものにしたい。ずっと傍に居てほしい。どんな時も、何がっても。本気で手に入れたい。最初は軽く惹かれただけだった。でも、なんで私に一番最初に声をかけてくれなかったのかを考えているうちにだんだんと好きになって言ってしまった。

この気持ちに嘘偽りはない。今まで何人もの男を偽りの気持ちで愛して、愛されていた自分のことが嫌いで仕方なかった。だからこそ、今回だけは自分の本当の気持ちに正直になって本気で彼を愛してみたいと思う。

本気で愛すには、まずレイスの気持ちを確かめて見ないと。きっと彼女のことだから、初見でかなり惚れ込んでいたに違いない。レイスは、恋愛経験がはっきり言って少ない。大して好きでもない男に迫られて付き合ったというものばかりで、自分の気持ちがわかっていないことが多い。だからこそ、今回ばっかりは、レイスにも自分の気持ちに正直になって欲しいと思う。

そうと決まれば即実行。明日の朝からリュウジは一人で奥へと行く。その間にレイアにはっきりと問い詰めておこう。

だから今はそんな明日に備えて眠ろう。今までの疲れも取りながら、明日の小さな小さな決戦へと向けて……。




《MIRUHARUTO SIDE》




ある日突然、俺の目の前に救世主のような男が現れた。

その男は、颯爽と現れて魔物(モンスター)をあっという間に全滅させて、俺の好きだった人の心を持って行きやがった。あんな場面で出てきたら俺が女でも好きになってしまうだろう。

しかし、俺は好きな女の心を持って行かれて黙っている程優しい人間でもない。だが、俺の好きな女は俺のことはどうでもいいとさえ思っているに違いない。

だからこそ、あいつ―リュウジが憎い。いや、これは嫉妬だ。憎悪ではなく、ただの嫉妬。自分には優しくしてくれない女がリュウジにだけは優しくする。それが羨ましくて仕方ない。カッコ悪いと思われてもいい。ただ俺は俺の好きな奴さえいればいいんだ。それ以外は何もいらない。そいつが、私のために死んでと言ったら、俺は迷うことなく死ぬだろう。俺はそれくらいあいつのことが好きなのだから。

最近のあいつは妙に浮かれている。ただ単に一緒に入れて嬉しいだけなのか、自分を守ってくれている、自分に構ってくれていると思って浮かれているのかは知らない。…知る由がない。

だけど、毎回そんな光景をみせられるこっちの身にもなって欲しいものだ。心が痛くてしょうがない。そんなことに腹を立てている自分がみっともなく思える程に。


「なぁリュウジ。お前って好きな奴いるのか?」旅の途中、俺は俺の好きな奴が寝ているあいだにリュウジに聞いてみた。するとリュウジは多少悲しい顔をしながら呟くように言った。


「いる。……いや、いた。でももう二度と会うことはないと思う。きっと彼女は俺のことを忘れていると思うから。でもいいんだ。今の僕にほかに好きな人ができても、その人のこともきっと心の中から消え去ってしまうと思うから。……もし叶うなら、一度だけでいいからもう一度彼女にあって言いたいんだ。『好きだ』って。頷いてくれなくてもいい。拒絶されてもいい。でもこの気持ちに偽りなんてないから。ただ伝えたいんだ。……一番嫌なのは、この気持ちが時間とともに錆びれて行って、好きだったという事柄さえも思い出せなくなってしまうこと。だからミルハルトには公開なんてして欲しくない。僕と同じ気持ちにせたくない。君の好きな人はまだきっとこの世界にいるんだから。僕とは違って今ここにいるんだから」その言葉を聞いていた俺は頬に熱いものが通り過ぎるのを感じた。…涙。ちょっとだけ聞いてみたつもりが、こんなにも重く、こんなにも心に響くものだとは思わなかった。

こんな言葉を恥ずかしげもなく言えるリュウジは、もしかしたらすごい人間なのかもしれない。でも俺はリュウジが言ったように、好きな人が今ここに居るから頑張ってみようと思う。リュウジの言葉を借りるようで少々情けないが、拒絶されても、頷いてくれなくても俺は手に入れようと思う。俺だけの『宝物』を。

