二 どうしようもない現実
「それでもさこの小説『瑠璃島館殺人事件』には何か意味があるのだと思うよ。だからこの小説を、小説の登場人物でもある私、桜夢、胡桃の3人に遺したのにも何か理由があるんだよ」
「そうですね」
一胡先輩は自殺した、遺書は見つかっていない。
そのかわりにこの小説だけを、私達に遺してくれた。そうなるとこの小説に何か意味がありそうだと思うのは、当たり前かもしれない。
「本当になんで私がここに出てくるのかはよく分からないのです。だって私は学年が違いますし。確かに島残留組なので他の中位能力者よりは身近だったかもしれません。でも島残留組の高2の先輩方は百々先輩と胡桃先輩以外にもいますでしょう」
「そもそも、私と桜夢は下位能力者の子とつるむことが多かったじゃん、それで中位能力者とのつながりはむしろ希薄な方だよ。それもあって一胡とも関わることは少なかったのに、なんでだ」
基本的に中位能力者や高位能力者は国の役に立つために、学園卒業後は決められた場所で生活をして仕事をすることになってる。そして下位能力者は実社会にあまり影響を与えないため、基本的には学園卒業後島の外で自由に暮らすことが認められている。
それもあって中位能力者や高位能力者の島残留組は、国の役に立たない上実社会に影響を与える能力を持っているため、島から出ててはいけないことになっていた。そういうこともあって島残留組はそうじゃない人たちに対してコンプレックスを持っていることは確かだが、島残留組同士での強いつながりがあるわけではない。
「下位能力者は自由に生きることが認められているので、中位能力者よりもできることや知ってもいいことが多いです。それもあって下位能力者と関わる中位能力者はかなり珍しいほうですよ。胡桃先輩や一胡先輩がそうだったかは、分かりませんが・・・・・・」
学園における常識的な話をまとめつつ、改めて考える。
確かに私達は将来この島に残ることが決まっていて、その生き方は他の人とは違う。だって多くの人は、島の外へと出て行くのだから。
でも同時に私や百々先輩は自由に生きることが許された下位能力者とつるむことが多くて、考え方もそっちよりだ。そのせいで私は他の中位能力者とはあんまり関わらない。
一応学校では能力の授業以外、色々な能力者が同じ教室で学ぶことになっている。だから別に生活では問題はないけど、私は一胡先輩の仲良しではなかったのだ。
「まーそもそも私は下位にかなり近い歌の能力だし、桜夢はぬいぐるみに命を与える能力。一胡とは能力も全然違うでしょ」
「それもそうですね」
私はぬいぐるみに命を与えることができる、そういう能力を持っている。単にぬいぐるみをかわいがって、動かすだけの能力なんだけどね。
そこでぬいぐるみを触らなければ無能力者と同じなので、私も下位よりの能力者かもしれない。
基本的にこの社会では、超能力を持っている人はいないことになっている。そこで超能力を持っている人たちは国の役に立つか、島に隔離されるかのどっちなんだ。下位能力者だって自由に生きることが許されているとはいえ、国のために働くらしいし。
一胡先輩はもっと社会に影響を与えるような能力だったので、私とは立場が違うのだ。
「もう胡桃も読み終わったはずだし、会いに行こう」
「そうですね。胡桃先輩と一胡先輩は同じ部屋です、もしかしたら一胡先輩の遺品がまだ残っているかもしれませんし」
胡桃先輩は一胡先輩のルームメイトだ。そこで胡桃先輩の部屋にはまだ、一胡先輩の遺品があるはず。
新しいルームメイトが入ったって話も、胡桃先輩が別の部屋へ移ったって話も聞いていないし。
「じゃあ行こうか」
百々先輩について、私はドアを開けて部屋から出る。
部屋の外はがらんとしていた。みんな大体部屋でいるのだろうな、これなら胡桃先輩もそのはず。
「それにしても瑠璃姫は一胡の死に関してノーコメントだったね」
この島で一番未来予知がうまい、通称瑠璃姫に対して文句を言いながら歩く胡桃先輩。
「今の瑠璃姫様は能力が低いから仕方ありませんよ」
今この島には、強い未来予知能力者はいないらしい。
未来予知能力者はかなり役に立つ能力者なのもあってから、学園卒業後全員島の外へと出てしまう。そのため島にいる未来予知能力者の強さによって、瑠璃姫様の強さも決まってしまう。
もし瑠璃姫様が強い未来予知能力者だったら、一胡先輩の死は阻止できたのかな?
