同盟暦512年・脱出行4
ポー達が王都ランゴバルドを脱出して三日目。
不眠不休で走り続けて、仲間も馬も疲労の極みにあった。
「…………ん?」
ポーの胸に抱きついていたクーリーが匂いに気づく。
「クーリー?」
「…………あっち。水匂いする」
クーリーが指し示した方角は奇しくも惑い魔女の森の方角だった。
「テュルパン様!」
「皆、限界ですね。森に入る前に一休みしましょう。リッヒンデル、歩哨を立てて交代で休ませるように」
「はっ!」
一行は進み、川辺に到着すると馬から崩れ落ちるように降りた。
テュルパンとリッヒンデルはピンピンした様子で周囲を警戒している。
ポーはクーリーに休むように言い、自身は馬車へ近付き呼びかけた。
「アーネスト」
「…………なに?」
顔を出したアーネストも普段の快活さはなく、酷いクマができた目でポーを睨んだ。
「姫様のご様子は?」
「眠っておられるわ。だから起こさないで」
アーネストは背を向けて、動きを止めた。
「…………ポー」
「…?なに?」
「……………………あんたは……悪くないからね」
「俺の責任だよ」
ポーはぽつりと呟いて馬車から離れた。
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配られた旅用の堅パンを水にひたしてやわらかくして咀嚼する。
「ーーー………」
ポーもレオリックスもクーリーも苦虫を噛み潰した顔で堅パンと格闘する。
「…………まずい」
「言うなよ……言わないようにしてたのに……」
「ほら、干し肉もあるよ」
クーリーは干し肉にかぶりつくも再び苦虫を噛み潰した顔。
「…………くさい」
「スラム街で売ってた干し肉だからな。なんの肉かもわからないし。ま、想像はつくけどな」
「…………うぇ」
おそらくは犬か猫か鼠かの肉だろうとポーは考える。
普通は口にするようなものではない。
けれどあの荒れ果てたスラム街ならばこれもご馳走かもしれない。
「…………狩りする」
「今は駄目に決まってるだろ。全ては森に入ってからだ」
堅パンを水で腹に流し込んで食事を終えた。
「ポー」
「はい」
テュルパンは"魔法造りの剣"をポーに預けた。
「これは…焔の拵え。ダミートリアス様の…」
「姫様から離れないように。この剣で御身を御守りするのです」
グッと力を込めてポーは鞘を握った。
「必ずっ」
テュルパンは微笑み、自身の腰に下げた剣、アルマスの柄を軽く叩く。
同じく"魔法造りの剣"であり"施しの拵え"と言われる。
その時、警戒に当たっていた騎士が走ってきた。
「テュルパン様!鉄王冠の旗を掲げた騎馬隊が近付いています!」
「早いですね。皆、覚悟を決めなさい。これより森へと踏み入ります」