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白雪邸殺人事件  作者: iris Gabe
解決編
14/14

14.エピローグ

 こびと島で生き残った五人は、翌日遅くまで、連絡を受けて到着した警察によって、ひととおりの捜査を受けたが、身元証明と連絡先を確認されたのち、無事に解放された。警察にしてみれば、いちばん手間のかからない簡潔な結末で事件が解決することが、何よりもありがたい話であり、あえて別の可能性を追求しよう意思は、感じとれなかった。もちろん、恭助が警部補の息子であり、さらにいくつかの難事件を過去に解決して警察に協力してきたという事実から、彼の意見が尊重されて取り扱われたことも、幸いした。

 翌朝には、恭助とシド、ココの三人が、こびと島をあとにした。二階堂老人とモネのふたりは、あと始末をするという理由で、島に残った。帰りのフェリーの甲板で、遠ざかるこびと島を眺めながら、シドが恭助にいった。

「外部への電話回線を切断したのは、二階堂さんだったということか」

「たぶんね。一階の西の非常口の傍に、切られた電話線のコードがぶら下がっていたよ」

「ちびよ。今回の事件でまだひとつだけわからないことがあるぞ。そもそも、ユーノさんが俺たちをこの島に招待した目的は何だったんだ? 結局の所、ユーノさんは最後まで姿を現さなかった。本当に用事で来られなかったのだろうか。俺はてっきりユーノさんが、白雪の間に隠れていて、俺たちの様子を四六時中うかがっていたのでは、とまでも疑ってしまったよ」

 ヤンキース・キャップで日差しから顔を隠しながら、仰向けに寝転んでいた恭助が、帽子を手にとると、シドのほうを向いた。「なんだよ。気づかなかったのか。ユーノはずっと俺たちの前にいたんだよ!」

「えっ、まさか、モネさんが……」

「ぷっ……。ユーノが若いお姉さんだという先入観は、捨てたほうがいいな。モネちゃんには、ユーノになることは無理だ。ユーノの持っているリーダーシップや賢さは、とてもじゃないけど、まねはできないよ。

 そもそも、俺たちのうちのひとりが、ユーノであるとすれば、ひとり二役のチャットタイピングをこなさなければならない。やってやれないことはないが、ちょっと厳しいな。でも、その制約に該当しない人物が、ひとりだけいたじゃないか」

「まさか、二階堂さんか」

「ご名答! 二階堂のじいさんこそユーノの正体さ。タイピングさえできれば、オンラインゲームで初老の男が若い女性になりすますことは、決して不可能ではない。むしろ、そのくらい人生経験があったほうが、仲間からうちあけられたなやみごとにも、的確な対処をとることができるというものだ」

「しかし、それならわざわざ自分の正体を公開するような、こんなパーティを開かなくてもよかったじゃないか」

「じいさんは、はなから自分の正体を暴露するつもりはなかった。最後まで、ユーノにやとわれた使用人として、この会に居座るつもりだったんだ。もちろん、クリンの悪だくみを事前に把握していたわけでもなかった。

 じいさんが、この会を催した真の理由は、おそらくモネちゃんだと思う」

「モネさん?」

「そうさ。初老の男だって、若い娘への恋に落ちることもある。モネちゃんは、ゲームの中でユーノだけに、自分がネットアイドルとして活動していることを告白した。当然、二階堂のじいさんは、モネちゃんのホームページを何気なく開くことになる。そして、そこに現れたかわいらしい少女に、思わず魅入られてしまう。そうと知ってから、モネちゃんとオンラインゲームで会話をかわし合ううちに、ますます深い恋に落ちていく。あげくの果てに、モネちゃんに実際に会ってみたいという願望に勝てなくなり、モネちゃんにオフ会に誘ってみた所、快い了解が得られた。しかし、自分の正体がユーノであるという事実は、最後まで伏せておきたかった。そこで、じいさんは、ユーノは用事で来られなくなったという設定で、オフ会を開くことにしたんだ。