些細な言葉で一喜一憂し、笑った時の笑顔がとても愛狂しい彼女を…

自分を曲げない彼女を…

『リューシェ』と言うこの世にたった一人しかいない宝物を。




《RYUJI SIDE》



昨日寝る前に僕はミルハルトと好きな人について語った。…語ったというよりかは、僕が一方的に話していたと言ったほうが正しいだろう。突然僕にこんなことを聞いてくるくらいだから、何かあるのだろう。その内容を知る由はないが、見る春との顔は何かを思いつめているようにしか見えなかった。

「頷いてくれなくてもいい。拒絶されたっていい。でもこの気持ちだけは伝えたい」僕は五年前から思っていたことを、ここに来てからの唯一歳の近い人に話した。

僕がこの話をしたあとのミルハルトの顔は、話す前までの思いつめたようなものではなく、どこかすっきりした顔になっていた。その顔を見て僕は安心した。僕と同じ思いをして欲しくなかったからあえて辛いことを話した。……いや、このことを話すことで僕が楽になりたかっただけなのかもしれないが。

でも、僕が伝えたいことはそういうことじゃなくて、「人を愛するという気持ちは何よりも強く、何よりも気高いものだということなんだ」そのことを理解してくれたミルハルトは、きっとこれからの辛い世の中でも生きていけるだろう。

そして僕とミルハルトは一通り話したあとに眠りに落ちていった。




次の日の朝。僕はみんなが寝ているうちに奥へと進むつもりだった。しかし、その計画は顔所によって阻害されてしまう。

「…何も言わずに一人で行っちゃうの?本当に一人で行くの?……私やリューシェ、ミルハルトじゃリュウジさんの力になることは出来ないの?」その顔には悲しみと怒りが混ざった様な複雑な表情をしていた。そして目の端には涙がうっすらと溜まっているのが見える。

しかし、奥へは僕が一人で行かなくては。昨日も言ったが、友(父の友)が待っていると思う。だからこそ一人で行く。


「ごめんねレイス。今から行く場所は危険が少ないからひとりで行ける。……だから僕のことを信じてここで待っていて欲しいんだ。絶対に、絶対にこの場所に帰ってくる。…まだ果たしてない約束があるからね。僕の大事な二番目の家族の元に帰らなくちゃ。…待っててくれるよねレイス?」僕がレイスの名前を呼ぶとともにレイスは僕のもとへと駆け寄り抱きついてくる。その目には溜めていた涙が溢れ出していた。そんなレイスを僕は優しく包むようにそっと抱きしめる。一瞬レイアの体が硬直するがすぐに受け入れる。

抱き合っていた時間は一体どのくらいだろうか。実際の時間は十秒にも満たないのに、感覚では何時間も抱き合っていたかのように感じる。僕とレイアから離れると、レイスに笑みを投げかけ踵を返して奥地へと足を踏み入れる。

すると再び名前を呼ばれる。


「リュウジさん!…私待ってるから。リュウジさんを信じて帰ってくるまでずっとここに居るから!!」その言葉を背に受けながら僕は歩き出す。本当の『神龍樹海』へと。






《WEST SIDE》




あいつ―リュウジが神龍樹海に行ってから早くも四日の日にちが経過した。俺たちはあれから何もするわけではなく、ただただリュウジの帰りを待っていた。ティアに至っては心配のあまり寝込んでいるほどだ。ほかの奴らといえば、まずコモスだが、あいつは心配なのか暇なのかわからないがこの二日間はずっと酒場に入り浸り、ずっと酒を飲み続けている。次にキースだが、あいつはあいつで何か思うところがあるのかここの所ひとりで小さいクエストを一人で行っている。

俺はといえば……何をするわけでもなく寝ていた。リュウジが神龍樹海に行く前までは毎日毎日っが大変だったため、この機会を軽い休暇だと思えば、それなりには楽しむことができた。しかし、俺はそんなに心が強い人間じゃなかった。リュウジのことが心配で毎日ちゃんと眠ることができなかった。そればかりか、ティアやほかのメンバーを遠ざけるようになってしまった。こんなことになったの

は、自分のせいだというのにこんなことでは、これからのパーティを維持していくのにとんでもない苦労がのしかかると思う。

だが、リュウジがそんな簡単にやられるとも思っていなかった。

リュウジは俺との稽古を軽く三年以上も続けてきたから。去年あたりから俺はあいつとの稽古で八割以上の力でやっていた。それくらいあいつは数年で強くなったのだ。だからあいつはそんな簡単にやられないと思う。

