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飲めるあたたかさになるまで ――あなたの隣に、いてもいいですか。ずっと――  作者: 蒼宙 つむぎ


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5.Cafe Time with you(28)

28.キョウコ


 お兄ちゃんたちの親友の蓮さんが目を覚まし、“Frontier World Online”のリリースが決まった。

 大体的にCMが放送されることとなり、哲平さんはタレントさん達をもてなしたりと忙しそうにしている。

 兄も仕方なく一緒に出掛けたのだが……。

 早い時間に帰ってきた。


「お兄ちゃん、早かったね」

 声をかけると、疲れた顔をした兄が力なく笑った。

「うん。疲れたんだ……」

 珍しかった。

 兄がそんなこと言うなんて、いつぶりだろうか。

「……どうか、したの?」

 心配になったから、少しでも力になりたい。

(いつも助けてもらってばっかりだから、今度は私が)

 でも、兄から出てきた言葉は意外なものだった。


「……瑞葵。引っ越し、しようか。どこかゆっくりできるところに行こう。会社も辞めて、俺と会社を起こしてもいいな」

 話し始めるときは詰まっていたのに、早口で言葉がどんどんと紡がれる。


「お兄ちゃん。どうしたの?引っ越し?会社を辞める?会社を起こす?何を言ってるの?」


 兄の言葉は、無責任だと思った。

 いきなり会社を辞めるなんて、そんなことは許されない。

 辞める理由なんてないのだから。


「瑞葵。頼む。俺の言うことを聞いてくれ。……頼む」

 泣きそうな顔で、縋るように言う兄。


「なんで?……理由、聞きたい」

(訳も分からずなんて、無理だよ)

 私は、まっすぐ兄を見つめた。

 兄は、何も言わず、出て行ってしまった。



 翌日、私はいつも通り出勤した。

 いつもと変わりなく朝の挨拶をし、サイドデスクからマグカップを取り出した。

 そして、お気に入りのCafé Latteを入れる。


 私は、いつもと変わらない日々がずっと続くと、――思っていた。



 軽やかな足取りで自席に向かおうとしていた。

 スマホに兄からのメッセージが届く。


 “今どこにいる?お願いだから、帰ってきて”


 私は、ため息をついて返信せずにポケットにしまう。

 その時に、珍しくポケットに入れていた家の鍵を落としてしまった。

 大事なお母さんが作ってくれたマスコットの鈴が、チリンと鳴った。

 慌てて拾い、顔を上げた先に人だかりができているのを見つけた。

 そして、気になって覗いてしまった。



 どうして、覗いてしまったんだろう。

 なんで、幸せな日々は続かないのだろう。



 壁に張り付いた健太郎君に、

 綺麗な女性が抱き付いている。


 メリハリのあるボディーラインを際立たせる服装は、その人に似合っていた。

 長い黒髪は手入れが行き届いていている。目鼻立ちのはっきりとした顔に真っ赤な口紅が引かれている。


 誰なんだろう……。

 どうして、健太郎君に寄り添っているのだろう。

 思考が、――追い付かない。



「健太郎君、私のものになりなさい」

「嫌です。俺はものじゃない」

「可愛いこと言うのね。でも、私は気に入ったものは手に入れないと気が済まないのよ。諦めなさい」


 その女性は、そう言って健太郎君のネクタイを引っ張り、――口づけをした。



 頭が、真っ白になった。

 体が、お腹の中から冷えていく。

 手の感覚が、おかしくなって、手に持っていた鍵を落としてしまった。


 カシャン!


 鍵と鈴がぶつかり、音を立てた。


 口づけしている二人がこちらを向く。

 健太郎君の口には、くっきりと赤い口紅が付いている。


 胸が、苦しい。

 息が、できない。

 目の前が、歪んでいく。


「どうして……」


 音を成した言葉になっていただろうか。

 それすらも、わからない。



「ハハハ!面白い子がいるじゃない」

 その人が、ピンヒールをカツカツと鳴らせ、優雅にこちらに向かってきた。

 鍵の前で立ち止まり、左口角を上げ、悪意の籠った言葉を吐く。


「瑞葵ちゃん。まだこんなダサいもの、持ってるんだ。ゴミ箱に捨ててやったのにね」


 恐怖の場面がフラッシュバックする。

 小学生のかくれんぼ。

 大学生になった時にキーホルダーを捨てられたこと。

 忘れたと思っていたのに。


 思わず後ずさり、持っていたマグカップを落とした。


「キョウコ、ちゃん……」


 名前を呼んだ。

 彼女は、大きな弧を描いて笑う。


「久しぶりね。クソブスないじめられっ子さん」


 そう言って、キーホルダーを思いっきり踏みつけた。



 ひゅうっと引きつるように息を吸い込んだ。

 目が、怒りで脈打つ。


「やめて!」


 彼女の足を払いのけ、キーホルダーを拾い、私は外へ逃げた。


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