 じいさんの予想どおり、モネちゃんは純粋でとても性格のいい娘だった。じいさんはモネちゃんと会話をかわしながら、今回の企画を満喫していたのだと思うよ。しかし、思いがけない所から、モネちゃんをおとし入れる卑劣な計略に巻き込まれてしまう。じいさんはとにかく、モネちゃんを救うことを最優先に、行動したというわけさ。自分を犠牲にしてね」

「そうか……。結局、二階堂さんもかわいそうな人だったということだね」と、シドがつぶやいた。

 そこにココがやってきた。「あなたたち、結構、仲よくしているじゃない」

「ココ姉。あんた、クリンといっしょに暮らしていたのなら、いずれ警察から、今回の事件について追及されるぜ。警察もそこまで抜けてはいないからね」

「須藤は妻子持ちで、あたしの所にはお忍びで通っていただけよ。だから、あたしがしらばくれていれば、誰も須藤とあたしの関係を立証できないと思うわ。あら、ちょっと、坊やには難しい話だったかもしれないわね」

「これは、一本取られたね。まあ、ややこしくなりそうな物品は、ここにあるけどね」そういうと恭助はポケットから、メモリースティックを取り出すと、にっこりと笑って、海中へ投げ込んだ。

「まあ、たとえ警察が真相に気づいても、じいさんが否認すれば、犯行を立証することは極めて難しい。いずれにしても、この解決に落ちつくのがベストだったのさ」と、ポチこと如月恭助は、さぞかし満足げな表情を振りまいていた。


 シドは、千葉県八千代市の緑が丘にある自宅に帰ってきた。あのおぞましいこびと島での体験から、もうすでにひと月が過ぎようとしている。あれから、永遠の剣には何度かログインを試みた。しかし、ユーノやモネに出会うことはなかった。ユーノがつくった仲良しグループのリリスは、リーダー不在のまま、自然崩壊の道をたどっている。ポチやココも、ゲームには全く姿を現さなかった。

 白雪萌音のブログは、閉鎖されていた。彼女の名前を打ち込めば、いくらかの検索には引っかかるのだが、ブログにはいろうとすれば、このホームページは閉鎖中です、との表示がされるだけであった。

 何気なしに、川崎市宮前区の松村内科クリニックを検索してみたら、ホームページはたやすく見つかった。スタッフ名の中には、松村亮平という人物がいたのだが、松村誠二の名前はなかった。

 三重県の私立高畠高校のホームページにもいってみたが、数学教員の個人名まではさすがに公開されていなかった。


 そんな中、永遠の剣にログインしたシドは、いつものようにぶらぶらと港町ラグーナの表街道を歩いていた。すると、後ろから声をかける者がいた。

「やあ、シドじゃないか? 久しぶりだな」

 振り向くと、そこにはスカルが立っていた。


 驚きのあまり、一瞬、シドは返答のタイピングを打つことができなかった。

「こいつはいい所で出会えたな。もう、逃がさないぜ。どうだい、たまにはキマイラ洞窟に行かないか?」

 シドの動揺に全く気づいていない様子で、スカルはべらべらとしゃべり出した。

「どうにもこうにも、困ったもんだぜ。ユーノさんは最近、ちっとも姿を現さないし、ポチやクリンも、ログインをしていないみたいだ。いったい、何が起こっちまったんだろうね」

 そう語るスカルの口もとからは、黄ばんだ前歯がいやらしく突き出ていた。 

「シド、わかっているだろうけど、あんたたちがいなければ、俺は商売あがったりなんだ。助けてくれよ、この通りだから……」

 長い文章をお読みいただき、ありがとうございました。よろしければ、みな様のご意見ご感想をお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ネットゲームのオフ会である必要はないんじゃないかと思いながら読んでしまっていましたが、全然そんなことなかったですね。動機から何からの根底にもなっていましたし、何より探偵の登場シーンが痛快で…
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