5.Cafe Time with you(29)
29.心の安寧を求めて
ハア ハア ハア ……
私は、走っていた。
どこに向かうとか、何にも考えていなかった。
プルプルプル…… プルプルプル…
スマホに着信音が鳴る。
兄からだ。
「お、お兄、ちゃん……」
『瑞葵!今、どこにいる?』
「えっと、どこ、だろう。急いで出てきたから……わかんない」
『瑞葵……。もしかして、会った、のか』
「お兄ちゃん……」
兄は、何を言っているのだろう。
“会う”って?
何を、知っているの?
疑問は山のようにあるけど、今はそれどころではなかった。
私は、スマホを握りしめ、その場でしゃがみ込み、声を絞り出した。
「お兄ちゃん……。――助けて」
その後、場所を言ってもいないのに兄が駆け付けてくれた。
「瑞葵、迎えに来たぞ。行こう」
「お兄ちゃん……。どこに、行くの?」
「今は、秘密だ。大丈夫。安全なところだから」
「わかった……」
兄は、私を抱きかかえ、黒いバンに乗り込んだ。
誰かの運転で車が目的地へと向かった。
途中、サービスエリアで休憩を挟みながら、数時間かけて山奥に着いた。
「お兄ちゃん、ここって……」
目の前のログハウスを見上げて戸惑った。
「あ、思い出した?うちの別荘だよ」
そう、ここにはよく来ていた。
あの日も、ここからの帰りだった。
楽しい時間が、ここに詰まっている。
私の安全地帯。
「うん。お父さんとお母さんの、想い出の場所だね」
ゆっくりとログハウスへと足を動かす。
玄関扉の横にある柱には見覚えのある節がある。
家の周りを走りまわってよく怒られた。
「お父さん……。お母さん……」
あの楽しかった日々を思い出し、感情があふれ出す。
「うわあああああ!どうして!!」
両腕をギュッと自分で抱きしめ、泣き叫んだ。
喉が枯れるまで、大声で――。
兄はそっと近づき、抱きしめてくれた。
私達はこの日、消息を絶つことにした。