瑠璃姫様は島で起きる問題を、未来予知で防ぐためにある。だから今の瑠璃姫様が一胡先輩の自殺を未来予知して、防いでくれたらよかったのに。
私は歩きながらうつむいた。今更どうしようもない。
だって今の瑠璃姫様は中2で、下位能力者だ。中位能力者の高校生である私達が文句を言っても仕方ない。
「そうだね。それに今の瑠璃姫様は中2で下位能力者だ。中位能力者とは接点が少ないし。それにしても中位能力者の寮はがらんとしているな、相変わらず」
下位能力者の子もいる学校とは違って、中位能力者の子しかいない寮はいつも静かだ。
下位能力者よりも生活が制限されているから、中位能力者はあまり騒がないし基本的には部屋の外へと出ない。
とはいえいつもよりも人が少ないのは、一胡先輩の自殺が影響しているんだろうな。
「私達がいるところは島残留組のところですから、他よりも人が少ないですしね」
中位能力者の寮って基本的には4人部屋だけど、島残留組の部屋だけ2人部屋になっている。
そういうこともあって、他のところよりも人が少なくなっちゃう。
「そうだね。胡桃いるー?」
百々先輩はドアをノックする。この部屋が一胡先輩と胡桃先輩の部屋だ。
「いるよー。どうしたの?」
胡桃先輩が出てきた。きちんと制服を着ている私達とは違って、ルームウェアのような裾にひらひらのついたワンピースを着ていた。
でも色が黒いのもあってか、死者を悼んでいるような雰囲気がある。
「胡桃、その服最近買った?」
「まあそうだよ。気分転換に買い物つい最近したからね。中位専用のお店の品揃えがゴミだから、かなり探したんだよ」
百々先輩の質問に軽く答え、さらりと回る胡桃先輩。
私は中位能力者専用のお店の品揃えが悪いとは思わない。でも海都によれば下位能力者の子は中位能力者専用のお店は品揃えが悪いし高いから、絶対に行かないらしい。
「胡桃はおしゃれに興味があるんだね。私と桜夢は制服かジャージしか着ないのに」
別におしゃれをしたいわけではないので、支給された制服とジャージだけで問題ない。
まあ高位能力者になると支給された物以外は手に入れてはいけないことになっているので、それに比べるとましかもしれない。でも私は興味がないから、支給された物だけで生活している。
「中位の特権だしね。まあせっかくきたんだし、入ってよ。この前2人が来たときから、模様替えしたからさ」
誘われたので、百々先輩に続いて胡桃先輩の部屋に入る。
胡桃先輩と一胡先輩の部屋は、私と百々先輩の部屋とは比べものにならないほどおしゃれだ。
なんなら一胡先輩が使っていたところも、胡桃先輩がおしゃれにしている。どこで手に入れたのか分からない可愛いイラストが貼ってあって、なんだか賑やかだ。
一胡先輩のスペースは緑が主体のシンプルなデザインだけど、そこに今は華やかな花が飾ってある。
「もしかしてさっきまで一胡のところにいた?」
百々先輩は一胡先輩が使っていたベッドを見ている。確かに一胡先輩は亡くなっているというのに、ベッドの上は使用感のあるふうなぐちゃごちゃだ。
「せいかーい。今なら使っても怒られないしね。百々と桜夢もおいでよ」
確かにもう一胡先輩は亡くなっているから、ベッドを勝手に使っても怒らないだろう。
胡桃先輩、百々先輩に続いて、私も一胡先輩の使っていたベッドに行く。一胡先輩のベッドもロフトベッドなので、階段を使わなきゃいけないのがめんどくさい。
「私ここでよく考えるんだ、なんで一胡は自殺したんだって」
三角座りをして、胡桃先輩は遠くを見る。
誰にも分からない。なぜ一胡先輩が自殺したのかなんて。遺言が見つかっていないから、これは仕方ない。
「本当になんででしょうね?」
胡桃先輩の隣に百々先輩が座り、その隣に座って遠くを見る。
一胡先輩が自殺したのは昨日だ、それもあって今日は学園と能力の練習は休み。
でも明日からは普通に学園はあるし、能力の練習する時間はあるし、そう何も変わらない。
一胡先輩が死んでも、私の生活は変わらない。
「だから一胡が死んだ理由、私は知りたいよ」
百々先輩も遠くを見ている。
でもどうやって一胡先輩が死んだ理由を知るのだろうか? 私には無理だ。