特にあいつの使っている武器が侮れない。あの武器は『カタナ(刀)』というらしい。

あの武器の特徴といえば、反りがあって、紋様が綺麗だということ。しかし、そんな綺麗な見た目とは打って変わって、あの武器の殺傷能力はとても高かった。


稽古中にリュウジが見せた技――イアイ(居合い)?だったか。あれは俺も本気で危ないと思った。急に武器を収めたかと思うと、次は、俺が踏み込んだと同時振り抜き攻撃してきた。剣を軸にして回転して回避をしてなかったら俺の胴体は上下に分かれていただろう。あんな技をあの歳で使えるリュウジは剣の才能があるだろう。それくらいあれはすごい技だった。

だから俺はリュウジの安否についてはあまり心配していないのかもしれない。冷酷なやつだと思うかもしれないが、俺はただ単にリュウジのことを信用しているだけなのだ。


だが、これだけはリュウジが行く前から思っていることだが、




……俺が認めてやってんだからちゃんと親(俺たち)のところに帰ってこいよ。リュウジ。






《REISU SIDE》




私はこの前唐突に現れた男の人に心を奪われている。その男の人は、パーティーが全滅する前にいきなり現れてパーティー壊滅の危機を救ってくれた。

その動きはなんとも優雅で、そして、その優雅さの中に張り詰めた線の様な鋭さがあり、私はその男の人に奪われてしまった。……『心』を。


その男の人―リュウジさんが、この神龍樹海の奥地に行こうとする前に私はリュウジさんに私の思いを少しだけ聞いてもらった。


「…何も言わずに行っちゃうんですか?私たちじゃリュウジさんのお力になることができないからですか?」その私ん問にリュウジさんは嫌そうな顔一つせずに答えてくれた。


「…待ってくれないか?僕を信じて待っててくれ」その一言だけで私の心は満たされた。もうその一言だけで私は何もいう気持ちになれなかった。しかし、私が気づいたときには私の口は勝手に動いていた。


「待ってます。帰ってくるまでずっと、…ずっと待ってます!」その言葉を後ろを向いたままに聞いていたリュウジさんは何も言わずに行ってしまった。しかし、私はそれでも良かった。私の話を聞いてくれた。ただそのことだけで心がとても満たされていたから。

こうしてリュウジさんの見送りは私一人だけで厳かに行われた。リュウジさんが奥地に行ってから約数刻のうちに二人が起きて「あれ?リュウジ(さん)は?」と間の抜けた顔をしていたのは言うまでもない。

そして、私たちはリュウジさんが帰ってくるまでの数日感をここで過ごすことになった。あのミルハルトも一緒だが、リュウジさんの相棒であるドラグフェルもいることだし、きっと大丈夫だろう。

そのドラグフェルだが、心配をする様子もなく地面にただ寝ているだけ。実際は心配しているのかもしれないが私には到底そうは思えない。だって、心配していたらこんなにもまったりと時間を過ごすことができないと思うから。

リュウジさんが奥地に行ってからまだ一日も経過していないのに、私はとても心配をしていると思う。でも、仕方ないと思うから。……リュウジさんは私にとって初めての人だったから。本当の『初恋』の相手だったから。そう思うとなんだか恥ずかしい。それに加えてあの言葉を聞いたときは……やばい、多分今かなり顔が赤いと思う。


「どうしたのレイス?顔が赤いようだけど?熱でもあるの?それとも…」リューシェが私の顔を覗き込むように見てくる。私は赤くなった顔を沈めようとするが、見送った時のことを思い出してなかなか収まる気配がない。


「な、なんでもないよ!…ちょっと暑いだけだから気にしないで。それよりリュウジさんってどのくらいで帰ってくると思う?」その問いかけにリューシェは首をかしげる。


「んーと…多分少なくとも三日はかかるんじゃないの?当事者は私とミルハルトに何も言わずにいっちゃたから私はなーんにも分かんない。………レイスにばっかり」最後のほうが聞こえなくて私は思わず聞き返したがリューシェはなんでもないと手を振って誤魔化された。

しかし、実際リュウジさんは私たちに奥地へ行くことしか教えていなかった。本当にそれ以外のことは何も聞いていない。だからこそさらに心配になってしまう。…本当に私の心を揺さぶる男の人ね。帰ってきたらデートの一つでもお願いしようかな?

