同盟暦512年・旅立ち、ロブホーク編4
「ボロボロ」
クーリーは焼けたばかりの串に刺さったメナイアを見て開口一番言った。
暖炉で焼かれたメナイアの串焼きの半分が身が崩れてボロボロだった。
四苦八苦して串に刺したベアトリスが用意したものだ。
「ご……ごめんなさい………」
ベアトリスは心底申し訳ない顔だ。
「初めてだったんだから当たり前ですよ。むしろ上出来です上出来!」
アーネストがベアトリスを励ます。
「味は問題ないですから」
「モグモグモグ」
「クーリー、人の分まで食うなよ」
アーネストは人数分の深皿に鍋で煮込んだシチューを盛って配る。
雪兎の肉を牛乳で野菜と一緒に煮込んだものだ。
塩と胡椒、少量のチーズを溶かし込んである。
スプーンですくって口に運ぶ。
まろやかでクリーミーな味わい。
淡泊な雪兎の肉は柔らかく煮込まれ、野菜は適度な歯応えを残しつつ、スープがよく染みこんでいる。
「こりゃ旨え!」
「うまうま」
レオリックスとクーリーは美味に驚き、手が止まらない。
アーネストは料理上手である。
ポーは久々に口にしたアーネストの料理に顔が綻ぶ。
「お嬢様、口に合いますか?」
「ーーー………とても……おいしいです……」
「よかった!お嬢様、もっと食べて下さい!まだまだありますから!」
「「いわれずとも!」」
「あんたたちは遠慮しなさいよ!」
皿を即座に差し出したクーリーとレオリックス。
すでに二人は何杯もお代わりしており、アーネストは呆れた。
ベアトリスを気遣いながらも久々の騒がしい食事にポーは微笑む。
肉を除け、他の具材を食べ終えた皿を置くとポーは立ち上がる。
「どうしたの?」
「ちょっと考えたいから外にいるよ」
ポーは外套を着込んで家を出た。
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空は夜に閉ざされ、星々が煌めいていた。
「…………」
息を吐けば白く染まる。
肌を刺すような北の寒さは北方人にとってゆりかごのようなものだと言われる。
豊かではない。
恵みの少ない。
それでも北方人がこの大地を離れないのは、愛しているからだ。
「…………北の人間は恨みを決して忘れない」
腰の剣を抜き、空を切るように振るい、身体は舞う。
無心に身体を動かす。
騎士の叙勲を受けた叙任式では新人騎士の代表者が、祖霊に騎士団伝統の剣舞を披露する習わしがある。
ポーは一年前の叙任式で剣舞を舞った。
その見事な舞に賞賛を浴びた。
中でも特に讃えたのが、ダミートリアスとベアトリスだった。
背後から足音が聞こえ振り向くと、ベアトリスがポーを見つめていた。
「……きれい……ですね……なんど見ても……」
「おじょう…………」
「ヘア…と呼んでもらえませんか……?」
ベアトリスの頼みにポーは戸惑う。
何も知らない子供時代ならともかく、ポーは今は立場も身分も理解している。
「アーネスト…クーリーちゃん…ホルト卿にもお願いしました。私をヘアと呼んでくださいと」
ポーは苦笑した。
アーネストとレオリックスはさぞ困惑しただろうと察する。
「クーリーちゃんは…すぐに呼んでくれました……」
嬉しそうなベアトリス。
「……ヘア。君に聞きたい事がある」
「……なんでしょう……?」
「どうして僕達の旅に同行しようと思ったの?」
ベアトリスの瞳にはっきりとした虚無の色が浮かび上がった。




