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婚約破棄されたので、慰謝料と経費精算願います スピンオフ~侍女ソフィと公爵家補佐官クロードの観測日誌~  作者: pinecone


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9/9

三百冊に載っていない恋(後編) (最終話)


※本編完結後のお話です。


自分の心臓の音うるさい。


(まって。私、今、クロードさんに抱き締められて…リアル背中トントンされてる!)


急に我に返る。


「あ、あの、ありがとうございます…落ち着き…ました…」

「…ほんと?」


背中に当てた手が止まる。


「ええ、ですから…そろそろ…」


抱きしめていた腕の力が抜け、少し名残惜しそうに離れるけど、クロードさんはまだ近い。私の手を優しく握り直し、クロードさんが私の顔を覗き込む。


「僕の気持ち、伝わったかな?」

「~~~っ……は…はい…」


目が見れない。クロードさんの前では三百冊の知識は、なんの役にも立たないことを今、思い知る。

このお返事は、後日改め――


「じゃあ、ちゃんと伝わっているか、最後の答え合わせをしましょうか」

「…へ?」


答え合わせもなにも、そのままの意味では…?


「では、問題です。この手紙は、誰が誰に何を申し込んでいると思いますか?」


口に出すと、少し恥ずかしいけど――


「く、クロードさんが…私に…その…」

「その?」

「その…こ、こ…こ、コウサイヲモウシコンデイルゥ!」 


一瞬間があいた。


「…なるほど。ソフィ殿はそのように解釈したんですね」


え?それ以外なにがあるというのでしょうか?正解ですよね?


「では仮に、そうだったとして、お返事はどのようなものになるのでしようか?参考までにお聞かせ願いますか?」


おおおおおお返事は今ですか?!


「そ、それは…もちろん…」

「もちろん?の、あとは?」


そう問われ、ハッとなった。ダメ。この恋は進めてはいけない。クロードさんへの気持ちは伝えてはダメ。


「…ほら、また余計なことを考えている。こっちを見て下さい、ソフィ」

「……」

「ソフィのホントの気持ちを知りたいんだ。僕じゃダメかな?」


ずるいです。そんな聞き方。


「…ダメじゃないです…。ク、クロードさんのことは…好きです…でも」

「…でも?」


言いたくなかった胸の内を、埋まらない事実をつげる。


「私は、商家の一人娘で、あなたは男爵家のご子息…でしょ?」

「僕は男爵家の三男だよ?」

「それでもです、平民と貴族ではつり合いが取れないじゃないですか…」


その場が凍り付くのが分かった。でもこれでいい、恋愛ごっこの末にお互い傷つかなくていいもの。


「今は、そう思ってくださっているかもしれないけど、その内、気持ちが冷めて、やっぱり私なんかより、貴族で話しの合うご令嬢からの縁談を受ける方がいいって――そう思うに決まってます」

「それ、本気で言ってますか?」

「…っ」


それから、クロードさんは、ふぅっと、ため息をつき、話し始めた。


「僕の質問の仕方が悪かったようです。ですが、あなたの口から好きだと言ってくれたことは収穫ですね」

「…」

「ソフィ、この手紙は交際の申し込みではありません」

「…へ?」

「プロポーズです」


えーーーーーーーーー!!!!!!え?え?ええ?…いや、でも同じこと…?


「ハッキリさせていきましょう。仰るとおり、私はヴェルナー男爵家の者です。長男は結婚し、家を継ぎました。そして男児が三人います。次男も騎士で結婚していて男児二人女児二人。私は、ヴァルテンベルクの財務に携わることで、あえて結婚で政略的な繋がりは必要ないと、両親から告げられています、つまり”好きにしろ”と」

「は…い…」

「そして、商家の一人娘である、あなたやご家族は、婿養子を探している」

「…えぇ、まぁ…」

「ここにいるじゃありませんか?丁度いいのが」

「ちょ、丁度いいなんて…養子ですよ、貴族ではなくなるんですよ?それにクロードさんはもっと素敵な人が…」

「それは、ソフィの考えです。僕の考えは違います。僕は結婚するならソフィとしか考えられません。貴族であることに何のこだわりも無いのです。あなたの隣に居れるのなら喜んで捨てますよ」

「…っ。で、でも、財務のお仕事を大切になさって…」

「もちろん。ですので、商団と財務の仕事を両立していいか閣下に聞きました。返事はOKです。もちろん侍女の仕事も継続可能です」

「だけど…商団の方は…」

「それも、貴女のお父様に確認を取ってみたのですが――――」


スッと出されたミレット商家の便せん。


「……パパ…」

「そうです。要約すると、何ら問題はなく”願ったり叶ったり”だそうですよ。不安は無くなりましたか?」


そう言って小さな箱を開いて私の前に置いた。クロードさんの瞳の色…ペリドットの指輪。


「ソフィ嬢、私と結婚してくれますか?」


◇


翌週。

左手の薬指にはクロードさんから頂いた婚約指輪。午前中にお仕事を終わらせ、午後からは私の実家、そして翌日にクロードさんのご実家であるヴェルナー男爵家へ結婚の挨拶をしに行く予定だ。

仕事の合間に時間が出来たので、荷造りを先に済ます。

私の本棚には今、三百一冊目”主たちの観測日誌”世界にたった一冊の私の主の恋物語。と、その横には三百二冊目の”業務連絡帳”。きっと誰にも分からない私とクロードさんの恋の記録。


「さぁ、お嬢様の書斎を片付けて出発しないと!」


テキパキと書斎の机を整える。手紙、書類、本…。


「ん?」


見慣れない帳面があるのを見つけてしまいました。表紙には『観測日誌』。


(なんだか親近感が…)


そして表紙をめくると、ご夫婦の筆跡で、こう書いてありました。


『対象:ソフィとクロード』


「んな!!」


――観測者もまた、観測されている。

ギルモアさん、あの文言、そういう意味でしたか!!


(完)


最後までお読みいただき、ありがとうございます。よろしければ評価★&ブックマークをしていただけると、大変励みになります。

本作品は、婚約破棄されたので、慰謝料と経費精算願います ~大手会計事務所内定だった転生令嬢は、簿記のわかる公爵さまと複式簿記で恋に落ちる~のスピンオフ作品です。

本編の裏側をお楽しみいただければ幸いです。

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