そんなことを考えているとリューシェに「それより!」と何故か問い詰められる羽目になってしまった。


「それより!レイス的にはどう思ってるわけ?リュウジさんのこと」突然の質問に私は驚きのあまり、「えぇ~!!」と大声を上げてしまったほどだ。


「べ、別に…な、なんとも思ってないよ?ど、どうしてそんなこと聞くの?」こんなこと言わなきゃよかったと思う。だって、かなり動揺してるのが見え見えだったから。結構噛んじゃったし、それに途中で音程も何回か外しちゃったし。

というか、私がこのことを行った途端にリューシェってば、いきなりジト目で見てくるし…。もう無理。本当のこと言おうかな?……でも、リューシェもリュウジさんのこと好きだったらどうしよう。仲のいい友達と一人の男の人を取り合うなんて私にはできないよ…。


「なーにー?どうしてそんなに声が裏返ってるのかな~?さぁリュウジさんについて洗いざらいあ喋ってもらいましょうか!」やっぱり無理!私に友達を裏切ることなんかできない。嘘をつき続けるのも無理。だから…だから!


「じゃ、じゃあリューシェはリュウジさんのことどう思ってるの?どうしていきなりそんなこと聞くの?」しまった!言っちゃった…。リューシェきっと怒ってるだろうな…。私は恐る恐るリューシェの顔を覗くとリューシェは苦笑いしていた。そしてひとしきり苦笑いをしていると意を決したのか重たい口を開く。


「……ここ何日かレイスを見ていて思ったの。レイスも私と同じでリュウジさんのことが…」そこで一旦言葉を切ると、大きく息を吸い込み、胸に手を当てて真っ直ぐに私を見ながら言葉を紡ぐ。


「リュウジさんのことが『好きだ』って…」その言葉を聞いた瞬間私の目の前は真っ白になった。

え?リューシェもリュウジさんのことが…?でもどうして?確かにリュウジさんはカッコイイし、強いし、優しくていいところがたくさんあるけど…。でも…でも!


「……ス、………イス、レイス!」突然私の目の前にリューシェの顔が映る。


「レイス大丈夫?いきなり倒れちゃうから私びっくりして…」私はさっきまで気絶していたようだ。リューシェの顔は心配している人そのものの顔でいっぱいだった。そして私は促されるがままに起き上がりながら大丈夫と答える。


「…大丈夫。心配させてごめん。…でもどうしてわかったの?」私はもう否定しても無駄だと思ったため、素直にわかった理由を聞く。すると、何かを悩んだ挙句に口を開く。


「…最初は嫉妬だった。なんで私じゃないの?って。最初に声をかけられたのが私じゃなくてなんでレイスなの?ってね…。そう思った私は、レイスを観察することにしたの。そしたらあなたってば、リュウジさんのことばっかり見てるんだもの。誰だってわかるわよ。わからないのは当事者だけってね。ふふ…本当に見てて面白かった。必死に目で追いかけてて。……だから、そんなに必死になってリュウジさんを追いかけるあなただから私は胸中を晒したのよ?」その目は嘘一つ付いている様子は全くない。それが清々しくて、羨ましくて…。私ははっきりと言えないのに、リューシェハははっきりと自分の好きな人のことを理解している。なのに私は…。

私も負けたままじゃ嫌だ。何もしないまま好きな人を仲のいい友達に取られるのは嫌だ。だから、

私もりゅーシェに言わなくちゃ。


「…わ、私も…!私もリュウジさんのことが…リュウジさんのことが好き!」言っちゃった!あぁ恥ずかしい。でもなんだろうこの気持ちよさ。ずっと胸につかえていたものが取れたようなそんな感じ。きっとこれが、私の本当の気持ちだったのだろう。それを私はいつも否定していた。いや、否定しながらも心の中では、どこかに確信に近いものがあった。でも、こんなにはっきりと意思表示をしたのは初めてかもしれない。だからきっと気持いのだろう。そう…これが『恋』

私はその時初めてそう思った。


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